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三の2・マラチオン男の勘違い

三の2・マラチオン男の勘違い

 その数日後、面会に臨んだ本誌記者は、逮捕直後から姿を消した家族の近況を訊いた。

「今つながっているのは女房だけです。親、兄弟、息子、みんなに手紙を出しましたが誰も面会に来てくれません。でも、女房にしても怒っているので下着や服は差し入れてくれますが、面会には来ません。

この間女房からは『別れたい』と書かれた手紙をもらいました。「ここを出るまでちょっと待ってくれと返事を書きましたが、ハンコを押すことになると思います。

家のローンもまだ10年以上残っていますが、もう売るしかない。当然自己破産です」

 哀しげな表情でそう語る阿部被告は、一転、饒舌にこんなことを語り始めた。「本を出したいんです。それで、迷惑をかけた分を売り上げで返したい。

 逃走のことや自分のチック症状のこと、今までの喜怒哀楽をすべて書きます。そのために日記もつけています。はっきり言って売れると思うんです。警察の人も売れると言ってくれています。

タイトルももう考えました。『マラチオン男と呼ばれて』

 同じ『アベ』である『安部譲二』さんの『塀の中の何とか』見たいに、映画化、ドラマ化も狙ってますよ。それで『時の人』になって、ゆくゆくは、ビートたけしと対談したい。

私はお笑い芸人が好きなんです。有名になれば女房も戻ってきてくれるはず・・・」記者を圧倒する迫力でまくしたてる阿部被告。

孤独な留置所で「妄想」はとどまることなく膨らんでいるようだ。

 次いで、今一番心配なことを尋ねた。

「工場のラインがとまっていることです。一刻も早く動かしてほしい。同僚たちは『阿部さんも被害者ですよね』と言ってくれているそうです。その人たちに申し訳ない」しかし、いまだ操業停止が続く工場では、従業員の4分の1にあたる66人が3月末までに自己都合で退職を希望した。

 これも阿部被告の行動によって引き起こされたものだ.本誌記者が別れ際、「事件の背景に格差社会があるといわれているが」と問うと阿部被告は手を打ってこう答えた。

「はい。それもあります。それを本に書こうと思います・どうぞよろしくお願いします」  四へ続く

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