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こころの除染という虚構154

こころの除染という虚構

154

 実はこの10人の中に高橋徹郎もいた。徹郎はこう話す。

「私が最後の証人だった。東電の代理人がこだごど(こんなこと)、言ってきたんだ。ふざけてんだ」

今も思い出すと腸が煮えくり返るようだと徹郎は言う。年配の女性弁護士がおもむろに質問した。

「あなたはお金が出たら車を買うんですか?」

聞いた瞬間、プチっと何かが徹郎の中ではじけた。おいらの受けた苦しみ、理不尽な扱いをこうやって、東電はせせら笑う。しょせん、金が欲しいだけなんだろうと小馬鹿にする。ふざけんな。お前らに何がわかるか。やけ酒も増えたし、体調もおかしくなった。そこまで追い詰めたのはどこのどいつだ!自分だけならまだしも子どもが傷つけられたんだ!

急ごしらえの法廷で、徹郎は吠えた。

「ちょっと待て、このばばあ。何、言ってんだ!ふざげだごど言ってんなよ!」

終了後、徹郎は大波に謝った。

 

「カーっとしっちまった。俺切れたから、金は出ぬかもしんねえよ」

11月26日、東京で第5回進行協議を終え、審議は終了となった。12月になり和解案が出そうだという声が聞こえ始めていた。喜明はたまたま東京にいた。

「弁護団に用事があって上京したのですが、和解案が出そうだと聞いてドキドキでした。仮に賠償が出たとしても差がついたらどうしようって。ずっと、弁護団には言い続けてきたんです。『俺は金が欲しくてやっているわけじゃない。このコミュニティ、どうすっかでやってんだ』って」

この日、弁護士に喜明は聞いた。

「東京の景気は今どうですか?」

「いやあ、あまり良くないですよ」

喜明は文字通り、崖っぷちにいた。

「万が一、申し立てが通らなかったら、議員は続けられないし、3000万円の借金をみんなに背負わせることになる。だからその時は、東京に出て働こうと思って聞いたんですが、景気は良くないっていうし、これからどうするか?すぐに私の選挙でしたから」

夜、ビジネスホテルにいた喜明に弁護士から電話があった。

「出ました!和解案。7万、一律ですよ!すごいですよ!」

瞬間、腰が抜けそうになった。

「一律って聞いたんで、それが一番でした。満額ではない、70%ではあるけれどそれでも一律だったので本当にほっとしました。すぐに栄之助さんに電話を掛けました。栄之助さんは『お前には苦労を掛けたな』って言ってくれました。これが私の選挙の4か月前、ほんと、勘弁してくださいです」 続く

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こころの除染という虚構154

こころの除染という虚構153

8・手にした勝利

 2013年2月5日に、原子力損害賠償紛争センターに対して行った小国地区住民を中心とした集団和解申し立て(ADR)は、「進行協議」と言われる非公開の法廷を中心に審議が続いていた。事務局を担った市議、菅野喜明は言う。

 「裁判官役の弁護士と東電と、我々と2か月に1回、法廷を開く。7月からは我々も、発言はしない、という約束で、傍聴できるようになりました。執行協議は基本、東京で行われるものです」

 

小国地区復興委員会委員長の大波栄之助も、何度か東京に足を運んだ。

「東京に出張しても、まず、食堂で食わねえ。駅弁だもん。缶ビールも飲まない。立場が立場だから。住民のお金を使ったんだろうってなるから。ちゃらちゃらしたことをやってたら、何やってんだと言われる」いつからか勝利を予感する兆しを感じるようにもなった。喜明は言う。

「第4回の進行協議を私と副委員長とで傍聴に行ったのですが、女性の裁判官役の弁護士が我あれの窮状をつらそうな顔をして聞いていて、副委員長が、これはいけるんじゃないかと」

縁の下の力持ちの苦労も相当なものだった。

 

「苦労したのは配る資料の印刷です。8000枚コピーをとりましたから。ニュースを出すことにしたんです。情報を共有していないといけないので。それと、一世帯ごとの資料が正確であるかのチェックも、当時、青年会議所の理事長もやっていたので、寝る暇がない時もありました。

精神的な疲れは感じていなかった。必死だったんでしょうね。日本のために。この制度(特定避難勧奨地点)をこのまま残したら良くないって。めちゃくちゃになったコミュニティを立て直すには、とにかく勝ちとるしかないって」

大波も同じ思いだった。

「いろんな話を聞きましたよ、『旦那は毎晩通帳見てニヤニヤしてる』とか、『普段は出歩かない人が歯医者に通っている』とか、『同じ車種で新車にした』このままでは将来、指定になった人が被害者になる。最後まで恨まれるわけだから。指定は4分の1程度。多勢に無勢で、一生『お前はもらったんだから』と言われ続ける。この訴えがなければ、将来。「地点になった人」が被害者になることは目に見えていた」

東電は行ってきた反論は「福島市の方が線量が高い」という事だった。

喜明が解説してくれた。

「福島市は『地点』になっていないし、避難もしていない。避難の指定を受けない限り、自主避難地域と同じだから倍賞の必要がない。東電はすでに住民に慰謝料を払っている。これで十分だろう。なんでこれ以上要求するのかと、こういう東電の主張を逐一、論破していきました」

委員会が撮影したビデオによる現地調査に続き2013年11月13日には福島市民会館で、小国の住民10人への口頭審理が行われた。続く

 

 

 

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こころの除染という虚構152

こころの除染という虚構

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 市長選の1年半前、2012年9月に、Cエリアの除染は、「各総合支所長を本部長にした『除染推進委員会』を設置して除染の取り組み体制や、仮置き場の検討をしていただきたい」(「だて市政だより」9月28日発行)という方針のもとに、立ち上げられた委員会がある。伊達市への情報公開請求で、各支所の除染推進委員会の会議録を入手した。

 梁川総合支所除染推進委員会の初会合は2012年9月7日。

伊達総合支所は、同10月19日。

霊山総合支所は、10月29日。

保原総合支所は、11月7日。

梁川支所以外は、委員会のメンバーの名簿が会議録に添付されており、名を連ねているのは行政区長や、町内会長たちだ。

月舘支所にはCエリアがないので別格として、どの地区の除染推進委員会も2014年1月以降、1度も会議がもたれることなく、閉会を宣言するわけでもなく、立ち消えの状態になっている。

  では、この1年3か月の間に、何度会議が開かれたのか。

伊達支所  7回

保原支所  4回

梁川支所  3回

 霊山支所は 1回

 最後の会議に残されている記録は、どこも一緒だ。それが1月17日付、「Cエリアの除染に関する調査のお願い」だ。

このCエリア住民に配布されたアンケートを最後にその委員会には活動した形跡はない。

  アンケートばかりか、この委員会も、Cエリア除染をカモフラージュする壮大な「アリバイ」だったのか。

  仁志田市長の選挙公報に、大きく掲げられた公約。

Cエリアも除染して復興を加速。共同の力で『健幸都市』伊達市を更に前進させます」

Cエリアも」という表現。これは、CABと同じような除染が想定されていると理解するのが、素直な文意の取り方ではないか。

更にホームぺージで明らかにしたマニフェストにはこうある。

Cエリアを除染して放射能災害からの復興を加速」

 1月26日仁志田市長は対立候補の元市議・高橋一由を約3000票差で破り,3選を果たした。

高橋候補の応援に回った市議、中村正明は2016年秋の取材で、このように振り返った。

「勝てなかったのは悔しかった。だけど高橋さんと話したんですよ。『市長も考えを変えたからよかったねCエリア除染を獲得できたから選挙を戦った甲斐があった』と。本当にあの時はそう思ったんです。それが選挙から3年たっても、宅地の面的除染は行われない。宅地をやらないで側溝をやっている。これから農地や道路も始まるでしょう」

Cエリアも除染して」と掲げたにもかかわらず面的な除染をしなかったことについて対応した半澤隆宏はバッサリと切り捨てた。市長選から2年後の2016年2月1日のことだ。

「全面除染を市長が公約に掲げたと?掲げていません。どこにも書いていません。後援会のパンフレットに『Cエリアも除染して』 とは書いていますが

Cエリアも全面除染して』とは書いていない。Cエリアも除染はするんですよ。それがホットスポット除染です。だから、それは取りようなんです」 続く

 

 

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心の除染という虚構151

 

こころの除染という虚構

151

2016年2月1日、市長直轄理事兼放射能対策政策監となった半澤隆宏を訪ね、Cエリア除染について聞いた。半澤はこの市民の「順番だ」という認識を否定した。

「24年の8月に除染実施計画第2版』を出したときに、スポット除染も出しているんですよ。その時にCエリアを回って説明してそれでいいとなったんですよ。だから『Aやって、BやってCだね』なんて冷静に思っている人は、2011年と2012年の時には誰もいなかったって、私、断言します。Cの人は『高い人はかわいそうだない。うちはやんなくていいから。どうせ自然に下がっていくもんね』って言ってたんですよ」

半澤はさらに語気を強めた。

「『Aやって、Bやって、つぎにCだ』なんて思っている人はいませんでしたから。これは絶対です。断言します」梁川地区が地元である市議、中村正明に尋ねたところ、この半澤の発言に大きく頭を振った。

「とんでもない。Cエリアは、いずれはABと同じように汚染されるというのが、住民の認識ですよ。どこに行ってもこう言われるんです『なんでやんねんだい?』『一体いつになったらCエリアは除染を哉んだい?』って。梁川や保原の人たちはおとなしいんですよ。我慢している、抑えているだけなんです」

Cエリアの人たちが希望を託したアンケートだったが、。

答の締め切りは210日。

市長選は126日投票日

とっくに選挙の結果が出ている日程が設定されていた。

しかもこのアンケート結果が公表されたのは424日発行の『だて復興・再生ニュース』誌上。年度も変わった、3か月後のことになる。

 何のために行われたアンケートだったのか。市長選を有利に進めるために「Cエリアも除染するんだ」と多くの市民が誤解してくれることを期待してのものだったのか(その通り👈永人)。

この後公約違反だと多くの批判が伊達市に渦巻くのだが、それはあまりにも当然のことだった。続く

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こころの除染という虚構150

心の除染という虚構

150

真理がCエリアはホットスポットしか除染しないことを知ったのは、前年9月に業者がモニタリングに来た時だった。

「いきなり、業者に『3無いよ。3以上のとこだけ、除染するから』って言われて、いつから変わったのかってびっくりした。私ずっと順番だと思っていたから。でもそれはみんな、高いところからやっていくって。ABCは順番だよねって」

 真理はガス検診の仕事でAエリアもBエリアも担当だったため、それぞれの除染も何となく目にしていたし、Bエリアでは住民ともよく話をした。

 Bエリアの人が、娘さんのところは同じBエリアだけど、業者が違うからちゃんとやってるって。でも私はやってもらえるだけいいと思っていた。

 2013(平成25)年9月9日、川崎家の「Cエリア2次モモニタリング」の記録には、このような数字が並ぶ。受託業者はアトックス。放射線測定のプロだ。

0・63、0・55、0・51、0・45、0・43、0・51、0・49。

これは家の周囲の1メートルの高さの空間線量だ。真理は言う。

Bエリアのその家は、0・5で除染してもらっていました。その時うちは0・6あった。うちの方が線量は高いし、子どももいる。その家の人も疑問に思ってくれていた。でも『いずれやってもらえる』って思っているから、色々アドバイスをくれるんです」

「その日は仕事を休んででも立ち会った方がいい」

「何も言わないと適当にやられる」等など。

Bエリアの住民から真理が受けたアドバイスだ。Bエリアの住民も自分のところが済めば、次はC

エリアの除染が始まると思っていた証だった。

 しかし、実際に業者に言われたのは、地表3マイクロシーベルと以上なければ「しない」と。

 「玄関の前、物置の雨どいの下が、地表で2・8マイクロだったんです。

『ここは、子どもが毎日通る場所だから除染してください』と言ったら、工事の人『本当はダメなんだけど特別だよ』とその上に砂利を敷いて帰った」

その後、真理は、その表面の砂利の下にある2・8マイクロを発する土壌を自分で取り払い、その上にきれいな砂利をかぶせた。 続く

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心の除染という虚構150

心の除染という虚構

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 真理がCエリアはホットスポットしか除染しないことを知ったのは、前年9月に業者がモニタリングに来た時だった。

「いきなり、業者に『3無いよ。3以上のとこだけ、除染するから』って言われて、いつから変わったのかってびっくりした。私ずっと順番だと思っていたから。でもそれはみんな、高いところからやっていくって。ABCは順番だよねって」

  真理はガス検診の仕事でAエリアもBエリアも担当だったため、それぞれの除染も何となく目にしていたし、Bエリアでは住民ともよく話をした。

 Bエリアの人が、娘さんのところは同じBエリアだけど、業者が違うからちゃんとやってるって。でも私はやってもらえるだけいいと思っていた。

 2013(平成25)年9月9日、川崎家の「Cエリア2次モモニタリング」の記録には、このような数字が並ぶ。受託業者はアトックス。放射線測定のプロだ。

0・63、0・55、0・51、0・45、0・43、0・51、0・49。

これは家の周囲の1メートルの高さの空間線量だ。真理は言う。

Bエリアのその家は、0・5で除染してもらっていました。その時うちは0・6あった。うちの方が線量は高いし、子どももいる。その家の人も疑問に思ってくれていた。でも『いずれやってもらえる』って思っているから、色々アドバイスをくれるんです」

「その日は仕事を休んででも立ち会った方がいい」

「何も言わないと適当にやられる」等など。

Bエリアの住民から真理が受けたアドバイスだ。Bエリアの住民も自分のところが済めば、次はCエリアの除染が始まると思っていた証だった。

 しかし、実際に業者に言われたのは、地表3マイクロシーベルと以上なければ「しない」と。

 「玄関の前、物置の雨どいの下が、地表で2・8マイクロだったんです。

『ここは、子どもが毎日通る場所だから除染してください』と言ったら、工事の人『本当はダメなんだけど特別だよ』とその上に砂利を敷いて帰った」

 その後、真理は、その表面の砂利の下にある2・8マイクロを発する土壌を自分で取り払い、その上にきれいな砂利をかぶせた。 続く

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心の除染という虚構149

こころの除染という虚構

149

7・選挙前の「変心」

2014年(平成26)は市長選とともに明けた。4月18日朝日新聞全国版4面にこんな見出しが踊った。

「伊達市長、選挙前の変心」

除染対象「5ミリ超」⇒「1ミリ以下も」

立候補予定者の「全戸徹底」受け

「対象を限定する独自の除染を進めてきた福島県伊達市が19日告示の市長選を前に方針の転換を迫られている。除染の進み具合や復興の遅れへの有権者への不満から県内の首長選で現職落選が相次ぐ中、3選を目指す現職は、従来の方針を撤回し、対立候補予定者と同じく『全戸除染』を掲げる。

仁志田昇司市長(69)は8日、『全戸除染を標榜する候補予定者に納得する有権者も増えているのに、我々の考えを押し通すのもどうか』と、住宅を含む1ミリ以下の市内全戸を除染対象にする考えを示した。昨年12月に新顔で元市議の高橋一由氏(61)が『全戸の除染』を掲げて、立候補表明をしたためだ。

  仁志田氏の後援会幹部は『現職批判が強い中、支持が広がらない。支持者からも、なぜ全戸除染をしない、と文句が出た』と仁志田氏に転換を迫ったことを打ち明けた。

この選挙戦告示直前、1月17日の日付で、「Cエリアの除染に関する調査のお願い」と題したアンケート用紙が、Cエリアの住民に配布された。

Cエリアにつきましては、全体的に線量が低い地域でありますので、局所的に線量の高い『ホットスポット』の除去を中心とした作業を行っております。事前のモニタリングの際には、皆様にご協力いただきありがとうございました。

しかしながら、ここのような『ホットポット』の除去のみでは不安であるとの声が寄せられております。したがいまして、新たな対策を実施するためCエリアの皆様に今後どのような放射能対策を望まれているのか調査することといたしました」

 不安が寄せられている。「従いまして新たな対策を実施する」。この文面から読み取れるのは、CエリアでもABと同様、宅地を面的に除除染すると伊達市が考え直しているということだ。

川崎真理もまさにそうとらえた。

「このアンケートを見たとき、伊達市はCエリアの除染はやらないと言っていたけど、やるんだなと思った。だって、どのような対応を希望するのか聞いてきているから。だから、この時に全面除染をやってもらおうと思って、頑張ってアンケートに書いたんです」 続く

 

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こころの除染という虚構148

こころの除染という虚構

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 それほどまでに遺伝だと言うのならと、真理も真理の実母もエコー検査を受けた。

「遺伝なら私もハチの巣状じゃないですか。私の母だってそう。でも検査の結果、私は嚢胞が二つあっただけ。母も年齢相応の嚢胞があるだけで、ハチの巣状ではなかった。

医者は『遺伝ではないみたいだね』と言ったけれど、それでも原発のせいではないと言う。

じゃあ、この子が持っている、もともとの体質が蜂の巣状なのか。それは永遠にわからない。私が一番知りたいのはそこなんです。震災前の詩織の甲状腺の状態です。もともとそうなら、事故とは関係ないんだからそんなに心配することはないんだと安心できます」

 事故当時18歳以下の子どもに行われている県民健康調査の甲状腺検査では、1巡目(平成23~25年度)の先行検査で116人。2巡目(平成26~27年度)の本格検査で68人に「癌ないし癌の疑い」が出ているが、県も県立医大も原発事故との因果関係を否定し、スクリーニング効果で将来がんになる患者を早めに発見している、という姿勢を今でも崩さない。(従来は、人口200万人に対し子どもの甲状腺癌は1人だと言われて来たそうだが、68人は、福島県の人口を1億3千600万人と見た時の罹患率だ。福島県の当時の人口、約194万人からは、小児甲状腺がん68人は、到底あり得ない数字だ。1人がやっとのはずだ。誰が考えても、原発との関連はあまりにもはっきりしている👈永人)

 あるいは手術は過剰医療だと。そうであるならば、詩織もスクリーニング効果の表れなのか。真理の苦しみはひとえにそこにある。

 「原発事故前の詩織のデータを知れば安心できます。この子はこういう子なんだってわかるから。

でもいきなり放射能が降ってきて、その結果異常な数値になっているのなら話は別です。これだけ甲状腺がんの子どもが出てきても、医大は大丈夫だという一点張り。詩織だってこれだけ異常な値であっても大丈夫だと言われる」

真理は唇をかむ。

「さっき私がつらかったと話しましたが、私なんかより娘のほうがひどかったと思う。とんでもない辛さを娘に味わせてしまった。原発事故がなければ、こんな気持ちを味わうこともなかったのに。『私、死んじゃうかも』なんて思わなくていいんだから。

 ドラえもんの「どこでもドア」が欲しいと真理はひたすら願う。

「『どこでもドア』で原発事故の前に戻って、私は娘の甲状腺を調べたいんです。この間、娘のことで強く感じたのは、何かを隠されているという事です。通知1枚でほったらかしにされて、病気になっても原発は関係ないってそれで終わり。今や、伊達市は『安心・安全』ばっかり。ここで暮らすつもりなら従えと。もう事故なんて終わっちゃったというように」

普段はおっとりと穏やかな真理が、強い意志をたたえた眼差しをまっすぐ向け、きっぱりと言った。

いま全国で原発近くに住んでいる人たちは、子どもの甲状腺エコーと血液検査をしておいてほしい。

そうすれば私たちのように何かを隠されたままにされなくて済むから」 続く

 

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東京五輪をロンドンで・市長選主要2候補

 

ロンドン市長選挙2候補

ロンドンで五輪開催を!!

20・日刊ゲンダイ

東京の代わりにロンドンで五輪開催を

5月のロンドン市長選の主要2候補者が19日、日本の新型肺炎の拡大で、東京五輪が中止になった場合、ロンドンの代替え開催を訴えた。保守党公認のベイリー候補は、ツイッターで「新型コロナウィルスで、世界は我々の介入を必要とするかもしれない」

「ロンドンは再び五輪を開催できる」と表明した。一方労働党のオーン現ロンドン市長も、地域紙で代替え開催を示唆した。

英国では集団感染が起きたクルーズ船・ダイヤモンドプリンセスへの日本政府の対応をめぐり、「東京五輪に先立って、新型ウィルスの拡散を抑える能力に疑問がある(大手紙「i」電子版)などと批判する声がたかまっている。

 

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こころの除染という虚構147

         こころの除染という虚構

          147

 あれは何度目の取材だったろう。中学2年になった詩織が真理への取材中も居間にとどまっていた。ボーイッシュでまだ幼さの残るショートカットのほっそりとした少女。はにかんだ笑顔がとてもかわいらしい。

詩織は、「お母さんどんな話をしているのかな?」とばかり、宿題をしながら素直な好奇心のままに聞いているようだった。詩織も何となく会話に加わったその時、担当編集者が詩織に聞いた。

「『私死んじゃうのかな?』って思いましたか?」

私には発することができない質問だった。

はい、思いました」ふわっとしたやわらかな声。瞬間、胸がギュッと押しつぶされた。詩織は、きっぱりとそう答えた。小学5年生の時に自分の死を現実のものとして思ったと、目の前の少女が語っていた。

さらに編集者は聞いた。

『私、死んじゃうの?』ってお母さんに聞きましたか?」

それは聞いてないです

「死んじゃうかも、と思って眠れなくなりましたか?」

それはなかったです

その詩織の一言で部屋の空気がほっと和む。せめてそうであったならよかったと。本当にこの子

真理は言う

「本当にこの子、かわいそうだなって思うけれど、毎回の血液検査も嫌なんだけど、『ごめんね、でも詩織のためにやっていくしかないんだよ』って声をかけてやらせました。もし、異常があったとき、少しでも早く発見され、治療出来ればいいわけですから」

結局、「サイログロブリン」の値はその時が最高で上がったり下がったりを繰り返しながら、中2の今は正常値近くまで下がってきている。今は少し胸をなでおろしているが、あの時真理を苦しめたのは数値の異常な高さだけでなく、医師から決まって言われたこの言葉。主治医もそうだが、かかりつけの小児科医もこれは「遺伝だ」と断定する。 

「病院ではずっと遺伝だって言われ続けています。だから原発事故とは何も関係ないのだと」 続く

 

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