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こころの除染という虚構110

こころの除染という虚構

110

 

 例えば3か月前の1月26日発行の「だて市政だより」。市長はここで、ガラスバッジについて測定の結果について言及している。前年9月から11月まで3か月間の累積線量について、小国小学校のある霊山地域の平均値は0・71ミリシーベルトで、市内で最も高い。

ちなみに最も低い梁川地域は、0・17だ。

 霊山地域のデータは、年間3ミリシーベルト近い追加線量を示していた。しかもあくまで霊山地域の平均値だ。「地点」にならず、線量の高い地域で暮らす子供は現にいる。

 いくら伊達市の教育員会から屋外活動再開の指令があったとしても、一律に子どもに強いることではない。

PTA総会で示された保護者の要望を受けるかたちで

「学校における屋外活動の意向調査」実施の「お便り」が各家庭に配布された。そこには参考になる数値として。4月の放射線量が末尾に記されていた。

校庭中央で0・44~0・46マイクロシーベルト毎時。これは除染された校庭の中央という、最も低いと思われる場所での数値だ。「お便り」の裏には、文科省が提示した「計算式」に当てはめた「小国小において受けると思われる線量について」の計算が展開される。

学校生活を8時間(屋内で5時間、屋外で3時間)を過ごしたと仮定して)、最も高い数値で計算(校庭中央0・46教、教室央0・12)する。授業日数は年間200日。自然放射能、想定される内部被曝量も組み込んで式はできる。その式の答えは、学校における外部被ばく分0・274プラス内部被ばく線量0・030=0・0304ミリシーベルト毎時。そしてこの一文が添えられる。

「文部科学省が安全と考える基準、『年間1ミリシーベルト』の3分の一以下ぐらいになります」

5月初め、保護者への「お便り」で、意向調査の結果が公表された。

実家庭数、34人。うち、外での活動に

賛成であると答えた方・・・26人

反対であると答えた方・・・・2人

どちらにも記入があった、

またはなかった方・・・・・・6人

圧倒的多数の親が子供を外で活動させることを望んでいるという結果となった。

 「屋外活動が無くなり、子供たちがやや虚弱になっているような気がします。安全に対して十分に配慮されている学校ではぜひ屋外での活動を再開してほしいです」

 しかし、「賛成」だとしても、ほとんどの親に様々な躊躇がある。

「安全に配慮しながらやってほしいです。毎日ではなく、本当に必要な時だけにしてほしいです」 続く

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こころの除染という虚構109

こころの除染という虚構

109

「1人3万を払ってやるんですよ。万が一ゼロということもある。そうなると『お前が払え』となる。1000人だから3000万円、法的にはないとしても、道義的な責任は免れないし、結果3000万円の借金を背負うということも考えられた。

わたし次の選挙ないですね。私と栄之助さんは責任を取らされると思いました。地元にはいられなくなるだろうと思っていました。

これ、着手金の3000万円で賠償金を小国にもってこい、という話なんで」

100日以上休みのないのもざらだったと、喜明は汗をかきながら笑う。それでもやるしかない。それはひとえに地域コミュニティのためだ。そしてもう一つ、

「私は、ゆくゆく原発は全廃すべきだと思いますが原発が現にあって、こういう制度(特定避難勧奨地点)を残すと日本のために絶対良くないと強く思うんです。

 これだけめちゃくちゃな制度をつくって、住民に押し付けて誰も修正しない、異を唱えない、というのは将来の日本のためによくない。だから命がけですよ。

 こういう不正がまかり通るというのを、そのままにしていては絶対によくない。賠償請求だって小国ではだれも動こうとしないし、じゃあ、自分たちで何とかしなきゃ、ととにかくもう、必死でした」

 3公務員ですから

2012年、新年度が始まって間もなく開かれた、小国小学校のPTA総会で教頭は、保護者にこう通告した。

「新年度に当たり、1日に1時間を目安に屋外活動を行う方針です。あまりにも、唐突な屋外活動解禁通告だった。

 

会場にいた早瀬道子は、思わず耳を疑った。高線量故、指定にならず地域に残った子供たちの通学のためにスクールバスが運行されている地域だ。子どもたちを歩かすことができないほどの高線量の地域なのだ。

学校の除染がおこなわれたとはいえ、野外活動を解禁していいほど急に線量が下がったわけではない。なぜ年度が替わっただけで180度の方向転換ができるのか。

「保護者の思いを一度も聞いていないのに、どうして子供を屋外に出すなんて決まったの?こんなのありえない」

 

これまで小国小は「受ける必要のない線量は、できるだけ受けさせない」という考えで子どもを被曝から守ってきた。

学校側はこの考えに基づき、「必要な活動に限り、必要最小限の時間を考慮」すると説明するわけだが、そもそも違うだろう。

なぜわざわざ子供を外に出して「受ける必要のない線量」を浴びさせようとするのか。

 

道子をはじめ保保護者が護者たちは実際に屋外活動再開についてどう思っているのか、アンケートを取ってほしいと要望した。続く

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こころの除染という虚構108

こころの除染という虚構

108

 

 弁護士を呼び、八つの行政区で説明会を行い。『できるだけの人が参加してほしい』と呼び掛けたところ、住民の約90%に当たる1000人もが参加を表明した。

喜明は言う「『どうせだめだから参加するな』と妨害をする住民も居たし、指定になっていて、市から根回しされているような人も反対に回った。

『どうせ弁護士の金取りだ』と、脅す人もいた。

そういう中でこれだけの人の参加を得たのは、栄之助さんのおかげでした。大波栄之助という委員長への信頼があった。

あの人がやってくれるなら大丈夫だと、とんとん拍子に人が集まった。もっともそれだけ皆さん、頭へ来ていたわけですが」

大波は小柄な痩躯を傾け、おっとりと話す。

「ほれ、こっちには市会議員もいてまとめは上手だし、大河原さんは会社で賠償請求の経験がある。だから、すごく助かりましたね。参加者を集める苦労はそんなになかった。私がきるだけのことはやると約束したら、ありがたいことにみんな乗っかってくれました」こうして1000人もの人間が申し立てる集団和解申し立てという、これまでの原発事故がらみで最大規模のADRが行われることとなった。参加者の内訳は小国地区から900人ちょっと。石田坂の上地区から100人。月舘町の相葭地区から4世帯が参加した。

メンバーはそろった。当面必要になるのが弁護士への着手金だ。これをどうやって工面するか。

喜明は言う。「弁護団が住民説明会で、着手金に就てこう話しました。1人一律2万円。ここにプラス消費税。この着手金のほかに通信費が1万1人3万円1000円を出してくれと。さすがに出せる人はいないですよ。全員法テラスで借りてもらいました」

「日本司法支援センター 法テラス」は経済的に余裕のない人たちを対象に弁護士費用を肩代わりし、分割でその費用を返済することができるところだ。

大波が補う。

「当時、家庭の出費が大きかったですよ。

避難させていたり、野菜も買って食うようになった。農家のものが売れなくなったから、収入もない。現金で1人3万ずつ集めるのは難しかった」

法テラスの事務手続きなど事務作業を一手に担ったのは喜明だった。喜明にはいつからか、休みというものが消えていた。

それだけではない。恐ろしい借金を抱える可能性もあった。続く

 

 

 

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こころの除染という虚構107

こころの除染という虚構

107

 7月30日、上京した菅野喜明は弁護団の事務所で今後の方針、タイムスケジュールなどを協議、8月10日、両区民会長と行政区長などが集まり、喜明の報告を聞いたうえで、小国としてどう動くか方向性を決めた。

  大波栄之助が言う。「弁護士から最初に言われたのは、『これは、訴訟だ。100%勝てる』と。そっちにしようといわれたけど、まず、お金がない。どれだけの人がついてこられるかという問題もあった。何より、時間がかかる」

喜明が後を続ける。

「全員が参加できて、この不公平感を何とかしようというのがそもそもの目的なんです。となると賠償ではなくて、慰謝料請求だと。それしかない。賠償を選択すれば訴訟となり、訴訟費用も相当な額だろうし、勝てるかどうかもわからない。判決が出るまで5年になるか10年になるか。そこまで待てない。今の状況を変えるためにも、何とか形をつくりたい。それには慰謝料請求しかない」

 精神的慰謝料を求めるADR(裁判外紛争解決手続き)、集団和解申し立て。

これがとるべきたった一つの道だった。

8月30日丸山弁護士はじめ6人の弁護士たちが小国を訪問。区長、班長、区民会の役員を対象にADRの説明会を行ったその場で、住民の意思は決定した。

 ADRをやろう。これが住民の総意となった。そしてこの場で、ADRを行う核となる委員会の立ち上げとそのメンバーが発表された。

委員会の名は「小国地区復興委員会」。

喜明は事務局となり、実務を一手に担う役目を引き受けた。委員長は大波栄之助。副委員長は下小国から直江市治。

上小国・下小国の両区民会長も筆頭に名を連ねる。

喜明は言う。「両区民会長は二人とも地点なので、地点じゃない人が、委員長と副委員長になるしかない。栄之助さんがトップに立ってくれたのが大きかった。栄之助さんの人望に助けられました」

 委員会はできた。このままADRに進む前に決めておかなければならない、重要な問題があった。それは獲得した賠償金をどう分配するかということだった。たとえば各家庭の個別事情が異なれば、賠償金の金額にも差がついてしまうのか。「地点」に近いかどうかで、5万、10万と手にする賠償金を変えるのか。

この点については喜明はじめ、復興委員会のメンバー全員に固い思いがあった。

 喜明はきっぱりと言う。「我我が困っていたのは『地点』というものができて隣近所に格差が出きたこと。賠償金額に差が出れば、また格差ができる。ならばこのADRをやる意味がない。また喧嘩になっちゃうわけで、格差是正のためにやるのだから、これ以上の格差は増やさない。

 そこで賠償金は平等に分配することへの同意を参加の条件にしたのです」

 賠償金の分配を受けるために、委員会は二つの条件を設けた。一つはこの申し立てに参加すること。

二つ目の条件には精神的慰謝料については平等に分配すること。

この二点について同意書をつくり、署名をしてもらうことが参加の条件となった。続く

 

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こころの除染という虚構106

こころの除染という虚構

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 6月16日、菅野喜明は下小国に住む大河原宏志(当時69歳)と一緒に南相馬市に向かった。原子力損害賠償紛争解決センターへ集団和解申し立てを行った、「ひばり地区復興会議」に話を聞きに行くのが目的だった。

 大河原は会社員時代、取締役をしていた時に民事訴訟を起こした経験があったため、その経験を頼みにした。

  菅野喜明は言う。「すでに和解が完成した案件だった。警察官や消防団など職務で避難できなかった人たちに対し、東京電力は避難した人たちには賠償を払ったのに、避難しなかった人たちには払わなかった。それはおかしいと申し立てを行い、避難しなかった人たちにも、避難者とほぼ同額を出すということで解決した」

詳しい話を聞いた喜明は確信した。

「この弁護団なら勝てるかもしれない。勝てない人にいくら頼んでもしょうがない」。

 今小国に渦巻く鬱憤を解消するために考えられることは、「地点」にならなかった人に対する「地点」と同等の慰謝料だ。その道しか崩壊したコミュニティを再生させる方法は見つからない。

6月24日、喜明は行政区長たちと一緒に再び南相馬へと向かった。南相馬の集団和解申し立てを行った原発被災者支援弁護団の弁護士に、より詳しく小国の状況を説明するためだった。その場には同弁護団の共同代表、

丸山輝久弁護士もいた。

小国の放射線量マップと、小国小学校で行った住民説明会のDVDと、これまでの経緯をまとめた資料を渡して説明したら丸山団長はものすごく驚いた」。

同席していた若手弁護士は言った。

これはひどい、こんなひどいことが行われていたなんて知らなかった、国賠やりましょう。国賠やっても勝てます。それぐらいの状況です

 国家賠償請求に十分値するという根幹は、同じ地域に住む住民にかけられた、あからさまな不平等、不利益を指していた。

 7月11日、丸山弁護士はじめ、3人の被災者支援弁護士がヒアリングのために小国を来訪した。

迎えたのは、上小国と下小国の両区民会長はじめ、様々な住民だ。聞き取りの後、放射線量や地点の指定のされかたなど、実際に現地を見てもらった。続く

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ちょっと息抜き 有馬記念

ちょっと息抜き有馬記念

 

 今から49年前、東京時代に馬券を買った夢を見た。その時の数字は忘れたが、銀座へ馬券を買いに行くという同僚に1万円を渡し、夢に見た数字の枠連を買うよう依頼した。

結果は見事にその数字が来て28倍の配当となった。28万円が入る計算だった。正夢だった。

 ところが依頼した同僚は、吉野が夢に見た数字など来るはずがないと高をくくって、勝手に自分の思惑を使い、私の依頼した馬券を買わず、自分の思う馬券を買った。

その同僚は元金の1万円さえ私に返さなかった。

それまでも競馬には興味がなかったが、その後は全く関心を持たなかった。

しかし北島三郎さんのキタサンブラックで多少小遣いをもらい、少し興味が出かかったが、やはり自然に元の無関心に帰ってしまった。

 

さて、一昨日また夢を見た。

1-2

1-3

2-3  の数字である。

馬連か、枠連かはっきりしない。

 

ここに面白いデータがあるそうだ。

消費税が過去3回引き上げられたが、

その都度、4番人気の馬が優勝したそうだ。

1989年消費税導入

◎1989年0⇒3%

優勝イナリワン・・・・・・4番人気

◎1997年3⇒5%

優勝シルクジャスティス・・4番人気

◎2014年5⇒8%

優勝ジェンティルドンナ・・4番人気

◎2019年8⇒10%・・???

3度あることは4度あるやいなや・・・

さあ・・・4番人気の馬を買ってみよう!

興味のある方はどうぞ・・・

 

此の件につき、吉野永人は切責任を持ちません。念のため

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こころの除染という虚構105

こころの除染という虚構

105

 

 市長が考えるように、「地点」がなくなれば元に戻るなどというそんな甘いものでは決してない。それほど住民の間に刻まれた溝は深い。

 33歳で初当選した。1年生議員。『普通の議員生活は、9か月しかできなかった』と喜明は頭をかいて苦笑する。

  原発事故が起き、地元・小国は激動の渦に巻きこまれていく。生れは上小国。県立福島高校から早稲田大学へ進学。専攻は文化人類学で、インドネシアに留学の経験もある。卒業後は1年弱、インドネシアの海洋民族の村に住み、研究をつづけた。

 夜、月明かりの下、浜辺で、エイを突いていたというが、朴訥な人柄と、どっしりとした体で、そのまま海洋民族のコミュニティに溶け込んでいただろうと容易に想像がつく。一通りの研究を終え、帰国後は国会議員になった大学の先輩から声を掛けられ、議員秘書をすることになった。

  国の政治とかかわるようになって1年、地元から市議選に出ないか、と声がかかる。

 引退する親戚の議員の後継者にという話だった。

当時、母が末期がんだった、ということもあり、喜明は故郷に戻る決心をする。

 

2010年1月、19歳で故郷を離れてから14年、33歳での帰還だった。

 2か月後に母が亡くなり、翌月に選挙。掲げたスローガンは「人が増える伊達市をつくろう」見事初当選を果たし、伊達市議会唯一の30代の市議が誕生した。

  特定避難勧奨地点が設定され、何百年と培ってきた小国というコミュニティがあっけなく瓦解したのは当然のことでもあった。

 

地点になれば、爺ちゃん、婆ちゃん、孫が二人いる6人家族だったら毎月60万円の慰謝料が東電から支払われる。しかも非難しなくてもいいのだから、いつも通りの暮らしを平然と送っている。目と鼻の先に住んでいながら「地点」の家には毎月60万円が入り、

「地点」でない家にはビタ一文入らない。自分の畑には税金がかかっているのに、「地点」となった隣の畑は税金免除だ。とても並んで農作業などできたものではない。このどうしようもない不平等感をどこに吐き出せばいいのか。「地点」が設定された小国で暮らすということは日々、このような胸がかきむしられるような思いに遭遇することだった。

 普段は理性で抑えこんでいても、酔いが回れば地元議員に電話をかけて凄みたくなるのも当然だった。

 いろいろな「もやもや」が、住民の間に充満する。

測りに来る前から地点になる人とならない人が決まっていたんだ。その証拠に、両区民会長も、小国小のPTA会長も勧奨地点を進めた人たちはみななってっぺ

おらん家より低くても指定になってっぺ

市長が初めて小国に来て開いた説明会で。「子どもを持つ親の意向を聞くよう」に市長に迫った、元市議、大波栄之助は、変わりゆく故郷を歯ぎしりする思いで眺めていた。

「小学生たちがかわいそうだった。避難になった子は、避難先からバスで送り迎え。避難になんなかった子たちも、そのバスに乗っけて守ってくんないかいって。その格差たるや・・・

結局スクールバスを出すことになったが、なんで市が子供にそこまで格差付けねと成んねえんだ」

議会に傍聴に行った時も、同じ思いに駆られた。

地産地消で地元の農家の作物を給食に出すってよ。理由は農家がかわいそう。子どもの健康より農家なんだよ。子どもはもっとかわいそうじゃないか」この事態を何とかしないといけないという機運が、小国では高まっていた。 続く

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こころの除染という虚構104

こころの除染という虚構

104

2・小国からの反撃

 

「だて市政だより」(平成24年6月28日発行)60号、市長メッセージ。

「特定避難勧奨地店の指定を受けて、早くも1年が経過しました。この制度について当市としては初めからコミュニティを破壊する恐れがあるとして、『地点』ではなく『地域』にすべきであると主張してきました。しかし、国は、放射線量の高低により、世帯ごとに指定するのが基本で制度の根幹にかかわるとして頑なに認めませんでした」

 

「地点でいい」としたのは市長だったはずだ。

椎名敦子達小国小PTAや多くの住民が「地域での指定をあれ程望んだにも関わらず、アンケートも説明会もなく、「いい制度だ」と乗っかったのは伊達市の方だ。このメッセージを市長はこう締めくくる。

 

「除染が進み、ある程度の放射線量の低減傾向が認められる状況に至れば、国に解除の要請をしていきたいと思っております。

施工業者、市行政、そして市民の3者が一体となって除染を進め、1日も早く特定避難勧奨地点の指定が解除され、元の健全なコミュニティを取り戻しましょう」

 

市長の、この他人事のような能天気なメッセージがどれほど小国の住民の心に届いたかはともかく、このころ、夜も更けてくると、市議、菅野喜明の家にこんな電話がかかってくるようになった。受話器を取るなり、決まって怒声だ。

 

「お前は地点だから、動かないんだろう。働かないなら、殺してやる」

「お前たんまり、金もらってんだろう、とんでもない野郎だ」

「お前地点だろう、議員のくせに、これから殴り込みに行くぞ!亡き者にしてやる」こういう殺害予告のような電話がいっぱい来たと喜明は力なく笑う。喜明は相手を刺激しないようになだめることしかできない。

「うちは地点じゃないですよ。誤解ですから

殺さないでください」

「地点じゃないですから、おじいちゃんもいい年なので、家に来るのだけはやめてください」

声で誰かはすぐにわかる。普段は穏やかな人なのに、酔いに任せてぐでんぐでんになって電話をかけてくる。それほど小国に住民には鬱憤(うっぷん)がたまっていた。

 

それは当然だと喜明は言う。

エリアとしての指定じゃないわけですから。隣近所で殴り合いをするのと一緒ですよ。殴り込みに行くと言ってきた人だって、目の前が勧奨地点ですから、そうなりますよ

 

ちょうどそのころだ。

喜明をわざわざ訪ねてきた小国の人間がこう言った。

「あんたこのままではダメだろう。このままではシャレにならないことになる」地点の設定で、あっという間に、小国のコミュニティは崩壊した。

 今何とかしないと修復は不可能だ。議員である喜明こそが動くべきだと突き付けられたのだ。 続く

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こころの除染という虚構103

こころの除染という虚構

103

 

 「私はもう詩織がものすごい量の海藻を食べるのを見るのが本当につらかった。

 直したい一心で、必死で食べているのがわかるから。その姿がかわいそうで、たまらなかった。詩織の前で涙は見せなかったけど、見ているだけで胸がつぶれそう」

 

一人になると真理は自分を責めた。

「あの時詩織は外で遊んでいた。私は仕事と父のことばっかりで詩織をちゃんと見てなかった。3月に外へ出て芝生を植えたのも、水路でガサガサやるのも、きつく止めなかった・・・」

 詩織は兄の健太と対照的で、

家の中で遊ぶより、外に飛び出して行く子だった。事故当時は小学3年生。だめだって言っても用水路から網で魚を取ってくる。家の周りにある田んぼの用水路に網でガサガサすれば、フナもタニシもザリガニも面白いようにとれる。

「『用水路は線量が高いから行ってはダメだよ』って注意しても、本人はやめられない。仕事から帰ってくると、家の前にバケツに入った戦利品がドーンと置いてある。ああまた行ったんだって思いながら、魚を水槽に入れる自分は何だろうって。魚も絶対にベクレテル(セシウムが何ベクレルか入っている)のに」

川崎家を訪ねた時、居間に丸々太ったは大きな水槽があり、丸々と成長した魚たちが元気に泳いでいた。真理は水槽を見ながらこう話す。

「これって、原発事故がなければ悪いことじゃありませんよね。『この魚戻してきなさい』って、子供を怒ることじゃない。そういう風に言わなければいけないのがおかしい。自由に遊ばせたいって私は思ってしまう。

だからちゃんとしているようでちゃんとしていない親なんです。やるべきことをやっていなかった、徹底的にきつく禁止すべきだった。

結局、私のせいで詩織はこんなことになったんです。

2012年7月、伊達市は他の市町村と一線を画す独自の事業に着手する。それが個人線量計(ガラスバッジ)を全市民(約53000人)に配布するというものだった。

 「だて市政だより」(平成24年6月28日発行)60号にはこうある。

「7月から全市民を対象に測定します。外部被ばく線量は各個人の職業や行動により個人差があり、そのため、居住地域の空間線量のみでは安心安全が判断できないため、全市民を対象に測定を始めます。実測値を確認いただき、市民の皆さんの健康管理に役立てると同時に、外部被ばくの不安を取り除いて行くことを目的に実施するものです。ぜひ身に着けていただくようお願いします」

 

間違いなく全世界で初めての、壮大な実験が幕を開けようとしていた。すべての市民を対象に1年間、個人線量計のデータを取る。

 

個人線量計を提供するのは放射能アドバイザー・田中俊一が副理事長を務める放射線

安全フォーラムのメンバー「千代田テクノル」。

伊達市は市民全員が参加する、前代未聞の実験場となった。続く

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kこころの除染という虚構102

こころの除染という虚構

102

横で画像を見ながら、真理は思う。

「医大の電話でふく数あるといったけど、複数どころじゃないだろう。こんなにあるじゃない。あの電話ではせいぜい嚢胞があっても、二つか三つかって思っていた。この画像のデータ、電話口の医者は見ていたわけでしょ。それでよくも『大丈夫ですよ』ってあっけらかんと言えたものだ」

 

結局子どものことなんかどうでもいいと思っている。真理の心に怒りがこみ上げる。詩織は冷たいジェルをのどに塗られ、機械をぐにゅぐにゅ動かされ、じっと天井を見上げている。詩織も医者の言葉を聞いていた。この時、小学5年生。自分に何が起きているかわからないはずはない。真理も呆然と画面を見続ける。

 

「ああ、詩織・・・こんなにある。あああー。複数どころじゃないじゃないかあー!そもそも甲状腺の嚢胞ってどういうものか、あんな紙一枚じゃ、想像もつかないよ。こうやってじかに見ないと何もわからない」

医者は淡々と操作を続ける。

「でも大丈夫だよ。こういう人も、良くいるんだよ」

ところが翌週に血液検査の結果を知らされ真理は絶望の淵に追い落とされる。

 

問題となったのは、「サイログロブリン」の値だった。基準値範囲は0・0~30・0。

それが詩織は、166・1

サイログロブリン 聞いたこともない名前だ「甲状腺ホルモンの前駆物質」で「甲状腺疾患において有用な検査の一つ」、「さらに

は甲状腺分化がんで高値を示すため、腫瘍マーカーとしての役割」とも言われるもの。

 

医師の言葉がどこか遠くから聞こえてくる。これが果たして現実なのか、わが子に起きていることなのか。真理には何もわからない。ドクンドクンと動悸が激しくなっていく。

 

検査結果を見た医師にとってもこの数値は、予想を超えるものだった。

「なんだ、この数字は!イヤー・・・高いね、高すぎる。子どもでこんなにあるのか」真理の動悸は激しさを増す。『高すぎ』ってどういうこと?高すぎる、高すぎる・・・

ぐるぐると同じ言葉が駆け巡る。

「大人で、甲状腺の病気の人はもっと高い数値になるんだけれど、だけど。子どもにしてはありすぎだな」

医師の前に座る詩織がどんな表情でその言葉を聞いているのか、真理には確かめることはできなかった。

 

詩織は自分に重大なことが起こっていることはわかっている。わかっているだけに忍びなかった。

余りにもかわいそうで、かがんでその顔を見つめることはできない。

娘の肩に置く両手に力が入る。

医師は冷静に説明を続ける。

 

「嚢胞がしこりになるわけではないんですよ。嚢胞と嚢胞が押されてその隙間がしこりになる。しこりは腫瘍だけど、悪性か、良性かは別の問題。

詩織ちゃんの場合、見た限りではしこりではないし、ただし嚢胞があるほどリスクがあるので、毎月1回、経過を観察することにしましょう。血液検査は」冬休みとか、大きい休みの時でいいから」

 

さらに、医師は目の前の詩織にこう言った。

「とにかく海藻を食べるように、昆布じゃなくて、わかめとか、のりとか」

その日から詩織はものすごい勢いで海藻を食べだした。味付けのりをバリバリかじり、今まで避けていたみそ汁のわかめも恐るべき量を次々と口に入れる。 続く

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