山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

呼吸法のこと

2013-05-01 18:47:34 | 宵宵妄話

  少し変わったテーマの話をしたいと思います。これは私自身が40年以上に亘って続けている秘法(?)の一つです。誰にでも密かに試している健康法だとか、ピンチの乗り越え方だとか、おまじないだとかいうのが、一つや二つはあるのではないかと思いますが、ま、そんなものの一つだと思って頂いていいと思います。長い間実践して来て、これは他人様にアピールしても大丈夫だと思いますので、少しお話したいと思います。

 現在ヒマラヤのエベレスト登山に80歳の三浦雄一郎さんがチャレンジ中ですが、その報告が昨日(4/30)の東京新聞に掲載されていました。共同通信に寄せられた手記の紹介でした。5月の中旬に頂上へのアタックを開始ということですから、もうすぐということです。「限界を探りながら無理せず前へ」という見出しがついていましたが、手記の内容を読んで、凄いなあと感動しました。まさに命がけで、自分の限界を探りながら、毎日ぎりぎりの挑戦をされているのだと思いました。是非ともアタックを成功させて頂上に立って頂きたいと願っています。

 さて、何度も書いていますが、自分自身もこの快挙への挑戦の影響を受けて、只今毎日15kgほどの荷を背負って少なくとも90分以上の歩きと、その他足腰の鍛錬にチャレンジしていますが、この中で、とても大事だなあと思っていることが一つあります。それは「呼吸」なのです。私の「呼吸」への関心は、40年ほど前の20代終わりの頃から強くなったのでした。それまでは長距離走にチャレンジする時以外は、殆ど意識もしなかったのですが、20代の終わり頃に坐禅に興味を持って以来、調心調息の手法としての坐禅の呼吸法に多大の関心を持ち、それ以降常に自分の呼吸を意識し続け、今ではあまり意識せずとも坐禅の呼吸法をいつでもどこでも実践できるようになっています。そして、この呼吸法が、自分の人生にとっては、健康管理上の最大の有効方法であると確信しています。それらの理屈と実践要領について考えを述べて見たいと思います。

 人はハードな状態に遭遇した時、自然と呼吸を意識する様です。身体的な状態だけではなく、精神的な面でもショックを受けた時などは、無意識のうちに呼吸が速く、浅くなるようです。普段は呼吸のことなどあまり意識せずに暮らしているのですが、このところのザックを担いでの歩行をしていますと、自然と呼吸に関心が向いてしまいます。疲れが増すに従って、呼吸が荒くなり出し、これをどう調整するかが課題となるのですが、こんな場合坐禅の呼吸法を応用すると、さほどの混乱なくその荒さを鎮めることが出来るのです。

 私の坐禅への関心は、まともな参禅からではなく、創造工学の大家のお一人でNM法という発想法を提唱された、中山正和という方の工学禅というのが始まりなのです。中山先生のNM法の研修会に何回か参加しましたが、中山先生は大脳生理学などをベースとするHBC(Human Brain Computer)モデルという人工頭脳の仮説を構築され、その立証手段の一環として工学禅というものを提唱されたのでした。人間と同じロボットのようなものを作るとしたとき、その心臓部である脳の働きをコンピューターに代替させる場合に、脳の成り立ちと働きをどのように構築してコンピューターに指示するかというような、実に面白いテーマの研修でした。ま、この話をすると長くなりますので止めますが、工学禅というのは、文字通り禅というものを脳の働きに沿って、工学的に解析してその意義を探ろうとするもので、その論理に合わせながら、実際に座って体験してみるといった学び方だったのです。座るに際しては、鎌倉の曹洞宗の在家の田里亦無という方のご指導を受けて、椅子に座ったままでの呼吸法と頭の使い方(?)を学んだのでした。工学禅はお寺で坐禅を組むような形式にとらわれることなく、椅子に座っていても、或いは寝床に横たわっていても、禅の理屈を知っていればいつでもどこでも禅の境地を目指すことが可能だという考え方ですから、もともとグータラな自分などには、真に納得のゆくものなのでした。

 それによると、禅で大事なのは、まずは、呼吸を整えるということなのです。呼吸は身体的な作用ですが、呼吸を整えることによって心(=精神)の方も併せて整えるという風に考えるのです。これを調心調息といいます。ではそれはどのように行うのかといえば、基本の理屈は、「呼」の方に「吸」よりもより多くの時間をかけるということなのです。つまり、吸う息よりも吐く息により長い時間をかけるということです。例えば、10秒で息を吸ったら、吐く時は15秒かけるというように行うのです。禅の呼吸はこの繰り返しです。

 では、呼吸をしながら頭の中でどんなことを考えればいいのかといえば、これも簡単で、「無」の境地を目指すなどではなく、雑念を切ることなのです。半眼になって静かに呼吸を整えていると、様々なことが思い浮かんできます。今一番気になっていることを初め、去年の思い出だとか、或いは子供の頃の古い記憶だとか、雑念は無座別・無制限に思い入り乱れて頭の中を駆け巡るはずです。それを片っ端から「切ってゆく」というのが座っている時の頭の使い方なのです。つまり、雑念の全てをそれにとらわれずに切って行くという作業をすればいいのです。脳の中で、既成観念に縛られているがゆえに、利害得失などの様々な理屈でがんじがらめになっている頭の中に浮かび上がる思いを、片っ端から切って行くのです。何かの雑念が浮かび上がってきたら、「あっ、それはもういい、考えない!」と切り捨てるのです。このように片っ端から雑念を切って行く内に、次第に呼吸が落ち着き出し、やがて深く長くなってきます。個人差はありますが、1分1呼吸がくらいが普通になって来ると思います。つまり、25秒で息を吸って35秒で吐き終えるといった具合です。長い経験を積んだ方だと、2分で1呼吸くらいにはなるのではないかと思います。海女の人たちは3分以上も海に潜るのですから、岡に住む人の2分で1呼吸くらいは、大して難しいことではないと思います。私の場合は、1分1呼吸くらいが普通です。このように深く・長い呼吸が得られるようになると、頭の中は囚われの世界から少し抜け出せるようになってくるのです。

 何故呼吸なのか。坐禅における呼吸は、お釈迦様の呼吸法として語られる場合がありますが、実際この方法に気づいた人は凄いなと思います。生理学・医学的には、人体をコントロールする仕組みとして、随意神経体系と不随意神経体系とがあり、不随意神経体系(=自律神経系)は交感神経と副交感神経に分れて、環境適応のための人体の動きを自動的にコントロールするといわれています。呼吸というのは、この自律神経に属するものであり、本来は意識しなくとも人体に必要な活動を自動的に行っているものですが、心臓や肺臓など循環器系の臓器や体温調節機能、内分泌機能などと違って、呼吸だけが自律神経系であっても意識的にコントロールが可能なのです。つまり、心臓の拍動を意識的に早めたり遅くしたりすることはできないのですが、唯一呼吸だけはそれが可能なのです。

この働きを自らがコントロールすることによって、身体と精神のバランスを取ろうという発想は、凄い着眼点だったと思います。人間にとって、唯一、心と身体のバランスを自らの意思でとることが出来るのが呼吸なのです。これを知らず(或いは知っていても軽視や無視したりして)一生を終る人がたくさんおられるのだと思いますが、真に勿体ないことではないかと自分は思っています。呼吸法というのは、人間だけに与えられた智恵なのではないかと思うほどです。

正式に参禅したこともありますが、工学禅で得たものとの違いはほとんどありませんでした。ま、座る環境としては、お寺さんの本堂や禅堂の方がはるかに優れていることは言を俟たないことは言うまでもありません。これら禅の考え方と呼吸法は、その後の自分の暮らしの中で、不可欠のものとなりました。難事に出くわした時には対処の前に早起きして座ることに努め、多くの場合迷うことなく自分の信念を貫けたと思っています。

呼吸法は、おそらく三浦雄一郎さんもずいぶん昔から体得されておられることだと思いますし、極限状態まで追い込んで身体を使うアスリートの方ならば、誰でも体得されているに違いありません。座禅だけではなく、古代インド発祥のヨガにおいても呼吸法は重視されていますが、その原理は座禅とさほど変わらないのではないかと思っています。もしかしたら、ヨガの方が座禅の基盤となっているのかも知れません。ま、いずれにしても呼吸法は、人間の健康にとっては大きな宝物だと思います。特にストレスの溢れ積もる現代では、多くの人々は浅く荒い呼吸を続けるばかりで、それゆえにCO2も増えてゆくのではないかと心配です。こんな時こそ、人々は釈尊の呼吸法を手に入れ、当たり前のように実践すればいいのにと思わずにはいられません。

今日から5月となりました。予てからの目標の筑波山登山に出かけようと昨日から密かに考えていたのですが、朝になって外を見ると地面が濡れており、見上げる空は雲がいっぱいでした。雨は止んだようですが、筑波山は雲の中にあるに違いありません。記念すべき第1回目は、やはりいい天気の日にしたいと思い、とりあえず明日に延期しました。その代わりに、昨日と同じように今朝も重き荷を背負いて近き道を8kmほど歩いてきました。息も上がらず、呼吸の方は安定して大丈夫です。明日は必ず晴れてくれることだと思います。深呼吸をしてこれを終わります。

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