石川県金沢市に隣接する野々市町には、3人のくるま旅の大先達がお住まいになっている。これは奇跡的なことではないかと私は思っている。お三方の年齢を合計するとなんと250歳になるのである。最高齢88歳、下の方は76歳、平均83歳と少しという高齢者のパワー集団(?!)だ。
この内Mさんご夫妻は、私がくるま旅くらしを本気で考えるようになるきっかけを作って下さった方で、北海道でお会いした時は79歳だった。拙著「くるま旅くらし心得帖」のコラムにも書かせて頂いているが、軽自動車の手作りのキャンピングカーで、奥様と二人自在の旅を楽しまれていたのだった。車の装備も簡にして要を極め、狭い車の中を夫婦お二人がその不自由さを乗り越えて巧みに使っておられるのに驚いたのだが、何よりもびっくりしたのはその年齢を伺った時だった。せいぜい70歳くらいが限界かなどとその時は思っていたので、80歳近くになっても尚矍鑠(かくしゃく)として、元気に旅を楽しまれているその姿に感動したのだった。その感動は今でも忘れることなく、私のくるま旅くらしの原点に刻まれている。
そのMさん宅をお訪ねしたときに、「わしよりも年上の車旅をしている人がおるんじゃ」と私にご紹介頂いた方がFさんだった。FさんはMのお父さんよりも2歳年長だという。奥さんが病でご一緒できないという事情がおありで、お一人で旅をされるということだった。Fさんのパワーは凄い。夏の北海道を2往復されたこともあるほどなのだ。1日に500kmを超えるほどの走りをされることもあるという。Fさんは旅もお好きだが、何よりも車と車を運転されることがお好きのようである。とにかくそのパワーには圧倒される。
Fさんにはもう一つとても大切なことを教えて頂いた。それは西式健康法の流れを汲む、大阪は東大阪市の医師甲田光雄先生の提唱される菜食主義の健康法である。Fさんは70歳の時それを知って取り組み始め、それまで幾つもの病に苦しめられていたのを解決されたとか。食事は基本的に野菜類をベースにしたもの以外は口に入れないのである。Fさんは各種野菜をミキサーにかけ、冷凍したものを持参して旅をされているのである。その詳しい話はここでは避けるが、やがて私もFさんのお話に肖(あやか)って、本格的にべジタビリアンを指向したいと思っている。
Mさんご夫妻は、今年の北海道へは、お母さんの体調がすぐれず旅は自重されたとのことで、お会いできなかった。その後お母さんもお元気になられたご様子で、メールでその旨お話を伺い安心している。お母さんは数年前からパソコンを習い始め、メールのやり取りを初め、私のブログの愛読者としても嬉しくありがたい存在である。そのチャレンジ精神は、お父さんの旅への情熱にも決して引けをとらない素晴らしいものだ。
Fさんは、今年の北海道の旅先で、一度お電話を頂戴したのだが、その後お会いするチャンスがなく、お声を聞いただけだった。とにかく縦横無尽に動き回られておられるので、広い北海道でもなかなかお会いできるチャンスが巡ってこないのであろう。
このお三方が同じ町のご近所にお住まいになっているのは、奇しき縁以外の何者でもないと思う。私も今年の北海道で同じ守谷市から来られたKさんと出会うことができたが、住まいを同じくする旅の愛好者がいるというのは心強いものだ。ましてや高齢世代では何よりの宝物となるに違いない。お互いが元気の素を出し合い、それを倍加させて楽しみを共有しながら生きてゆくことができるように思う。旅のことを贅沢な独り善がりの遊びのように考えておられる方が多いが、それは誤りだ。私自身もかつてそのような批判的な考えをどこかに持っていたのだったが、この歳になって旅の本当の価値がわかるようになるにつれて、旅の持つ不思議な力に心底敬服するようになったのである。高齢社会を健康で心豊かに生きてゆく上で、旅の持つ力はきわめて大切だと信じて疑わない。そして何よりの証明者がこのお三方なのだと思っている。
お会いできる日を、今から本当に楽しみにしているのである。