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賃借人との明渡し交渉中に隣接住戸を取壊した行為が不法行為に当たるとされた事例

2008年11月19日 | 最高裁と判例集
(京都地判 平19・10・18 ホームページ下級裁判所判例情報)

家主から連棟式住宅の賃借人との退去交渉について委託を受けた業者が、その交渉中に隣接住戸の取壊しを行ったことが、賃借人に対する不法行為に当たるとされた事例(京都地裁 平成19年10月18日判決 一部認容 ホームページ下級裁判所判例情報)

1 事案の概要
賃借人Xの居住する連棟式家屋の家主Y1は、Y2(法人)に対し、当該家屋の明渡しに関するXとの交渉を委託した。Y2の従業員は、何度かX方を訪問して交渉したが明渡しの同意を得るに至らず、最後の交渉が行われた約2週間後、解体業者に命じて、X方に仕切り壁を隔てて隣接するY1所有の家屋の取壊しを行わせた。Xは、①交渉の過程におけるY2の従業員の発言が脅迫に当たること、②隣接家屋の取壊しは乱暴に行われXに不当な心理的圧力をかけるためのものであったことを主張し、不法行為に基づく精神的損害の賠償として200万円の支払いを求めた。

2 判決の要旨
①本件賃貸家屋は同一区画内に建てられたY1所有の4軒の家屋のうちの1軒で、4軒の家屋はいずれも昭和28年に建築されたもので、壁を接して2軒ずつ建てられたほぼ同一構造の木造2階建ての家屋の2組から成る。本件家屋の隣接家屋は、空家となっており、他の家屋の2軒のうち、1軒には訴外Aが居住し、他の1軒は空家であった。

②平成18年1月30日、Y2の従業員Bが初めてX方を訪れ、本件家屋の明渡しを求め、その後5回にわたって、A宅で、本件家屋の明渡しを求めるBと、これを拒むX及びAとの間で、協議が行われた。これらの協議には、Y2側ではBに加えてY2の代表者が同席することがあり、X側ではケアマネージャーのC氏又は市会議員のD氏が同席している。Xの供述によれば、1月30日の経緯は、①Xは突然のBの来訪に困惑して退去を求めたが、Bはなかなか退去しなかった②Xが、夕方にAが帰宅した後にAと一緒に再度話を聞く旨を約束をしてはじめて、Bは退去した③午後8時ころ、BがA宅を訪れ、Aに対して明渡し又は家賃の倍増を強い口調で求めたというものである。これに対しY2の代表者は、Bは丁寧な口調で本件家屋の明渡しを求めたと主張し、Bもその旨供述するが、2回目以降の協議の録音テー
プによれば、これらの協議の席上、BないしY2の代表者は「どんなことをしてでもあけてもらう」「強行手段でいかんならん」「おれとこかて力でいくで」等と発言しており、相当強行に明渡しを求めたものと推認されるところであり、Y2の代表者らの主張は採用できない。

しかしながら、Xが本件家屋の明渡しに最近の判例から 賃借人との明渡し交渉中に隣接住戸を取壊した行為が不法行為に当たるとされた事例(京都地判 平19・10・18 ホームページ下級裁判所判例情報)応じない意向で有った以上、Y2としては交渉の方法の一つとして強行姿勢を示さざるを得なかったともいえる。そして、2回目以降の協議においては、X側の立場で前記C氏やD氏のような男性が立ち会っていたことも考慮すれば、B及びY2の代表者の言辞が、不法行為を構成するに足るほどの違法性を帯びるとはいえない。

③隣接家屋の取壊し作業は、本件家屋と壁で接しているにもかかわらず、本件家屋に対する養生を全くなさずに、2階屋根の中央に穴を開け、窓枠や屋根を破壊し、1階の屋根瓦を落とし、壁を引き剥がすという手順で行われたことが認められる。Yらは、取壊し作業は通常の解体の手順に従って丁寧に行っていると主張するが、上記のような方法が解体作業の通常の手順であると認めるに足る証拠はない。作業に先立って行われた協議では、Y2の代表者及びBは、「そんだけどうしても抵抗しはんねやったら、うちはうちのやり方でするさかい」「それは力で出さなしゃあないやん」等と発言していること、また、本件家屋を原告から明渡してもらわない限り、跡地の利用ができないこと、及び、本件家屋の明渡しを受けた後に2軒一緒に取壊す方が作業も簡便で費用は少なくて済むはずであること、に照らすと、隣接家屋だけを先に取壊すのは経済的に不合理である。これらの事情と作業内容をあわせ考えれば、Y2による隣接家屋の取壊し作業は、Xに対する心理的圧力をかける目的で行われたと推認できる。

以上で認定した事実からすれば、隣接家屋の取壊しは、社会的相当性を欠く方法及
び目的によって行われたものであり、不法行為を構成するに足る違法性を帯びる。
Y1は、隣接家屋の取壊し作業がY2の不法行為を構成することを認識していたと
までは認められないが、本件家屋の明け渡しを受けていないにもかかわらず隣接家屋だけを取壊すのは経済的に不合理であること等からすれば、Y2の目的を認識しないで取壊し作業に承認を与えたことについて、Y1には少なくとも過失があるので、Y1も取壊し作業について、不法行為責任を負う。

④以上のとおり、取壊し作業の内容及びその他本件証拠に顕れた一切の事情を考慮すると、Xの蒙った精神的損害は50万円と評価される。

3 まとめ
本判決で問題となった賃貸家屋は2住戸1棟で構成される連棟式住宅で、戸界壁のみ隣接家屋と接している。隣接家屋の解体作業を養生をしないで実施された場合、賃借人の受ける心理的圧力は小さいものではなかったことが想像され、それゆえ、本判決では、不法行為が認定されたものであろう。連棟式住宅の建替えに際し、少なからず問題になり、注意を要すべき事例と思われる。


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