新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

朝井まかて『恋歌』  直木賞受賞作

2021年04月27日 | 本・新聞小説
同じ作家の本を次から次へ読んでみたくなる・・・。今度は朝井まかて『恋歌(れんか)』です。

主人公は明治期に一世を風靡した有名な歌人・中島歌子(登世)。
幕末の江戸、裕福な商家育ちの登世は自らの恋情を成就させ水戸藩士に嫁ぎます。夫・以徳は過激な尊王攘夷派の天狗党。ここから登世の凄絶な人生が始まります。
3年間の水戸で地獄を見た暮らしから、生き延びて江戸に戻ってからは歌人として「萩の舎」の開塾。華族夫人令嬢を始めとする門下生千人の名門塾になりました。そのなかに忍び込んだ水戸の暗い影、そして孤独····。

水戸の女たちは敵味方に関わらず重すぎるほどの思いをかけて内乱を生き抜きました。幕末の血塗られた日々があってこその今があることを伝えなくてはいけない。誰もが今生を受け入れて骸だらけの大地に足を踏みしめねば、一歩たりとも前に進めない。歌子の思いは深く葛藤の後、自分を凄惨な牢獄に閉じ込め夫の命を奪った憎き諸生党の末裔を養子に迎え「萩の舎」の後継にします。それが歌子の水戸への鎮魂であり、亡き人への祈りだったのです。

歌子の手記を門下生に読ませる形で話は進みます。巻末に出てくる年老いた前藩主夫人(斉昭の妻)との静かなやり取りの場面が印象に残りました。

薩長のように志に生き志に死ぬという幕末の表舞台でなく、あまりにも悲惨で救いようがない水戸藩内の、敵味方に別れて殺しあうという内乱です。
幕末史のなかでは数行、数ページでしか語られない「天狗党」を格調高く1冊に歌い上げた歴史小説。著者の力量は直木賞受賞に表れています。

***余話*******************
水戸藩の「天狗党」と「諸生党」の内乱は血で血を洗う何も産み出さない無益な戦いだったと言われています。この戦いで水戸の優秀な人材は全て失われ、明治政府の顔触れに水戸藩士の名前は見られません。
過激な尊皇攘夷派「天狗党」は『青天を衝け』に必ず出てきます。その伏線は25日に登場した藤田小四郎(藤田東湖の子)の登場です。藩を越えて「惇忠」も過激な尊皇攘夷の天狗党に関わった疑いで捕らえられます。彼らも歴史の波に飲み込まれました。

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