新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

西條奈加『ごんたくれ』···芦雪と蕭白をモデルに

2021年09月07日 | 本・新聞小説
「ごんたくれ」とはごろつきや困り者という意味を持つとか。最初の数ページですっかり引きずり込まれた『ごんたくれ』です。


『丸いイボイボを描くことなく、簡素な筆遣いだけで蛸の足とわかる····』を読んですぐ、うつむいた蛸の墨絵が思い浮かびました。検索するとやはり長沢芦雪。文中では吉村胡雪となっています。
胡雪は初めて見た応挙の『氷図屏風』に身を粟立たせました。地色の塗られていない画面に簡素な線を走らせ、氷に入ったひびだけを横たわらせた絵···。これが胡雪が応挙入門のきっかけとなりました。
やがて胡雪は応挙の第一弟子に成長しますが、胡雪の個性が出始めて、大胆・抽象・突飛な構図は応挙からだんだん離れていきました。
しかし応挙はそれを疎んじることをせず「おまえの才だけは、おまえの手で伸ばしてやりなさい」と寛大でした
胡雪の喧嘩の相手が深山筝白(曽我蕭白)。会うたびに喧嘩になる二人ですが、絵師としてはお互いに認め合っています。ぶつかり合い、傷つき、苦悩の中から自分の世界を作り出していきますが、その道は交わることなくそれぞれの道を歩いていくという二人の「ごんたくれ」です。

二人を取り巻く円山応挙、伊藤若冲、池大雅、月渓(呉春)、与謝蕪村・・・たくさんの実在の絵師が登場し交錯します。京都画壇最盛期の画家たちの生き方を浮き彫りにした群像小説という感じです。

絵師と作品名が登場するたびに、検索しながら読み進むのはとても贅沢な楽しみです。
絵の説明の言葉が実に的確で、作品を検索して自分のイメージした絵と似ている時など、こんな「当たり」がまた嬉しくなります。

『ごんたくれ』は友人がオススメと郵送してくれた文庫本で、私には西條さんの作品は初めてでした。すごい作家に出会ったものだと興奮しました
検索したついでに、気になった絵を編集しました。これを見ながら返却する前にもう一度読もうと思っています。


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