紆余曲折を経て完成したT-Dob 30です。
厳密にはまだ海外へ持っていける状態ではありませんが、光軸調整機構を改良すれば完成します。とは言ってもこの状態で観測できるまでには仕上がっています。
3年半前にニュージーランドへ持っていった時のT-Dob 40から悩みに悩んでこの30を作り上げました。総重量は23kgあります。当初の18kgよりはオーバーしていますが、これから5kg減量するのは至難の業です。主鏡セルユニットだけで12kgあるので、それ以外の部分で6kgに抑えるのはこの構造では厳しいです。
主鏡ユニットの次にウェイトが高いのがこの架台ユニットです。この部分で5kg近くあります。ほとんどの部材を3mm~4mmのアルミで作っているので、細かい部分の強度などを考えてこの形状になりました。こういうものは大学の研究室で精密に作り上げるものとは違うので、ある意味作ってみないと分からないところが多くあります。他に参考になるものがあれば良かったですが、その形状以外には参考にするものはありませんでした。
当店の人気商品のポラリエ雲台ベースのように小さなものなら試作せずとも分かることは多いですが、これだけ大きなものとなると、そう簡単ではありません。かといって作ってみてだめだったら良いという訳にもいきません。これにかけた費用は市販のトラベルドブを数台は買えるくらいです。しかし、今回製作してみて新たに多くのことが分かりました。それはかけた費用以上に大きな成果でした。
部材のほとんどは、図面をレーザーカッティングマシンに打ち込んでからカットしてもらっています。当然のことながらその部材を何に使うのか作る側は分かりません。しかし加工精度が高かったのに助けられて何とか仕様とおりに仕上がりました。他にもアルミパイプを12本と細かい部品を多用しておりますが、それらは旋盤やNCフライスにて作っています。いずれにせよ多くの機械と人の手によって作られているものです。
この種のドブソニアンのネックでもある光軸の再現性については、まぁまぁ合格だとは思いますが、鏡筒の向ける位置によって僅かに狂ってしまいます。これはどの機種でも大なり小なりあるものだと思っていますが、問題はそれの許容値がどのくらいかです。私の場合はこのT-Dob 30で惑星の高倍率観測などはするつもりもありませんので、星雲星団を流してみる分には問題ないレベルにはあると考えています。逆にそこまでの精度や見え方を作る際に追求される場合には、筒型のドブソニアンを使うべきではないかと思っています。
このT-Dob 30の光学系はMeadeのライトブリッジから外したものです。元々の仕様ではデジカメで撮影する場合には合焦しなかったので、筒全体を少しだけ短くしてそれを改善して合焦するようにしました。接眼部はそれを考えてヘリコイドを組み込んでいる上に、ドローチューブは手で引き出すことができるように作っています。これにより眼視と撮影の両方に対応するようになりました。撮影と言っても追尾装置を組み込んでいる訳ではないので、そのままでは当然流れてしまいます。しかし、最近のデジカメはコンデジも含めて高感度且つ低ノイズ化されつつあるので、将来的には追尾していなくても撮影ができるようになるでしょう。
ファインダーは、ミードのETX90用を持っていたので、それをイージーに取り付けました。着脱もワンタッチです。Redドットファインダーは視野が広過ぎて星を探すのに苦労するので、普通の光学ファインダーにしました。接眼体の位置は4箇所のネジを緩めて斜鏡-接眼体ユニット全体を回転させることで位置を可変させることができます。基本的に可変させても光軸は大きくはずれません。
移動の際の分解は工具レスでできます。車での移動だけなら筒部を半分だけ残した状態で車に積み込んで、観測地へ到着してから残りの部分を組み立てれば数分で組み上がります。また海外遠征に持っていく場合には、できるだけ小さくしてダンボール箱へ入れてしまえばコンパクトに収納ができます。重量は23kgですので、Air New Zealandなら片道8000円x2=16000円で持っていくことが可能です。当然それ以外の荷物も23kg無料で持っていけます。
まだこの他に黒のシールドも作らないといけませんし、細かいところを改良するつもりです。それができたら近いうちにオセアニアへ持っていくかもしれません。
このT-Dob 30には興味を持たれる方はいらっしゃるかもしれませんが、現状では製作販売云々ということは全く考えておりません。やはりまだまだ一般的ではないですし、既製品もお値段が普通のドブソニアンから考えると決して安いものではありません。確かにドブソニアンは劇的に安くはなりましたが、一般の天文ファン以外の方々を引き込むほどの魅力は感じません。今後この種のドブソニアンがより多くの人々に受け入れられていくかは、単なるお値段だけでないデザインなどの別な魅力が必要だと考えています。