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日本における自動車交通の外部費用

『持続可能な交通への経済的アプローチ』より

日本における自動車交通の外部費用の推計

大気汚染、気候変動、騒音、事故の外部費用、インフラ費用の過少負担、混雑損失の合計は23兆9518億円(10兆3300億~46兆9109億円)、GDPの5.0%(2.1~9.7%)となる。走行距離当たり及び輸送量当たりでは表2.10に示す通りである。

本章における外部費用総額のGDP比を既存研究と比較したものが図2.1である。測定項目や測定方法が研究により異なっているため、あくまでも参考としての比較にとどまるが、本章の結果は諸外国の既存研究と大きくは異ならないといえるだろう。

中位推計値は兄山・岸本(2001)における32兆4505億円から23兆9518億円へ8.5兆円減少した。旧推計と同じ手法及びパラメータを用いた2010年値は、時点川の比較ができない騒音を除くと8兆9878億円となり、同じく旧推計から騒Ili・を除いた26兆6303億円の3分の1に減少している。これは環境、安全、混雑の水準が改善し、同時に道路投資額が削減されたことが主要因である。また外部費用を推計する上でVSLの選択が決定的に重要であることも明確となった。

なお、本章で示された走行距離当たり費用及び輸送距離当たり費用は、限界mではなく平均値であり、また人や積み荷ではなく車両に着目したものである。したがって、交通モードの転換による外部費用の変化を考える際には、本φ:で示された値をそのまま使うべきでないケースがあることはいうまでもない。例えば乗用車(マイカー)からバスヘの限界的な転換は、乗用車の外部費川を削減するが、バスの外部費用の増加はほぼ無視できる。また小型トラックの単位当たり外部費用が大きいが、端末輸送を大型トラックに転換することは,唖常、外部費用を増加させるであろう。また、技術進歩により燃費性能や排がX性能大きく改善された自動車の外部費用は、本章に示した値と異なるのも当然である。

外部費用計測の今後の課題として、あらゆる部分についてより精緻な推計が望まれる。とりわけ限界費用について、日本全体ではなく空間的、時間的な限定を設けた推定が必要であろう。またファーストベストの世界とは異なる、現実世界における政策において意味のある推計とするためには、自動車交通以外の交通モードとの比較研究も必要であろう。

これらの点については、本章のもととなる兄山・岸本(2001)の公表後、いくっかの発展的な研究もみられる。金本(2007)は、道路サービスの供給費用、他の道路ユーザーヘの外部費用、道路利用者以外への外部費用のそれぞれについて、社会的限界費用を推計した。鈴木(2010)は都道府県別・車種別に外部費用を推計した。目的や手法は本章と共通点もあり、外部費用総額は全国で34.7兆円と推計されている. Mizutani, Suzuki and Sakai (2011)は国内111都市における自動車の外部費用を推計し、都市規模が大きくなるほど加速的に外部費用が大きくなることなどを明らかにした。鈴木(2013)は国内100都市における普通貨物車による外部費用に焦点を当て、都市規模や人口密度が大きくなると平均外部費用も大きくなることを示した。有村・岩田(2011)は、自動車NOX・PM法や自治体による高汚染車の運行規制に対する費用便益分析をはじめ、交通に関する環境政策の多面的な分析を行っている。しかし依然、基本的概念の整理や、パラメータの信頼性の向上なども含め、自動車交通の外部費用推計に関して残された課題は少なくない。
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