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これから人類はどのような進化を遂げるのか

『生命とは何だろう?』より 人類の未来は「進化」か「絶滅」か

これから私たちホモ・サピエンスはどのような進化を遂げるのでしょうか。前にも述べたとおり、生物種の未来には「進化」と「絶滅」の二つにひとつしかありません。したがって、このまま永遠にホモ・サピエンスという種が維持されることはあり得ない。ホモ属の誕生から二六〇万年、ホモ・サピエンスはまだ二〇万年-三八億年に及ぶ地球生命の歴史から見れば、私たちの存在はほんの一瞬の出来事にすぎません。数千万年後、数億年後には、そのとき存在している知的生命体の「祖先種」か、単なる「過去の絶滅種」かのどちらかになっているはずです。

もし絶滅するとしたら、その原因として誰もが真っ先に思いつくのは戦争でしょう。好戦的な性質を持つ私たちは、その知力をフルに発揮して、一瞬にして自分たちを絶滅させられるほどの核兵器を作り上げました。ある意味で、すでに絶滅の準備は整っているとさえいえます。

では、ホモ・サピエンスにとって絶滅は必然なのでしょうか--私はそうは思いません。仮にホモ・サピエンスが生物学的なレベルで好戦的だったとしても、一方で、それを制御するだけの知性を兼ね備えているのも事実です。

また、生物学的なレベルでも、ホモ・サピエンスには好戦的な性質とは正反対のものが備わっているのではないでしょうか。それは、他人と結びつくことによって集団を形成する性質です。その性質がなければ、集団で狩猟を行うことはできなかったでしょう。常に他者と敵対しているようでは、都市や文明を築き上げることも不可能です。

たくさんの人が集まって都市を作り上げるには、お互いに対する信頼が必要です。では、人類はなぜ他人と信頼関係を結べるのか。そこで重要な役割を果たしているのが、脳の神経回路にある「ミラーニューロン」という特殊な細胞です。文字どおり他人の心の中を「鏡」に映すように慮る能力を司る細胞だと思ってもらえばいいでしょう。

もっとも、他者の感情を理解する能力は人間にだけ備わっているわけではありません。たとえばチンパンジーも、相手が自分に興味を持っているかどうか、あるいは自分に対して怒りを感じているかどうかぐらいはわかります。

しかし、そこから先は難しい。あるチンパンジーが、別のチンパンジーに怒りの感情を向けているとしましょう。見られたチンパンジーは、相手が怒っていることを理解します。では、怒っているチンパンジーは、相手が「自分の怒りを理解していること」を理解できるでしょうか。

チンパンジーは、その能力が弱いと考えられています。自分の感情を相手が理解しているかどうかを、うまく理解できない。しかし人間は、それが当たり前にできます。相手が自分の感情を理解していることを理解できるし、その上で相手がどういう行動に出るかも推測できる。誰かに怒りを向けた瞬間に、相手が謝罪するか反撃に出てくるか、おおむね察しがつくわけです。

そういう能力がなければ、他者との信頼関係を築くことはできません。何手先までも他者の心の中を推察できるからこそ、相手とのあいだにシンパシーが生まれるのです。小学校では「誰とでも仲良くしましょう」と指導するので、これは教育によって身につく文化のような印象もありますが、実は生物学的な特徴として、私たちにあらかじめ備わっている能力なのです。
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