古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

『さらば、資本主義

2018-01-23 | 読書

佐伯啓思さんの『さらば、資本主義』(新潮新書、2015年10月)を紹介します。

「世界的に資本主義の転機になりつつあることは間違いなく、日本はその転換の先頭を走っている」(あとがき)が本書のテーマで、雑誌「新潮45」に連載された時評をまとめたものです。

 2014年12月の衆院選挙の争点はアベノミクスの評価だった。「アベノミクスは充分な効果を出せず失敗だった」というのが野党の主張でしたが、「ではどうすればよかったか」明確な対案がだせなかった。

おそらく大多数の人はアベノミクスに一定の評価を与えながらも、今後の展開に確信がもてないでしょう。

 アベノミクスはいったい、うまくいっているのか、それとも挫折しつつあるのか。この政策の「わかりにくさ」は、この政策に矛盾する考えがいくつも含まれているからです。

まず、第一の矢は、超金融緩和により2%程度のインフレを実現するという。これは、貨幣供給量をふやせば物価が上がる。という理屈です。経済理論ではマネタリズムという。第二の矢は、財政出動により景気回復を目指す。言うまでもなくこれはケインズ主義です。

 ところが、マネタリズムとケインズ主義はまったく相反する。ケインズ主義は、不況下にあって金融政策はさして意味がない。へたに金融緩和を行うと、そのお金は実体経済に回らず、ただ金融市場で投機に使われるだけで、それは経済に対して悪影響を及ぼすという。一方、マネタリズムは、ケインズ政策で財政拡張しても景気は良くならず財政赤字を膨張させ、経済を混乱させる。政府(および中央銀行)の出来ることは、せいぜい貨幣量を動かして物価水準に影響を与えるだけで、雇用や景気には影響しない。政府は景気を調整などできない。経済を良くするには、市場競争条件を整えて、能率の悪い分野から能率の良い分野に資源を移動するしかない。

 この考えによると、中央銀行が貨幣量をコントロールするのは、もともとはインフレを抑えるため。それをアベノミクスはインフレをもたらすため貨幣量を増やそうとしている。

 かくて第一の矢と第二の矢はまったく違った経済学の上に乗っている。

 確かに安倍首相は、「デフレ脱却のためには何でもあり」と言っている。だから両者のプラス面が出れば万々歳!マネタリズムにより物価が上がり、ケインズ主義で景気が回復すれば大成功です。

しかし逆になったらどうか。金融緩和はただ金融市場で投機的なバブルを引きお越し、実体経済にはほとんど影響を与えない。一方財政政策も赤字ばかり増やして、さしたる景気回復効果もない。こうなると目も当てられない。いったいどちらになるかやってみないとわからないのです。

 そこで、第三の矢で経済成長経路に持ち上げようという。しかしこれがまたよくわからない。いったい、アベノミクスの軸足は、政府が経済を動かす主導的役割を演ずる戦略的経済にあるのか、それとも構造改革を一層進める市場競争強化なのか、どちらにあるのでしょう。

 結局のところ、政策の目指すところは次の一言に収斂する。

「この激しいグローバル競争に勝つための競争力をつける」。今日の世界は、グローバルな市場を巡って資源や資本や市場の獲得競争がかつてなく激化している。だから、このグローバル競争に勝たねば成長できない。つまり、「グローバリズム」、「競争力」、「成長追及」の三つがアベノミクスのキーワードになっています。

 今日のグローバル競争のなかでいったいほかに選択肢があるのか、問われれば確かに答えに窮する。だから野党も有効な代案をだせないでいる。

しかしそうであれば我々はたいへん危険な道に入り込んでいるかもしれない。少なくとも、知識人やジャーナリズムは、この「グローバリズム」、「競争力」、「成長追及」の三点セットに疑いを向けるべきだ。

 構造改革に明け暮れた約20年は、まさに日本経済に「グローバルウ競争力」を付ける持続的実験だった。そしてどうなったか、それがデフレの10数年、格差の拡大停滞の20年だった。

 そもそも日本経済のデフレの原因はどこにあったか。

第一は人口減少、高齢化時代の到来です。将来の市場の拡大は望めない。需要減はデフレ圧力になります。

 第二はグローバル化です。先進国の企業は新興国の企業と競争せざるを得ない。激しいコスト競争にさらされる。これもデフレ圧力です。

 第三に構造改革。構造改革の基本的発想は、供給側を合理化することです。しかし問題は需要側にあるから、デフレ・ギャップが開くばかりです。

こういうわけですから、日本経済は「グローバリズム1」、「競争力」、「成長追及」の三点セットを見直さざるをえない。発想を転換して「グローバル化しなくとも国内でお金を回せばある程度成長出来る」、「無理な成長追及よりも安定した社会にあってこそ幸福だ」。これは価値選択の問題で先の選挙(2014年)の争点はそこにあったはずでした。


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