古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

反・自由貿易論(1)

2013-07-19 | 読書
『反・自由貿易論』(中野剛志著、2013年6月刊新潮新書)は面白い本でした。
「自由貿易は好ましい」は、主流派経済学の基本的な命題の一つと考えられています。教科書には、その代表的根拠として、「比較優位説」(リカード)が挙げられている。
 ある二国を想定したとき、それぞれが自国内であらゆる産業を行うより、互いに相対的に得意とする分野に特化して分業し、それぞれの生産物を自由貿易した方が有利だという理論です。分業特化で生産性が上がり、互いに利益が得られるからです。
よく引き合いに出されるのが、毛織物とワインの例です。A国・B国がそれぞれ自国内で毛織物とワインを作るより、A国が毛織物・B国がワインと分業し、できた生産物を貿易で交換した方が、全体の生産量が増え、利益が上がる。たとえA国の生産能力が高く、毛織物もワインもB国より効率よく作れるとしても、B国と分業して互いの品を貿易で交換した方がお互いのメリットは大きくなる、としています。
しかし、少し考えてみればわかりますが、この理論が成立するには、ある種の前提条件が必要です。たとえば、
① 生産要素は国内の産業間を自由に移動でき、そのための調整費用もかからないが、国と国との間の国際的な移動はない。
つまり、毛織物を作っている労働力が、費用なしでワインを作る労働力に移動できる。また、労働力は国外には移転しない。
② 生産要素は完全に雇用されている。
つまり、毛織物産業(ワイン産業)が他国に移転しても、失業は発生しない。
③ 国内市場では、生産物市場、生産要素市場ともに完全競争が行われている。また、国際貿易の運送費用は存在しない。
つまり、貿易品の運送費用を考えなくてもいいし、分業で生産性が上がるのは、自由市場の存在が前提です。
等々の前提が必要で、少なくともリカードは、今日のようなグローバル経済下のグローバル貿易を考えていたのではなく、彼の考えた貿易は、国と国が独立に経済を運営して、その国と国との間で行われる国際貿易でした。
 私が面白いと感じたのは、経済学の命題には、それが成立するための前提が必ずある、という主張です。
「金融市場のグローバル化」についても、
「自由な資本移動が大きな利益をもたらす、という実証的な証拠はない」(ジャグヂッシュ・バグワテイ).
「資本の流入と経済成長の間に正の相関関係がない」(ラグラム・ラジャン)
「国際的な資本移動の行き過ぎがリーマンショックをもたらしたのであり、今後は世界各国が協力してグローバル化を適切に制御することが必要である」(ジョセフ・スチグリッツ)等の研究があり、金融自由化が経済成長を促し、国民にメリットをもたらすためには、いくつかの前提を必要とすることを述べている本です。(続く)

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