古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

空洞化のウソ

2013-01-20 | 経済と世相
「空洞化のウソ」(松島大輔著、2012年7月刊、講談社現代新書)という本を図書館の棚で見つけ、読んでみました。著者は1973年生まれ、通産省入省後06年から4年、インドに駐在。現在、タイ王国政府政策顧問として日本政府より国家経済社会開発委員会に出向と言う。
 で、何故この本を読もうと思ったのか、先に野口悠紀雄さんの著書で「日本が製造業で稼ぐ段階を過ぎている。」という記述を読んだ。さらに、浜矩子さんは「新・国富論」でこう述べている。『結局のところ、税金が最も低くて、人件費が最も安くて、資産が最も効率的に運用できる場所に向かって、ヒト・モノ・カネが国境を越えてどんどん吸引されていってしまう。すると、国境の内側には、何が残るか。それはすなわち、富を求めて国境を越えられない者たちに他ならない。儲からない企業。運用する資産がない人。・・・・
 だが、思えば、国というものは、まさしくこのような人々のために存在するという面がある。国や政策が自分勝手に飛び回る人々のために何かをする必要はない。』
そこで、「具体的に日本経済の今後の姿はどうなるのか?」、ヒントを得たいと思ってこの本を手にしました。以下、「空洞化のウソ」から・・
一国の国民経済の成長に関し、クローサーの指摘がある。
段階    国家     貿易収支  所得収支  経常収支
第一段階 未成熟債務国家  赤     赤     赤
第二段階 成熟債務国家   黒     大幅赤   赤
第三段階 債務返済国家   黒     黒字化   黒
第四段階 未成熟債権国家  黒     黒     黒
第五段階 成熟債権国家   赤字化   黒     黒
第六段階 債権取崩国家   大幅赤字  赤     赤
現在の日本は、第四段階に達し、第五段階の「成熟再建国家」に向おうとしている。今までに積み上げた債権をいかに有効に活用するか。筆者は、その答が「新興アジヤに投資せよ」だと説きます。
そうした日本の未来の生活をSF風に記述している。
「202X年某日、私(男性40歳)は、両親の介護のため、日本で妻の留守を守り、ウィークデイを過ごしている。この10年ほどタイやマレーシヤで暮らした経験を生かし、SOHO的なバックオフィス業務をこなしながら、地域社会の活性化のためのボランテイアにいそしんでいる。まだ小学校の下の娘は、最高水準の基礎教育を提供すると定評のある日本の地元公立小学校を選ぶが、すでにクラスメートの3分の1は、インド人と中国人、そしてタイ人とベトナム人となり、・・・・
妻は現在、シンガポールとデリーを拠点に仕事を、毎週金曜の深夜便で帰り早朝羽田に到着。週末を日本で家族と過ごし、月曜の朝にはシンガポールかデリーに帰る・・・」
 野口先生は「日本は製造業で稼ぐ時代を卒業、次は金融業」といっていますが、アングロサクソン国家のようにM&AやFUNDで儲ける方式を日本人が得意とするとは思えません。日本経済が金融で稼ぐとは、海外に直接投資した会社・工場群の収益を日本に還流するということではないでしょうか。その場合、日本人は海外の工場・会社で働くことが日常化することになり、こうした風景が珍しくなくなるかもしれません。

 日本企業のアジヤにおける現地化は、結果的に日本国内の課題を解決する、と著者は言う。海外進出で、日本の技術開発も伸展するといいます。そして、「リバース・イノベーシヨン」として、現地化が生み出すビジネスの具体例をいくつか紹介しています。
 蓄電式扇風機は、電力の安定性を欠いた「新興アジヤ」諸国の所産です。このメイド・イン・マレーシヤは、節電中の日本の2011年孟夏をしのぐのに大きく貢献しました。
 GEは、インドや中国の農村にある病院に向けて、超音波画像診断装置を開発した。本来なら数億円かかるこの医療機器を、携帯電話を端末として利用することで、わずか百数十万円で提供することに成功した。この医療機器は、最終的に、インドや中国だけでなく、健康意識や管理意識の高い米国の個人消費者市場に爆発的に売れるようになった。
 米国の農耕会社デイーア&カンパニー社が、当初インドの低所得農民向けにトラクターを開発した。しかし、今一番売れているのは、インドではなく、米港だそうだ。米国国内の日曜菜園などを楽しむ個人に、百数十万円の格安トラクターとして受け入れられている。
 アジヤをねらった新製品が、最終的に本国に朔行する。これが「リバース・イノベーシヨン」だそうです。
 追伸:こうした未来を実現するためには、むしろ円高の方が好都合ですから、安倍政権の円安政策は、経団連メーカーを一時的によろこばせるだけ?