shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

【追悼】ミコたんのシングル盤特集② ~コロムビア・イヤーズ~

2020-08-15 | 昭和歌謡・シングル盤
 ミコたん特集の後半は、持ち前のパワーに加えて表現力に深みを増したことによって歌手としての円熟期を迎えた60年代中盤から後半にかけてのコロムビア時代を特集します。

①はじめての恋人 / 砂に消えた涙(SAS-432)1964.12
 「ヴァケーション」もそうだったが、彼女のシングルにはB面がA面を凌駕しているような盤も少なくない。このレコードもその典型で、A面の「はじめての恋人」も悪くはないが、やはりここはB面の「砂に消えた涙」に尽きるのではないか。この曲はオリジナルのミーナに加え、ザ・ピーナッツや竹内まりや、サンディーなどカヴァーにも名唱が目白押しだが、私的にはこの曲が持つ甘酸っぱい感覚をこれ以上ないくらい見事に歌い上げたミコ・ヴァージョンが一番好きだ。漣健児氏による “青い月の光を浴びながら~♪” というロマンチックな訳詞も素晴らしい。
弘田三枝子/砂に消えた涙 Un buco nella sabbia~Mina (1964年)


②太陽の海 / 夕陽のなぎさ(JPS-7)1965.06
 ①の「砂消え」に続いてまたまたミーナのカヴァーである。ビートルズの登場によって古き良きアメリカン・オールディーズの時代が完全に終焉を迎えたせいか、この頃になるとミーナやジリオラ・チンクエッティ、フランス・ギャルといったイタリアン / フレンチ中心のヨーロピアン・ポップスのカヴァーに軸足を移しつつあるのが当時の洋楽事情をダイレクトに反映していて中々興味深い。それにしてもミコのこのカヴァー、曲を完全に自家薬籠中のものにしており、ミーナのオリジナル・ヴァージョンよりも遥かに魅力的に響く。曲の知名度が低いせいで話題に上ることはあまりないかもしれないが、これもまたカヴァーがオリジナルを超える瞬間を音溝に刻んだ名シングルだと思う。尚、この曲に続いてリリースされた「夜の太陽」(←これも良い曲!)とタイトルが似ているのでいつもこんがらがってしまう。困ったものだ。
弘田三枝子 太陽の海 1965 / Stessa Spiaggia Stesso Mare


③レオのうた(SCS-1)1965.12
 このレコードは手塚治虫のTVアニメ「ジャングル大帝」の挿入歌を集めた4曲入りEPで、彼女が歌っているのはA②だけなのだが、彼女を語る上で欠かせない重要な曲なので気にせず紹介。この「レオのうた」という曲、子供向けアニメのエンディング・テーマ曲だからといってバカにしてはいけない。ここで聴ける彼女のヴォーカルはまさに “ザ・ワン・アンド・オンリー” と言ってもいいくらい素晴らしく、力強さとキメ細やかさを兼ね備えた抜群の表現力を駆使し、この難曲をものともせずに(←彼女以外でこの曲を歌いこなせる歌手は美空ひばりぐらいしか思いつかない...)壮大なスケール感を感じさせる伸びやかな歌声で聴く者を圧倒する。私に言わせれば彼女の全作品中でも三指に入る大傑作で、わずか1分43秒の中に弘田三枝子という稀代の名シンガーの凄さが濃縮された、まさに人間国宝級のヴォーカルが楽しめる1曲だ。因みにこの曲の作曲者がシンセサイザー奏者として有名なあの冨田勲だと知った時はビックリした。
レオのうた 弘田三枝子/コロムビア女声合唱団


④スーベニールス / そよ風に乗って(JPS-30)1966.02
 A面はコニー・フランシスのカヴァーだが、こういうさりげない隠れ名曲を取り上げるあたりはさすがという他ないし、洗練されたミコのヴォーカルは何度聴いてもウキウキワクワクさせられる。しかしそんなA面が霞んでしまうくらい凄いのがマージョリー・ノエル一世一代の名曲をカヴァーしたB面の「そよ風に乗って」だ。この曲は音域が広く音程も上下に分かれていてかなり難しい曲だと思うのだが、ミコは余裕すら感じさせる声量で原曲の持つ爽快な雰囲気を絶妙に表現している。囁くように歌いながらサビのパートで一気にたたみかけるところなんかもう快感そのもので、決してパンチ一辺倒ではない、軽やかな歌いっぷりで聴く者を魅了するヴォーカルこそが天才シンガー、弘田三枝子の真骨頂だと思う。
弘田三枝子 そよ風に乗って 1966 / Dans Le Meme Wagon


⑤黒いブーツと皮ジャンパー / 帰らぬ少年兵(SAS-879)1967.04
 A面の「黒いブーツと皮ジャンパー」は最初にタイトルを見た時はアダモの「ブルージーンと皮ジャンパー」の改題カヴァーだと思っていたのだが、実際に聴いてみると全く違う曲でビックリ。作詞作曲のクレジットを見ると、橋本淳=いずみたくコンビのオリジナル作品だった。哀愁舞い散るハーモニカや涼しげな音色のヴィブラフォンが絶妙な味わいを醸し出し、軽快に疾走するミコのヴォーカルを引き立てている。特に後半部分のジャジーなフィーリング横溢のスキャットがめっちゃクールでカッコイイ(^o^)丿 尚、B面はコーリン・ラベットのカヴァーで、時代の空気を感じさせるミコの語りが面白い。

⑥渚のうわさ / 風とオトコのコ(P-1)1967.07
 コロムビア・レコードのポップス歌謡部門であるPシリーズの記念すべき第1弾となったこのシングルは A B面ともに橋本淳=筒美京平コンビの作品だ。A面の「渚のうわさ」は清々しい歌謡ポップスで、ただでさえ美しいメロディーを更に引き立てるストリングスのアレンジが絶品の大名曲。緩急のツボを心得た彼女の伸びやかな歌声が耳に心地良い。B面の「風とオトコのコ」は昭和歌謡とGSが見事に融合した “ひとりGS” の大傑作で、ビートの効いたサウンドをバックにこの時代ならではのやさぐれ感を醸し出す彼女のヴォーカルが圧倒的に素晴らしい!!! ミコの歌謡曲路線の曲の中で私が一番好きなのが他でもないこの曲なのだ。それにしてもこの「渚のうわさ」と「風とオトコのコ」のカップリングって昭和歌謡史上最強と言ってもいいくらい凄いシングルだと思う。
弘田三枝子 - 渚のうわさ / 風とオトコのコ (1967)