shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

【追悼】ミコたんのシングル盤特集①~東芝イヤーズ~

2020-08-10 | 昭和歌謡・シングル盤
 先月、弘田三枝子が亡くなった。私はビートルズだけでなく日本の歌謡ポップスも大好きで、中でも彼女は超お気に入りの歌手だったのでめちゃくちゃショック(>_<)  彼女を形容するのによく “パンチの効いた歌声” だとか “天性の歌唱力” だとかいった表現を目にするが、それは彼女の魅力のごく一部に過ぎない。彼女の真の凄さは、カヴァー・ポップスの訳詞を原曲のメロディーに乗せる時に符割りやアクセントの入れ方・発声法などを工夫することによって曲のニュアンスを自在に変え、オリジナルを超えるような作品を次々と生み出し続けたことにあり、私の知る限り、弘田三枝子以前に彼女のように歌った歌手はいない。そういう意味で、彼女こそが日本における女性ビート・ポップ・シンガーの先駆者であると同時に最高峰であると私は確信している。今日はそんな彼女の遺した膨大な数のシングル盤の中から東芝時代に絞って何曲か取り上げよう。

①子供ぢゃないの / 悲しき片思い(JP-5089)1961.11
 弘田三枝子の記念すべきデビュー・シングルで、オリジナルはAB面共にヘレン・シャピロの代表曲だが、どちらもシャピロ盤を超える出来に仕上がっているところが凄い。とにかくこれを聴けば彼女がとても14才とは思えない完成されたスタイルを持ったシンガーだったことがよく分かるだろう。漣健児の訳詞も実にユニークだし(←“隣のおじさんステキだけど 今でもガムを買ってくれるから嫌い” のラインなんかめっちゃ笑えるwww)、タイトルを「子供じゃ」ではなく「子供ぢゃ」としたセンスにも脱帽だ。
弘田三枝子 子供ぢゃないの


②かっこいい彼氏 / シェーナ・シェーナ(JP-5148)1962.09
 このシングル、コニー・フランシスをカヴァーしたイケイケなA面「かっこいい彼氏(Gonna Git That Man)」ももちろん良いが、さりげなくB面に入れられた「シェーナ・シェーナ」という隠れ名曲に注目したい。オリジナルはこれまた知る人ぞ知るガール・グループ、シェパード・シスターズなのだが、中近東をイメージさせるアップテンポな曲想が彼女のパンチの効いた歌声と見事にマッチして原曲を凌駕する作品に仕上がっている。
弘田三枝子 シェーナ・シェーナ 1962 / Schoen-a Schoen-a

シェファード・シスターズ シェイナ・シェイナ 1962 / Schoen-A Schoen-A


③リトル・ミス・ロンリー / ヴァケーション(JP-5161)1962.10
 このシングル盤を手に入れるまで、彼女の代表曲の一つである「ヴァケーション」がB面扱いだったとは夢にも思わなかった。まぁ「イエスタデイ」を「アクト・ナチュラリー」のB面として涼しい顔でリリースした東芝らしいといえばそれまでだが...(笑) 冗談はさておき、コニー・フランシスのオリジナルの歌詞が “夏休み” だけについて歌っているのに対し、漣健児の訳詞は発売日が10月になったからなのか、“夏→秋→冬→春” と1年を通した内容にアレンジされているのが面白い。その溌剌とした歌声は空前にして絶後と言っても過言ではない素晴らしさで、カヴァー・ポップスの楽しさを濃縮還元したかのような極めつけの名唱だ。
弘田三枝子 ヴァケイション


④想い出の冬休み / マック・ザ・ナイフ(JP-5199)1963.03
 これは凄いカップリングのシングルだ。A面はご存じコニー・フランシスの名曲のカヴァーだが、表現力を増した彼女のヴォーカルはまさに絶品と言ってよく、一人二重唱もばっちりキマッている。B面の「マック・ザ・ナイフ」はソニー・ロリンズの名演でも知られるジャズのスタンダード・ナンバーだが、何度聴いてもこの堂々たる歌いっぷりには圧倒される。しかもオール・イングリッシュでである。とてもじゃないが16才とは思えない、凄味すら感じさせる圧巻のヴォーカルだ。彼女が敬愛するエルヴィスの歌唱法がちらほら顔をのぞかせるあたり(1:16, 1:43, 1:52, 2:25)も実に面白い。
弘田三枝子 想い出の冬休み(1) 1963 / I'm Gonna Be Warm This Winter

弘田三枝子 マック・ザ・ナイフ 1963 / Mack The Knife


⑤悲しきハート / 月影のレナート(JP-5236)1963.07
 初期ビートルズでも明らかなように、カヴァーでオリジナルを超えるというのは超一流アーティストの証だと思うのだが、例えばこの「悲しきハート(Lock Your Heart Away)」という曲、スーザン・シンガーというイギリスの女性歌手(←ヘレン・シャピロのいとこらしい...)が歌うオリジナル・ヴァージョンを聴いてもあまり伝わってくるものがないのだが、ミコが歌うこのカヴァー・ヴァージョンは段違いの説得力でもってグイグイと心にくいこんでくる。彼女の歌声の魅力を最大限に引き出したアレンジが兎にも角にも素晴らしい。ミーナをカヴァーしたB面も素晴らしい仕上がりだ。
弘田三枝子 悲しきハート 1963 / Lock Your Heart Away


⑥ダンケシェーン / 涙のためいき(TR-1050)1964.03
 彼女は小学校6年生の時にジャズ・ミュージシャンのティーブ釜萢(←言わずと知れたムッシュかまやつのお父さん!)に師事して米軍キャンプのステージで歌っていたという凄い経歴の持ち主だけあって、純粋なポップスだけでなくジャズもラクラク歌いこなしてしまう筋金入りのシンガーだ。この「ダンケシェーン」という曲のアレンジはオリジナルであるブレンダ・リーのヴァージョンに倣ってジャジーなフィーリングに溢れているが、スモールコンボをバックにノビノビと歌うミコの歌声が快適そのもので耳に心地良い。決して “パンチ力” だけではない、このシンガーとしての懐の深さこそが歴史に名を残す彼女のような “選ばれし者” と凡百の流行歌手たちとの一番の違いだろう。
弘田三枝子 ダンケシェーン 1964 / Dank Schon
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