shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

「スター・トレック: ディスカバリー」

2024-01-14 | TV, 映画, サントラ etc
 「エンタープライズ」が打ち切りになってから12年後の2017年に復活したスター・トレックのTVシリーズが「ディスカバリー」だ。最初にこのニュースを聞いたときは“また新しいスタトレが見れる...(^o^)丿” と期待に胸が躍ったが、次々と入ってくる情報によると、クルーの中の唯一のカップルがゲイだとか、トランスジェンダーやノンバイナリーのクルーがいるとか、とにかくポリコレ/ LGBTQ まみれの話題ばっかりで(←こんなに LGBTQ率の高い集団って不自然すぎるやろ!)ちょっとウンザリ。誤解の無いように言っておくが私は LGBTQ 自体には何の関心もない。私が嫌なのはいわゆるひとつの “ポリコレゴリ押し” 的な風潮で、昨今のディズニー作品なんかでも顕著だが、度を越した LGBTQ推しには虫唾が走るのだ。
 このように観る前からネガティヴな先入観を持ってしまった上に Netflix のストリーミングでしか観れないということも重なって(←ネット配信はどうも性に合わない...)、“ブルーレイが出てからゆっくり観よか...” ということでとりあえずスルー。去年になってやっと同シリーズのブルーレイが“トク選BOX” と題して大幅値下げされたのを機に購入。シーズン1から観始めたのだが、ポリコレ云々のネガティヴな先入観が消し飛ぶくらいにストーリーが面白い。話にグイグイ引き込まれ、“次はどうなるんやろ?” と続きが気になって気になって、1日に3話も4話も一気見してしまうこともあったくらいだ。ただ、クリンゴン絡みのグロテスクな描写やゲイ・カップルがいちゃつくシーンetc、不快な映像が時々出てくるので、そういうのは早送りで飛ばし見した。
 この「ディスカバリー」はスタトレの得意技であるパラレル・ワールド(平行宇宙)やらタイムトラベルを駆使したアッと驚くようなストーリー展開で観る者を惹きつけるのだが、もう一つ優れている点は登場人物のキャラが立っていることで、各クルーが実に良い味を出している。ティリー(←お笑い担当キャラやね...)やサル―、デトマー、リノなど挙げていけばキリがないが、私はその中でも特にフィリッパ・ジョーヤウというキャラに強く魅かれるのだ。
Welcome to my darkside Philippa Georgiou, Star Trek Discovery


 USSシェンジョウ号の船長であるジョージャウは、主人公マイケル・バーナムの上官で彼女にとっては母親的な存在だったが、シーズン1が始まってすぐにクリンゴンとの戦いで死んでしまう。ところがシーズン1の終盤でディスカバリー号が迷い込んだパラレル・ワールドにおいて、巨大なテラン帝国を恐怖で支配する皇帝として再登場。クーデターにあって追い詰められたところをマイケルが転送でこちらの世界に一緒に連れてきてしまい、その後は連邦の秘密組織セクション31のエージェントとして数多くのエピソードで大活躍することになる。
 並行世界からやってきたこのジョージャウは極悪非道なテラン人の親玉だっただけあって、拷問や大量虐殺を屁とも思わない冷酷さを持った、“力こそすべて” を地で行く暴力大好き人間として描かれているのだが、彼女の魅力は竹を割ったような真っすぐな行動を取るところで、裏表が無いというか、悪は悪でも卑劣・姑息な行為は絶対にせず、観ていてむしろ痛快というか、思わずカッコエエなぁと共感してしまうのだ。
 言動も痛快そのもので、“私はリーランドを追い回して狩るのが楽しみだ。ヤツの肌からナノボットが這い出て来るのを見てやる。” とか、“私の望みは、戦いになったら全員倒してあの世でしもべにすることだ。”とか、とにかくその一言一句がめちゃくちゃ面白い。
 しかも戦いにおいては自ら先陣を切って乗り込んでいって敵をボコボコにしてしまう肉体派という点も実に魅力的。特にAIに乗っ取られてサイボーグ化したリーランド指揮官がディスカバリー号に乗り込んできた時には殴り合いのタイマン勝負を仕掛けてマイケルたちのために時間を稼ぎ、顔面から流血しながらも最後はリーランドをブッ倒し、更にブーツで踏み潰してその肉片の付いたまま平気で歩き回るという女傑なのだ。これはこれまでのスター・トレックにはいなかった異色のキャラ設定だが、だからこそ新鮮で魅力が増す。彼女のキャラは “超かっこいいワル” という意味の “badass” と表現されることが多いが、まさに言い得て妙という感じだ。
 このジョージャウを演じているのは「007 Tomorrow Never Dies」(1997)で “戦うボンド・ガール” として大ブレイクしたミシェル・ヨー(←ミハエル・シューマッハ時代のフェラーリF1監督を務め、後にFIA会長にもなったジャン・トッドの嫁さん)で、キレッキレのカンフー・アクションを得意とする彼女にピッタリのキャスティングだ。言ってみればハイテク満載の23世紀の宇宙船に一人だけ “女ブルース・リー” が乗っているようなもので、そのあたりのギャップがめちゃくちゃ面白い。
 彼女とクルーたちの関係の変化もこのシリーズの見どころの一つで、最初は彼女と距離を置いていたクルーたちも彼女が憎まれ口を叩くのは彼女なりの愛情表現であることに気付き始めてその勇敢さや正直さに魅かれるようになり、彼女の方もクルーそれぞれの人格や能力を認めるようになっていく様子が実に上手く描かれており、これぞスター・トレック!と言いたくなるような見事な脚本だと感心させられた。
 私はこの「ディスカバリー」を “ジョージャウの人としての成長の物語” として楽しんできたのだが(→彼女のいないシーズン4はイマイチ物足りない...)、中でもシーズン3第9話「時空よ、永遠に」で彼女が最後に艦を去る時に、それまで何かと対立し呼び捨てにしてきたサル―船長に対し“感謝する... 船長” とリスペクトを込めた眼差しで握手を交わし、“歩く失敗人事”(←この表現クッソワロタ)とおちょくってきたティリー副長にハグされて感極まるように肩を抱き返すところなんかは「ディスカバリー」屈指の名シーンだと思うし、クルーたちが集まって彼女を偲ぶシーンも実に感動的で良かった。
To Philipa - Star Trek Discovery 3x10


 こんなに魅力的なカリスマ・キャラを得たのだからいっそのことジョージャウを主人公にした新シリーズ作ったらエエのに... と思っていたら、パラマウントも同じことを考えたようで当初は彼女が主役のスピンオフドラマを計画していたらしいのだが、更にそのアイデアを推し進めて何と「セクション31」というタイトルで映画化することになったらしい。いやぁ、これは今から大いに楽しみだ。
Best of Emperor Georgiou (Michelle Yeoh) | Star Trek: Discovery season 2