shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

「赤盤」「青盤」リミックス2023

2023-11-12 | The Beatles
 「Now And Then」が届いてちょうど1週間になるが、聴けば聴くほど胸に沁み込んでくる。実に滋味深い味わいの一曲である。ましてや4人が “共演” しているプロモビデオを観てしまうとそれこそ目頭が熱くなってしまう。この曲を聴いた時の反応をYouTube上で様々な人たちがアップしているのを見たが、中でもこの人↓のがわかりやすくて良かった。
Classical Composer Reacts to THE BEATLES: NOW AND THEN | The Daily Doug (Ep. 686)


 今回の「Now And Then」プロジェクトにおいて、“デミックスによる奇跡的な新曲の完成” と並ぶもう一つの目玉が「赤盤」「青盤」の2023リミックス盤のリリースだ。これまで何度も書いてきたように「赤盤」こそが私が初めて買ったビートルズのレコードであり、もしもこのレコードとの出会いがなかったら、ヘタをすれば今とは全く違った無味乾燥な人生を送っていたかもしれない。金パロ盤やニンバス盤、スタンパー1G盤や高音質各国盤の入手に一喜一憂するビートルズ・アナログ桃源郷の楽しさを知らずに生きる人生なんて、考えただけでもゾッとする。つまり「赤盤」がなければ今の私は存在しない... と言えるぐらい絶大な影響を受けているわけで、同じベスト盤でも「Oldies」や「1」のように何の想い入れもない凡盤駄盤の類とは激しく一線を画す、特別なレコードなんである。
 シングル「Now And Then」の1週間後にそんな「赤盤」のニュー・リミックス盤が「青盤」と同時リリースされると聞いて私の胸は高鳴った。2017年の「Sgt. Pepper's」を皮切りに「White Album」「Abbey Road」「Let It Be」「Revolver」と続いてきたジャイルズ・マーティンによるリミックス・プロジェクトが初期の作品をどのように聴かせてくれるのか興味津々だった私にとって、「赤盤」というのは今後のビートルズ・リミックス盤の出来を占う大きな試金石のようなものだったからだ。
 話が「赤盤」に偏ってしまったが、後期の曲はシングルではなくアルバム単位で聴くことがほとんどだったせいもあって「青盤」に対しては愛着が薄く “後期の有名曲をただ並べただけ” というのが正直なところだったし、その考えは今も変わらないが、US編集LPである「Magical Mystery Tour」「Hey Jude」収録の曲や、ボートラ扱いの「Hey Bulldog」をジャイルズがどのように料理するかに興味があったので「赤盤」「青盤」の両方とも一気買いすることにした。当然輸入盤LP狙いである。いくつかのサイトを比較した結果 “まとめ買い価格” を使ったHMVが一番安かったのでそこですぐに予約した。
 レコードは発売日の11/10に到着。新品なのでクリーニングの必要がないのが嬉しい。すぐに「赤盤」のディスク1をターンテーブルに乗せて針を落とす。そこで静寂の中から聞こえてきた「Love Me Do」はベースがめっちゃデカく入っていて全体のバランス・印象が旧来のミックスとはかなり異なっており、のっけから驚かされた。実を言うとシングル「Now And Then」のB面はテキトーに1回聴いただけでA面ばかり繰り返し聴いていたのでこんなことになっていようとは夢にも思わなかったのだ。続く「Please Please Me」も何か思うてたのと違う。しかし「She Loves You」あたりからこのニュー・ミックスの音作りに慣れてきて、「I Want To Hold Your Hand」や「All My Loving」なんかは結構楽しめたし、弦楽器の配置を変えて音場の広がり感をアップさせた「Yesterday」はその包み込まれるような感じが気持ち良い。ただ、上記の初期シングル曲やボートラの「I Saw Her Standing There」などを聴いていて思ったのだが、ひょっとすると1963年の最初期2トラック録音はデミックスといえども音質面で色々と難しい部分があるのかもしれない。
 今回のプロジェクトは “左右泣き別れステレオ” を解消して定位を整えるというメリットと、それぞれ楽器ごとにデミックスしてからそれらを改めてリミックスするために楽器の音が少し変わってしまうというデメリットの狭間で落としどころを見つけるという気の遠くなるような作業だったと思うのだが、それぞれの曲の最適解というのは当然聴く人によって変わってくるわけで、今回のジャイルズのリミックスに関しては賛否両論あって当然だろう。私的には曲によって当たり外れはあるものの、それなりに興味深く楽しめたと言えるが、こればっかりは個人個人で今回のニュー・ミックスに対する好き嫌いを判断するしかないだろう。
 そんな中で私が “さすがにこれはちょっとやりすぎでは???” と思ったのが「青盤」収録の「I Am The Walrus」だ。特に曲の中盤から後半にかけては各楽器のバランスがかなり変えられており、それだけでも結構違和感があるのに、エンディングに近づくにつれてこれまで聴いたことがないような音(←ラジオ音声やオーケストラetc)がわちゃわちゃ出てきてもう何が何だか... の世界。おそらくオリジナルのマルチトラックにあったボツ音源をジャイルズの判断で復活させたのだと思うが、ハッキリ言ってこういう改悪はやめてほしかった。例えるならクラシック・カーのエンジンを最新型に載せ替えて更にリアウイングやディフューザーまで取り付けたような感じ、といえばわかってもらえるだろうか?
I Am The Walrus (2023 Mix)


 「赤盤」では「In My Life」がキツかった。どういうわけかデジタル臭さが強く出過ぎて、この曲のキモというべき抒情性に浸ろうと思っても高音がやかましすぎて楽しめないのだ。ストリーミング音源をスマホとイヤホンで聴いている今時の若者ならこういうのも平気なのかもしれないが、昭和育ちのコテコテ・アナログ人間の私は正直ちょっとついていけない。お父さんの故ジョージ・マーティンがこれを聴いたらどう思うだろうか?
In My Life (2023 Mix)


 私に関する限り、ビートルズのニュー・リミックスというのは物珍しさで買って聴き、しばらくすると飽きて結局オリジナル盤に戻るというパターンが圧倒的に多かった。「Yellow Submarine Songbook」しかり、「Let It Be Naked」しかりである。今回の2023年ミックスの「赤盤」「青盤」もおそらくそうなるだろうし、それで十分だと思っている。こう言っては身も蓋もないが、“珍味” と “美味しい” は違うのだ。そう言えばこの2023年ミックス盤が届いた同じ日にたまたま「青盤」のスペイン・オリジナル盤が海外から届いたので興味本位で聴き比べてみたのだが、私の耳にはスペイン盤の方が圧倒的に心地良く響いた。今後もテクノロジーの進化と共にどんどん新しいミックスが作られることになるのだろうが、それによって逆にオリジナル盤の価値が上がっていくという皮肉な現象が生まれてきそうだ。

【追記】レコードが届いてから数回聴き込んで徐々にこの新しいミックスにも慣れてきたところだが、今一番不満に感じるのは「青盤」のボーナス・トラックの選曲だ。新曲「Now And Then」はまぁ仕方ないとしても(←でもみんなシングル盤で既に買ってるでしょ?)、残り8曲の中で新出といえば「Hey Bulldog」のみ(←期待したわりにはイマイチのミックスやった...)で、後は「Sgt. Pepper's」や「White Abbum」で既出の音源ばかり。私としては「Magical Mystery Tour」や「Yellow Submarine」で未だニュー・ミックスを出してない曲(→「Your Mother Should Know」聴きたかったなぁ... 「It's All Too Much」なんか絶対面白そうなのに...)でボーナス・ディスクを作ってほしかった。“ビートルズはファンに二度買いさせない...” とは何だったのか。
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