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アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

ウクライナ・「公正な平和」より「無条件停戦」

2025年02月25日 | 国家と戦争
  

 ウクライナに対するロシアの軍事侵攻から3年の24日、新聞各紙はいっせいに「社説」を掲げました。その論旨は、「この戦争を、一刻も早く終わらせる必要がある。ただし…侵略の責任を問うことなく…「停戦」となれば、解決どころか、世界の将来に大きな禍根を残す」(朝日新聞)、「国際社会は、ゼレンスキー氏が求める「公正な平和」を実現しなければならない」(琉球新報)など、ほぼ同趣旨です。

 端的にいえば「公正な平和」という「条件付き停戦」論です。しかし、それで「停戦」が実現するでしょうか。

 「公正な平和」とは何でしょうか。ゼレンスキー大統領の要求の中心は、「領土奪還」と「NATO(北大西洋条約機構)加盟」です。これはいずれも国家の論理による要求です。とくにNATOという軍事同盟への加盟は国家戦略そのものです。

 しかし、人間にとって重要なのは「国家」ではなく「命」です。国家の論理で命が奪われる(奪う)戦争を行うことは容認できません。

 「領土」も国家の論理です。例えば、今暮らしているこの場が、「日本」でない「国」になったとしても、それは最重要問題ではありません。重要なのはどのような施策(政治)が行われるか、どんな社会になるのかです。

 23日のNHKスペシャル「ウクライナ女性兵士 絶望の戦場」は、衝撃的な映像の連続でした。
 この中で、志願兵として戦場へ行った母親(43)と、残され一時精神を病んだ娘(11)の会話がありました。娘は「私はいつか外国に住むからウクライナの事なんて興味ない。好きじゃない」と言いました。これに対し母親は、「あなたがそんなことを言うなんて恥ずかしい」と嘆きました(写真は同番組から)。

 私は、「国家」を相対化した(超えた)娘の方に共感します。

 「公正な平和」でなければ「将来に禍根を残す」といいますが、これまで真に「公正」だった「停戦・和平」があったでしょうか。

 例えば、「イラクが大量破壊兵器を所有」というウソでアメリカが始めたイラク戦争(2003年)。侵略者・アメリカの責任は「公正」に追及されたでしょうか。日本はこの戦争に自衛隊を派遣してアメリカに加担しました。その責任を日本は「公正」に自己批判したでしょうか。

 歴史的背景があるとはいえロシアの軍事侵攻が容認できないことは明らかです。しかし、その責任追及は「停戦」後に国際的枠組みの中で行われるべきです。

 軍事侵攻から2カ月の22年4月、米マサチューセッツ工科大のノーム・チョムスキー名誉教授が「即時停戦」論を提唱しました。チョムスキー氏は、「ウクライナには二つの選択肢がある」、一つ目は「交渉による解決」、二つ目は「最後まで戦う」。「プーチンに退路を開く醜悪なものだ」としながら、氏は前者を主張しました(2022年4月22日のブログ参照)。

 チョムスキー氏が挙げた「交渉」の課題は、いま現実になろうとしています。もしこの時、氏の提唱が受け入れられていれば、その後の膨大な犠牲は避けられたでしょう。

 ロシアが軍事侵攻の誤りを認めないままの「停戦」は「醜悪なもの」です。しかし、今なによりも優先しなければならないのは、これ以上死者を出さないことです。「公正な平和」は(「公正」とは何かも含め)、今後の国際政治の中で追求すべきです。

 「公正な平和」より「無条件停戦」。「国家」より「命」です。

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ウクライナ「停戦後」派遣すべきは国際監視団

2025年02月22日 | 国家と戦争
   

 ウクライナ戦争の停戦をめぐって、停戦後のウクライナの平和・安全をどう維持・保障するかが焦点の1つになっています。ゼレンスキー大統領は「ヨーロッパ軍」の派兵を切望し、EU諸国もそれに応じる意見が多数と報じられています。

 これに対しロシアは猛反発。ペスコフ報道官は20日、「NATOの国からウクライナへの部隊派遣はもちろん我々にとっては受け入れられない」と一蹴しました。

「ヨーロッパ軍」とはNATO(北大西洋条約機構)軍にほかなりません。それをウクライナに派遣することにロシアが反発するのは自明です。

 なぜなら、「今回のロシアによるウクライナ侵攻の直接の契機となったのは、「NATOの東方拡大」だった」(下斗米伸夫・法政大名誉教授『プーチン戦争の論理』集英社インターナショナル新書2022年10月)からです。

「冷戦後、NATOの対立組織であるワルシャワ条約機構が1991年に解体したのに、NATOだけがなぜ存続したのか。…NATO東方拡大のきっかけは、1990年代半ばの米国クリントン政権による、覇権と民主化推進戦略であった。冷戦末期の1990年2月、当時のベーカー米国務長官とソ連のゴルバチョフ大統領とのあいだで一つの合意が結ばれた。ドイツ統一をソ連が容認する代わりに、NATOは「1インチ」も拡大しないとした取り決めである。…その意味では、プーチンの「米欧が約束を破った」との言葉には根拠がなかったわけではない」(下斗米氏、同書)

 「ヨーロッパ軍」の派遣は紛争の火に油を注ぐようなものです。ではどうすればよいのか。

 永年国連で世界の紛争の仲介・停戦に携わってきた伊勢崎賢治・元東京外大教授(写真右)がこう主張しています。

「両軍を引き離した緩衝地帯には、中立・非武装の国際監視団を投入する。
 1国ではなく多国籍からなる監視団が武器を持たずにそこにいることで、「攻撃すれば国際社会への攻撃と見なす」というメッセージを双方に発信し続ける。(中略)

 監視団は、国連の主導で世界に広く参加を呼びかけるものでありたい。(中略)

 2023年6月にインドネシアのブラボウォ国務相がウクライナ戦争の停戦案を示し、「わが国も国際監視団に人員を出す用意がある」と明言した。南アフリカを中心とするアフリカ7か国も停戦仲介の用意があると表明している。第2次中東戦争のときに「中堅国家」カナダが見せた主導力を、今日では「グローバルサウス」の旗手が担う…。このようなシナリオを思い描きたい」(『14歳からの非戦入門』ビジネス社2024年6月)

 西側軍事同盟のヨーロッパ軍=NATO軍ではなく、国連主導、グローバルサウスがリーダーシップを発揮する中立・非武装の国際監視団。その投入こそがウクライナ戦争の公正な停戦に必要なシナリオではないでしょうか。


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「ウクライナ抜きの停戦交渉」が示す代理戦争の実態

2025年02月20日 | 国家と戦争
 

 トランプ大統領とプーチン大統領による「ウクライナ抜きの停戦交渉」が始まりました。ゼレンスキー大統領が「ウクライナ抜きではいかなる合意も受け入れられない」と反発しているのは当然です。

 戦争の当事国を除外して停戦交渉が行われることはあまりにも理不尽です。大国の横暴が目に余ります。

 同時に重要なのは、このことがウクライナ戦争の本質を露呈していることです。すなわちこの戦争は、ウクライナ市民を犠牲にしたアメリカのロシアに対する代理戦争だということです。

 バイデン大統領(当時)は、ロシアの軍事侵攻(22年2月24日)から1カ月後の3月26日、ワルシャワでこう演説しました。

「われわれはあらためて自由のための大戦闘に突入した。…この戦闘は数日、ないし数カ月で勝てるものではない。われわれはこれからの長期戦にむけて心構えをかためなければならないのだ

 和田春樹・東京大名誉教授は、この演説は「アメリカの新しい戦争の宣戦布告に等しいものであった」として、こう述べています。

「こうして進められている戦争は米国にとって「夢の戦争」「新しい戦争」なのである。アメリカの青年はこの戦争で誰も死んでいない。アメリカ製の武器が際限なく購入され、ウクライナの戦場で消費される。兵器産業は喜びに沸(く)…だが、この戦争が進むと、ウクライナが勝利を目指して戦争をするようになり、より高度な兵器の提供を要求するようになる。…アメリカにとっての「夢の戦争」、ウクライナにとっての代理戦争を強いることの矛盾が露呈してくることは避けられない」(『ウクライナ戦争 即時停戦論』平凡社新書23年8月、上記ワルシャワ演説も同書より)

 フランスの歴史人類学者・エマニュエル・トッド氏もこう指摘しています。

「(ウクライナ)戦争の中心的な当事国であるアメリカ…アメリカの目的とは、第二次世界大戦後に構築された「帝国の維持」だと私は確信している。…アメリカにとっては、戦争は継続されなければならないのだ。それは、ウクライナの「民主主義」を救うためではなく、西ヨーロッパと極東アジアに対するアメリカ支配を維持するためなのだ」(『西洋の敗北―日本と世界に何が起きるか』(大野舞訳、文藝春秋2024年11月)

 アメリカが停戦交渉に乗り出したのは、「代理戦争」の矛盾が限界に達したからにほかなりません。
 「ウクライナ抜き」の「停戦交渉」がアメリカの世界戦略に沿ったものになるのは必至です。そうなればウクライナ市民はアメリカの「代理戦争」で甚大な犠牲を被ったうえに、「停戦」後も苦難を強いられる可能性が大です。

 停戦交渉をアメリカとロシアに委ねることはできません。ウクライナの参加はもちろん、国際的な監視・仲介が不可欠です。世界の平和・民主勢力の行動がいまこそ求められています。


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ウクライナ戦争は「米帝国維持」のため―『西洋の敗北』が指摘

2025年02月06日 | 国家と戦争
   

 トランプ大統領は3日、ホワイトハウスで記者団に「ウクライナには非常に貴重なレアアースがある。…ウクライナと取引しようと考えている」(4日付朝日新聞デジタル)と述べ、軍事支援とレアアースなど鉱物資源を「取引」する考えを明らかにしました(写真左)。

 戦争で苦境に立っているウクライナとも「取引」しようとするトランプ氏の卑劣な本質が表れています。
 しかし、「米誌ニューヨークタイムズによると、ウクライナは昨年末にバイデン前政権と、鉱物の採掘や加工に関する協定を結ぶ予定だった」(4日付朝日新聞デジタル)といいますから、この卑劣さはトランプ氏だけでなく米政府全体のものです。

 またトランプ氏は、「和平協議」でもウクライナの頭越しにロシアと「取引」しようとしています。

 アメリカのこうした横暴は、まもなくロシアの侵攻から3年になるウクライナ戦争が、そもそもウクライナを前面に立てたアメリカの対ロシア戦争であることに起因しています。

 その指摘はこれまでもありましたが、フランスの歴史人類学者・エマニュエル・トッド氏(2016年の米大統領選でのトランプ当選を予言)の近著『西洋の敗北―日本と世界に何が起きるか』(大野舞訳、文藝春秋2024年11月)でも詳しく論述されています。同書のウクライナ戦争に関する個所から抜粋します(カッコ内も同書、太字は私)。

<ウクライナ戦争は、1990年に始まった一つの歴史のサイクルを閉じる出来事である。アメリカの対外的拡張主義の流れは、自国の中心部分の実体とエネルギーを枯渇させながら、ロシアという無気力だが安定した国と衝突して、打ち砕かれたのである…なぜアメリカ人は勝ち目のない戦争に突き進んだのか。…(アメリカだけではなく)西洋の当事者たちの歴史認識はあまりに浅薄である。…(ロシア以上に)戦争の中心的な当事国であるアメリカの行動を、GDPに占める軍事支出の比率によって、四つの局面に区別してみよう(略)>

アメリカの目的とは、第二次世界大戦後に構築された「帝国の維持」だと私は確信している。つまりに西ヨーロッパ、日本、韓国、台湾に対する支配の継続である。西洋の産業資源がこれらの国に集中していることは、今日、あまりに際立っている。…属国の監視にこそアメリカの物質面での生存がかかっている。ウクライナにおけるロシアの目的達成は、ロシアのヨーロッパへの拡大などは招かないが、NATOの解体につながるだろう。さらにはアメリカの最大の懸念であるドイツとロシアの和解が実現することになる。だからこそアメリカにとっては、戦争は継続されなければならないのだ。それは、ウクライナの「民主主義」を救うためではなく、西ヨーロッパと極東アジアに対するアメリカ支配を維持するためなのだ。>

 ウクライナ戦争の停戦・和平は、アメリカの戦略に基づく「取引」に任せることなく、世界の平和・民主勢力の監視と仲介によって実現しなければなりません。

 そして、アメリカが「帝国の維持」のために「極東」における最大の「属国」にしているのが日本です。日米安保条約を廃棄して日米軍事同盟を解消することが、「極東」のみならず世界の戦争・紛争終結、平和創造のカギを握っていることは明らかです。

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トランプ大統領の「ガザ市民強制移住」画策は許せない

2025年01月30日 | 国家と戦争
   

 イスラエルとハマスの「停戦合意」によって、ガザの中部・南部に避難していたガザ市民が北部に帰還を始めました。しかし、「イスラエル軍の攻撃で北部は住宅もインフラも壊滅的な被害を受けており」(29日付京都新聞=共同電)ガザ市民への国際社会の支援が急務です。

 ところが、アメリカのトランプ大統領は逆に、ガザ市民を国外に移住させる画策をしています。

 トランプ氏は先日、ヨルダンのアブドラ国王と電話会談し、「ガザの住民をもっと受け入れてほしい」と伝えました(27日のNHK国際報道、写真左)。エジプトにも同様の要請を行ったといいます(同)。

 さらにトランプ氏は記者団に、「私がアラブ諸国と協力し、(ガザとは)別の場所に住宅を建てて平穏に暮らしてもらいたい」と述べ、ガザ市民をアラブ諸国に移住させる考えを明言しました(写真中)。

 ヨルダンは猛反発しています。サファディ外相は、「地域の安全と安定と平和のためには、彼ら(ガザ市民)の権利であるパレスチナ独立国家とイスラエルの共存を、〝2国家解決案“と国際的な取り決めによって実現する必要がある」と述べ、トランプ氏の要請を批判しました(アルジャジーラの報道をNHK国際報道が紹介、写真右)。

 トランプ氏がイスラエルに対する軍事支援を強化(25日に保留されていた大型爆弾供与を解除)する一方、住宅が破壊されたガザ市民の弱みにつけこんでヨルダンなどアラブ諸国に移住させようとするのは、イスラエルと一体となってパレスチナへの入植植民地政策を推し進めることにほかなりません。

 そもそもガザとは何でしょうか。この問題の根源は何でしょうか。

「ガザの住民たちの7割は、1948年、イスラエルの建国に伴う民族浄化によって暴力的に故郷を追われ、難民となった者たちとその子孫です」「ユダヤ国家イスラエルの建国は、レイシズムに基づく植民地主義的な侵略であり…その暴力は建国以来、現在に至るまでずっと継続しています」(岡真理氏『ガザとは何か』大和書房2023年12月)

 問題の根本解決は、イスラエルとアメリカが一体となって強行しているパレスチナに対する民族浄化(ジェノサイド)、植民地政策をやめさせ、パレスチナ独立国家を樹立する以外にありません。

 それは私たち日本人にとってけっして無関係ではありません。

「問題の根源は、入植者による植民地主義です。ここで問われているのは、植民地主義的侵略の歴史にどう向き合うか、ということです。それは、日本の歴史の問題、日本に生きる私たちの問題でもあるのです。だから、主流メディアは、そこに踏み込まない。日本は、こうした点でもイスラエルと歴史的な共犯関係、同盟関係にあるんです」(岡真理氏、前掲書)

 イスラエルと一体となってジェノサイド・入植植民地主義を強行しているアメリカ。そのアメリカに軍事同盟(安保条約)で従属しているのが日本であることを私たちは肝に銘じる必要があります。

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「ガザ停戦」の次は米主導でない「ウクライナ停戦」を

2025年01月21日 | 国家と戦争
  
 
 イスラエルとハマスの「ガザ停戦合意」が19日発効しました。イスラエルが6週間の停戦を守るかどうか不確定ですが、たとえ守られてもこれが根本解決でないことは明らかです。

 日本のメディアはガザの事態はハマスの越境攻撃(昨年10月7日)に発端があるように報じていますが(例えば20日付共同配信記事の「ガザ情勢の経過」の年表は同日から始まっています)、これはイスラエルの犯罪性を隠ぺいし、パレスチナ問題の本質を見誤らせます。少なくとも、1948年のイスラエル建国以来のアメリカをバックとしたイスラエルの入植植民地政策から責任を問わねばなりません。

 とはいえ、戦闘(イスラエルの攻撃)が一時的にせよ停止し、ガザの市民・子どもたちの死傷が回避され、飢餓状態が少しでも改善に向かうことは喜ばしいことです。これを根本的解決の契機にする必要があります。

 翻って、ウクライナはどうでしょうか。

 「キーウ国際社会学研究所」の世論調査(12月)では、「必要なだけ戦争に堪える用意がある」と答えた人は57%で、1年前より16㌽減。逆に「答えることが難しい」と言う人が18%で11㌽増えました(13日のNHKニュース)。

 ウクライナ東部からキエフ(キーフ)に避難した市民からは、「戦争には耐えられない」「和平交渉が始まることを願っている」「平和で平穏な暮らしがほしい。トランプ氏には約束どおりウクライナに平和をもたらすため全力を尽くしてほしい」などの声が出ています(同)

 また、ウクライナ軍から隣国のルーマニアへ「脱走」する兵士が増えています。兵士の1人は「(ウクライナ)政府はきわめて粗暴になり街で人々を(兵士確保のため)拘束し始めた」と語っています(7日のNHKニュース、写真右)。

 こうした声・現象は以前からあったでしょうが、NHKまでがそれを無視できなくなって報じていることが注目されます。
 ウクライナ市民にえん戦が広がっているのは明らかであり、それはきわめて当然です。戦争継続はすでに限界にきていると言えるでしょう。

 今こそ「ガザ停戦」の方式(考え方)をウクライナにも適用すべきではないでしょうか。

 ゼレンスキー大統領はこれまで、ロシアの全面撤退、全領土の返還、NATO加盟などを停戦協議の条件にして徹底抗戦を続けてきました。それらはいわば根本解決です。

 しかし、ガザでは根本解決は今後の課題とし、これ以上犠牲者を出さないことを最優先して「停戦」が合意されました。同様に、ウクライナも根本問題はこれからの課題とし、何よりもこれ以上死傷者を出さないために直ちに停戦協議を行うべきです。

 その際重要なのは、米トランプ大統領主導の「停戦」にしないことです。
 仮にトランプによって「停戦」が行われても、それは取引(ディール)によるもので、平和を希求したものではありません。したがって極めて不安定です。

 世界の平和・民主勢力・組織は、トランプの言動を拱手傍観することなく、今こそウクライナ停戦への働きかけ・仲介を行う必要があります。



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ガザの「真の平和」と私たち―岡真理氏が講演で問題提起

2025年01月16日 | 国家と戦争
  

 イスラエルとハマスの「停戦合意」が目前と報じられる中、「歴史の忘却に抗して―ガザのジェノサイドと私たち」と題した講演とシンポジウムが15日、京都市内の龍谷大学(入澤崇学長)でありました。講師は岡真理・早稲田大教授(写真)。

 岡氏は、「イスラエルは停戦までに可能な限りの殺戮を行っている」とし、ガザ保健省の14日の発表では「死者4万6565人、負傷者10万9660人、不明者1万1000人」だが、実際は死者・不明者合わせて20万~30万人にのぼるとみられると指摘。

「ガザで起こっていることはヒューマニティ(人間性)の崩壊にほかならない。ガザの人たちは、『私たちはあなたたちと同じ人間ではないのですか?』と問い掛けている。私たちは自分がいかに人間であり続けられるかが問われている」

 「『平和』とは何でしょうか」と問い掛けた岡氏は、ガルトゥング(1930―2024)を引用して、①直接的暴力(戦争)②構造的暴力(貧困、差別、占領、封鎖など)③文化的暴力(無知など)の「3つの暴力」を挙げ、「戦争がない状態だけでは平和とは言えない。重要なのは構造的暴力、文化的暴力をなくすること」指摘しました。

「日本のマスメディアは直接的暴力の表面しか報道しない。ハマースはなぜ越境攻撃に及んだのか。重要なのはその歴史的背景だ」として、イスラエルの「入植者植民地主義」の歴史を解明。「日本も満州、アイヌモシリでそれ(入植者植民地)を行った」

 岡氏は、日本のメディアや市民がガザの事態の本質を捉えられない背景にあるのは、「歴史の忘却」であり、「私たち(日本人)は日本の植民地支配の歴史を忘れている」と指摘しました。

 ガザの事態と日本の関係について岡氏は、そもそも第1次世界大戦後、英仏のアラブ地域植民地支配を決定する会議に日本も参加していたこと、イスラエル建国につながるホロコーストのユダヤ人虐殺を行ったドイツと日本は同盟関係だった歴史を挙げました。

 さらに安倍晋三首相(当時)がイスラエルとパートナーシップ協定を結んだこと、防衛省は今もイスラエルからドローンを購入することを検討していることなどを挙げ、「日本は産・官・学ぐるみでイスラエルと関係が深い」と指摘しました。

「停戦」だけでなく、「3つの暴力」のない真の平和をガザ・パレスチナに実現するために必要なことは何か―。それは「歴史の忘却と、無知と、無関心」の克服だと岡氏は強調しました。

 講演を聴いて、今回のガザの事態が起こるまでパレスチナ・中東、さらには国際情勢全般に積極的に関心を向けようとしてこなかった自分を恥じ入りました。

 いつも通り学びの多かった岡氏の講演ですが、1点気になったことがあります。

 それは、イスラエルのジェノサイド・入植植民地政策と日本の関係について、日独防共協定(1936)の歴史に触れながら、日米安保条約(1951)についての言及がなかったことです。
 イスラエルのジェノサイド・入植植民地政策を支えているのは紛れもなくアメリカであり、そのアメリカと日本は安保条約によって従属的同盟関係を結んでいるのです。日本も間接的にイスラエルのジェノサイドに手を貸していると言っても過言ではありません。

 ガザ・パレスチナの真の平和のために私たちに何ができるか、何をすべきか。その1つの重要な課題は、日米安保条約を廃棄してアメリカとの同盟関係を解消することです。




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岡真理氏が告発する「ガザ・文化のジェノサイド」と日本

2024年12月16日 | 国家と戦争
  

 年が改まろうとしている今も、ガザではイスラエル・ネタニヤフ政権とそれを支援するアメリカによってパレスチナの人々に対するジェノサイド(大量殺戮)が続いています。

 岡真理氏(早稲田大学文学学術院教授、写真右)は、「ナクバという《ジェノサイド》 抗すべきは「大量虐殺」だけではない」と題した論稿(「世界」2025年1月号所収)で、「ガザでは、人間が単に物理的に大量に殺されているだけではない」として、以下の「ジェノサイド」を挙げています。

▶ドミサイド(住宅の大量破壊)▶拉致・拷問・虐待▶戦争の武器としての飢餓▶メディコサイド(医療システムの組織的破壊)▶エコサイド(環境破壊)▶スコラスティサイド(教育の破壊)▶文化の虐殺▶ジャーナリストの殺害

 その上でこう指摘しています。

「ここに挙げたもろもろの-cideのなかでも、とりわけ文化の虐殺が重要である。
 意図してかせずしてか、主流大手メディアの報道では語られないが、イスラエルは入植者植民地主義によって誕生した国である。入植者植民地主義、すなわち入植者が植民地の先住民にとって代わって、その土地を自分たちの国にするというものだ。(中略)

 入植者植民地主義にとって最大の障壁は、ネイティブの存在である。このときネイティヴは物理的に駆逐されるか、同化を強制される。駆逐の場合は物理的に、同化の場合は文化的に、固有の民族的存在としてのネイティヴはその土地から殲滅される。(中略)

 文化とは、その土地に根差した、集団固有の生の営みから生み出されるものであり、歴史的存在としての証しだ。
 私たちが抗すべきは、大量虐殺だけではない

 岡氏によれば、イスラエルによる「文化の虐殺」は「組織的かつ広範に」行われています。破壊された歴史的、文化的遺跡は200以上、世界最古のモスクのひとつもミサイル攻撃で瓦礫となり、340以上のモスク、3つの教会が損壊ないし破壊され、博物館、劇場や図書館を併設した文化センターや、歴史文書を保管していた文書館も破壊されました。

「パレスチナではこの76年間(1948年のナクバ=破局的大惨事以来―私)ずっと…パレスチナ人という歴史的存在それ自身をパレスチナから抹消するために、ジェノサイドが複合的な形で止むことなく継続されてきたのだ」(岡氏)

 入植者植民地主義はネイティヴ(先住民)を「物理的に駆逐」するか「同化を強制」する。「文化のジェノサイド(虐殺)」は文化施設の物理的破壊と同化政策の両面で行われる。
 岡氏のこの指摘で想起されるのは、帝国日本の植民地支配です。

 朝鮮半島、台湾、そして琉球、アイヌを植民地支配・併合した日本は、先住民の言語を奪い、伝統・習俗を破壊し、日本の言語、宗教(国家神道)、教育を強制し、「同化」を図りました。皇民化政策です。

 これはまさに「文化のジェノサイド」に他なりません。日本は80年前まで、先住民を天皇の「赤子」にするという皇民化政策によって、「ネイティブの殲滅」を図ってきたのです。

 私たちがこの歴史を忘れることは許されません。その意味でも、いまガザで続けられているジェノサイドはけっして他人事ではありません。

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米がウクライナに「徴兵年齢引き下げ」を要求する理不尽

2024年12月11日 | 国家と戦争
   

 アメリカのブリンケン国務長官が、ウクライナの徴兵年齢を25歳から18歳に引き下げるよう要求したと、NHK(「国際報道2024」)が5日報じました。同長官は次のように述べたといいます。

「若い世代を戦闘に参加させることは必要だ。現在18歳から25歳の若者は戦闘に参加していない。兵器、弾薬、資金だけでなく、人が戦場にいる必要がある」

 NHKは「ブリンケン長官が追加動員の必要性を強調したのは、ロシアが攻勢を強めウクライナ東部で支配地域を拡大していることへの懸念を示したもの」とコメントしました。

 同長官の発言・要求は、ウクライナに対する明白な内政干渉・主権侵害であり、理不尽極まりありません。

 しかもたんなる内政干渉ではありません。

 ゼレンスキー大統領はこれまでウクライナ戦争における兵士の犠牲者数を明らかにしてきませんでしたが、8日、「ウクライナ兵の死者数について「4万3千人」と明らかにした。負傷者への医療サービスの提供は「37万件」に上る」(8日付朝日新聞デジタル)と述べました。

 英誌エコノミストは24年までの推測値として、死者数は「6万~10万人」と報道しています(同朝日新聞デジタル)。

 いずれにしてもたいへんな犠牲者数です。ロシア兵の犠牲はさらに甚大です。
 同長官(バイデン政権)がウクライナに対し徴兵年齢を25歳から18歳へ引き下げ、「若い世代を戦闘に参加させる必要がある」と要求したことは、この死者・負傷者数をもっと増やせと言っていることと同じです。とりわけ将来のウクライナを担う若者を犠牲にしろというのです。

 バイデン政権のこの理不尽な発言・要求は何を意味しているでしょうか。

 それは、「この戦争は…プーチンがウクライナの後ろにアメリカ・NATOを見ている「代理戦争」である。【ロシア】対【アメリカ・NATO】が、この戦争の基幹構造であり、戦況の趨勢に最大かつ直接的な影響を与えるのは、当事者のウクライナではなく、「代理戦争」のマスターであるアメリカである」(伊勢崎賢治氏『14歳からの非戦入門』ビジネス社2024年6月)ということです。

 伊勢崎賢治氏はこう強調します。

<「代理戦争」は、どんなものであれ、絶対に「成功」させてはならないのだ。それが一度起きてしまったら、単に紛争当事国だけでなく、関係するすべての国家間の対話と外交交渉で、一刻も早い停戦を実現することだ。それが「代理戦争」の処理に対する基本姿勢であるべきである。>(前掲書)

 「代理戦争」をさせている当事国に対し、徴兵年齢を引き下げて若者を戦場に送り出せと公言してはばからない。それが覇権国家・アメリカの本性です。

 そのアメリカと、日本は日米安保条約によって従属的軍事同盟を結んでいます。日本がアメリカの「代理戦争」の当事国になり、若者を含む甚大な犠牲を強要される危険はけっして絵空事ではありません。

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ゼレンスキー氏「方針転換」もNATO頼みでは前途なし

2024年12月04日 | 国家と戦争
  

 ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、共同通信の単独会見で、「ロシアが2014年に併合したクリミア半島を含む一部の占領地について、武力での奪還が困難だと率直に認め、外交で全領土回復を目指す必要があると述べ」ました(3日付京都新聞など=共同)。

 共同通信は「2022年2月のロシアによる全面侵攻開始以来、戦争遂行に関する最大の方針転換と言える」と評しています。

 たしかに、「武力」ではなく「外交」でというのは注目すべき、そして評価すべき「方針転換」です。
 しかし、これには重大な前提条件がつけられています。ゼレンスキー氏はこう述べています。

「外交解決を探らなければならない。ただロシアが新たな侵略を仕掛けられないほどウクライナが強くなった時に初めて外交的手段を考えることができる。NATO(北大西洋条約機構)に代わる案は経験上存在しない」(会見要旨=3日付沖縄タイムス掲載より)

 ゼレンスキー氏は、「ウクライナが外交の場で強い立場を保つためNATOに招待してほしい。最も現実的な安全保障となる」(同)と繰り返しています。

 ゼレンスキー氏が「NATO加盟」にこだわる以上、真の「方針転換」とは言えず、またそれを「外交」の前提条件にする限り、前途は暗いと言わざるをえません。

 それはトランプがウクライナのNATO加盟に難色を示しているからではありません。

 そもそも「今回のロシアによるウクライナ侵攻の直接の契機になったのはNATOの東方拡大」(下斗米伸夫・法政大名誉教授『プーチン戦争の論理』集英社インターナショナル新書2022年10月)です。
 すなわちこの戦争は、「ロシア対アメリカ・NATOの代理戦争」(伊勢崎賢治・元国連職員『14歳からの非戦入門―戦争とジェノサイドを即時終わらせるために』ビジネス社2024年6月)だからです(9月30日、11月4日のブログ参照)。

 その一方の陣営の「アメリカ・NATO」に頼っている限り、「代理戦争」から抜け出すことはできません。

 ウクライナがこの戦争から抜け出す道は、ゼレンスキー氏の拘泥とは逆に、NATO加盟を断念し(非軍事同盟)、中立化へ舵を切ることです。
 そしてそれを、国連はじめ国際平和組織やグローバルサウスの国々、そして国際世論が支援することです。

 ゼレンスキー氏は共同通信との会見で、「われわれは領土でなく人命を最優先に考える」(前掲会見要旨)とも述べています。その言葉が本心なら、アメリカ・NATOに頼るのではなく、平和を願う国際世論を信頼して、直ちに「外交」による停戦に踏み切るべきです。

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