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アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

「ベトナム人逃走」の異常報道と9・1朝鮮人大虐殺

2017年09月02日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム

    

 NHKおよび民放各局は、31日夜からいっせいに「ベトナム人逃走」の大見出しでこの「事件」を報じました。NHKは同日夜のニュースでトップ扱いするとともに、2日朝のニュースでもトップで報じました(写真中)。
 これはきわめて異常な状況だと言わねばなりません。

 NHKの31日夜のニュースはこうです。「群馬県大泉町の駐車場で、警察官が上半身裸で車の中にいた不審な男に職務質問したところ男は突然逃げだし…住宅の敷地内で見つけて逮捕しようとした際、男は暴れだし片手に手錠をかけられた状態で再び逃走した…警察によると、男はベトナム人と見られ…」。これに近隣住民の「恐怖におびえる」声の数々が続きました。

 そもそも、「車の中で上半身裸」でいてなぜ職質を受けねばならないのか。なぜ「突然逃げだした」のか。なぜ手錠をかけたのか。なぜ「ベトナム人と見られ」たのか。不明なことだらけです。にもかかわらずNHKなどは、「ベトナム人」と断定した大見出しで、あたかも重大事件であるかのように全国放送のトップで報じました。
 こうした報道によって、「ベトナム人(外国人)は怖い」という根拠のない印象・空気がふりまかれたことは言うまでもありません。

 1日になって「事件」の概要が多少わかってきました。これも「捜査関係者による」ものですが、男性は2013年に留学目的で来日。在留期限が切れた後も滞在したので15年に摘発。その後難民認定申請をし、仮放免となったがことし所在不明に。男性はビザがなく運転免許もなく捕まると刑務所に入ると思って逃げたが、知人に「出頭したい」と電話。1日午後11時半ごろ警察に電話で出頭の意思を伝え、一人で近くのコンビニ駐車場に向かって逮捕された。日本語で「スミマセン」を何度も繰り返した。逃げたことは反省しているが、警察官にかみついたことは否認している。

 男性にももちろん責められるべき非はあります。しかし、これがNHKなどが連日全国ニュースのトップで報じるほどの大事件でしょうか(NHKは2日朝は大泉警察署前からの中継まで行った)。もし男性が日本人なら、これほどの扱いをしたでしょうか。

 ちなみに2日付の中国新聞はこの「事件」を第3社会面でベタ、沖縄タイムスも社会面でベタでした。これが妥当な扱いではないでしょうか。

 見過ごすことができないのは、「事件」に対するNHKや民放各社のこの異常な報道が、9月1日を前後して行われたことです。

 1923年9月1日、関東大震災に乗じて日本人の「自警団」(写真右)などによる朝鮮人大虐殺の蛮行が行われました。
 その実態はいまだに明らかにされていませんが、政府の中央防災会議の報告書(2009年)によっても「殺害事件の犠牲者は震災による死者数の1~数%」とされています。震災の死者は十数万人といわれますから、虐殺された朝鮮人は少なくとも数千人にのぼります。

 関東大震災における朝鮮人大虐殺はけっして過ぎ去った過去の話ではありません。
 韓国・釜山では今年8月30日、初めて遺族(6人)が参加した虐殺被害者の追悼式が行われました。「遺族は遺族会を結成し、日韓両政府に真相究明を求めると表明した。日本政府には謝罪と資料の公開を、韓国政府には調査のための特別法制定を求めた」(31日付共同通信)

 ところが日本では、小池百合子都知事が、昨年まで歴代都知事(あの石原慎太郎氏も含め)が送っていた関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式への追悼文を今年から取りやめました。小池氏は虐殺の事実認識も明確にしていません。追悼式の地元である東京都墨田区の山本亨区長も小池氏に習って追悼文を断りました。

 小池氏らの行動は、朝鮮人大虐殺の事実を隠ぺいし、その歴史を風化させようとするものにほかなりません。「知事の判断は、排外的な言動をしている側に結果的に加担することになりかねず、その責任は重い」(田中正敬専修大教授、8月24日付東京新聞)

 もちろん今回の「事件」が「9・1」前後に起きたのは偶然でしょう。しかし、NHKはじめ報道各社が、「9・1大虐殺」がねつ造された流言飛語によって発生・拡大したという事実を知っていれば、そして報道人としてその歴史の教訓に学ぼうという意識が少しでもあれば、「外国人」への偏見・差別を助長するこうした異常報道にはならなかったのではないでしょうか。

 「9・1朝鮮人大虐殺」の実態・真相究明、責任追及はこれからの課題です。そして、人種・民族などマイノリティに対する差別(ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライム)を根絶していくことが、「9・1朝鮮人大虐殺」の歴史から学ばねばならない教訓であることを、わたしたち日本人は肝に銘じる必要があります。


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相模原殺傷事件は「障がい者差別社会」の反映

2016年07月28日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム

    

 事件は社会と時代を写す鏡です。相模原市で起こった障がい者殺傷事件は、何を写し出しているのでしょうか。

 弁護士の師岡康子氏は植松聖容疑者が障がい者への「強い偏見や差別意識を持っていたことがうかがえる」としたうえで、こう指摘します。

 「特定の属性を持つ集団や個人を標的とする犯罪『ヘイトクライム』といえる。…今回のように大きな事件でなくても、つえを折られたり、車いすを蹴られたりというヘイトクライムは日常的に起きており、障害者らは恐怖にさらされている」(27日付共同配信記事)

 27日夜、NHKニュースは相模原事件にかなりの時間をさいたあと、「その他のニュース」としてこう報じました。

 「厚生労働省が昨年度1325の事業所を調査したところ、507の事業所(約38%-引用者)で970人の障害者に対して虐待が行われたことが分かった。前年度に比べて487人増加。虐待の内容は、経済的虐待が855人、心理的虐待が75人、身体的虐待が73人」(写真右)

 氷山の一角でしょうが、これ自体重大なことです。同時にさらに問題なのは、NHKがこのニュースと相模原事件をまったく「別のニュース」として扱ったことです。もっとも、報道したNHKはまだましで、まったく報道していないメディアも少なくないようですが。

 つえを折ったり、車いすを蹴ったりする目に見える「日常的なヘイトクライム」はもちろん悪質です。しかし同時に、40%近い企業で、外部から見えにくい職場で日常的におこなわれている経済的・心理的・身体的虐待も同じように悪質なヘイトクライムではないでしょうか。「507の事業所」で働く従業員は、自分の職場で行われているヘイトクライムに責任がないと言えるでしょうか。

 さらに見えにくい、そして大々的な障がい者へのヘイトクライムがあります。

 障害者雇用促進法は公的機関と民間企業にそれぞれ障がい者の雇用を義務付け、法定雇用率を定めています。民間企業の障害者法定雇用率は2・0%です。
 ところが昨年度の「障害者雇用状況集計」(厚生労働省発表)によると、企業が雇用した障がい者総数は45万3133人で、雇用率は1・88%にとどまり、法定雇用率に達していないのです。法定雇用率を達成している企業は全体の47・2%と半分もありません。しかも、大企業と中小企業を比べると、大企業ほど障害者雇用率が低いのが一貫した特徴です。

 法定雇用率の未達成は、つえを折ったり、職場で虐待するようには目に見えません。しかし、法律で定められた最低限の雇用義務も果たそうとしない企業(とくに大企業)論理と、「障がい者はじゃまだ」という容疑者の「思想」との間にどれだけの違いがあるでしょうか。
 日本経済を代表しているような顔をし、自民党に多額の政治献金をしている大企業が、法定雇用率無視という〝見えないヘイトクライム”を常態化させて平然としている。これが日本の企業社会であり、自民党政治です。

 DPI(障害者インターナショナル)日本会議副議長の尾上浩二氏は、相模原事件に関連して、ナチス政権の「優生思想」に触れ、日本にも1996年まで「優生保護法」が存在したことをあげ、「優生保護法下で行われた不妊手術などの被害者に対する謝罪や補償は、いまだになされていない。この問題を私たちの社会は総括せず、けじめをつけないまま現在に至っている」と指摘。そしてこう強調します。

 「私たちの社会は、インクルーシブな社会(障害の有無によって分け隔てられることのない共生社会)に向かえるのか、それとも障害者を排除する社会に向かってしまうのか。無関心が一番の問題だ。今回の事件を、決して猟奇的なものと片づけることなく、私たちの社会が進むべき方向が問われていると捉えたい」(28日付共同配信)

 相模原事件が問いかけているのは、日本の社会と政治の進路であり、私たちの生き方です。


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