アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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相模原殺傷事件は「障がい者差別社会」の反映

2016年07月28日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム

    

 事件は社会と時代を写す鏡です。相模原市で起こった障がい者殺傷事件は、何を写し出しているのでしょうか。

 弁護士の師岡康子氏は植松聖容疑者が障がい者への「強い偏見や差別意識を持っていたことがうかがえる」としたうえで、こう指摘します。

 「特定の属性を持つ集団や個人を標的とする犯罪『ヘイトクライム』といえる。…今回のように大きな事件でなくても、つえを折られたり、車いすを蹴られたりというヘイトクライムは日常的に起きており、障害者らは恐怖にさらされている」(27日付共同配信記事)

 27日夜、NHKニュースは相模原事件にかなりの時間をさいたあと、「その他のニュース」としてこう報じました。

 「厚生労働省が昨年度1325の事業所を調査したところ、507の事業所(約38%-引用者)で970人の障害者に対して虐待が行われたことが分かった。前年度に比べて487人増加。虐待の内容は、経済的虐待が855人、心理的虐待が75人、身体的虐待が73人」(写真右)

 氷山の一角でしょうが、これ自体重大なことです。同時にさらに問題なのは、NHKがこのニュースと相模原事件をまったく「別のニュース」として扱ったことです。もっとも、報道したNHKはまだましで、まったく報道していないメディアも少なくないようですが。

 つえを折ったり、車いすを蹴ったりする目に見える「日常的なヘイトクライム」はもちろん悪質です。しかし同時に、40%近い企業で、外部から見えにくい職場で日常的におこなわれている経済的・心理的・身体的虐待も同じように悪質なヘイトクライムではないでしょうか。「507の事業所」で働く従業員は、自分の職場で行われているヘイトクライムに責任がないと言えるでしょうか。

 さらに見えにくい、そして大々的な障がい者へのヘイトクライムがあります。

 障害者雇用促進法は公的機関と民間企業にそれぞれ障がい者の雇用を義務付け、法定雇用率を定めています。民間企業の障害者法定雇用率は2・0%です。
 ところが昨年度の「障害者雇用状況集計」(厚生労働省発表)によると、企業が雇用した障がい者総数は45万3133人で、雇用率は1・88%にとどまり、法定雇用率に達していないのです。法定雇用率を達成している企業は全体の47・2%と半分もありません。しかも、大企業と中小企業を比べると、大企業ほど障害者雇用率が低いのが一貫した特徴です。

 法定雇用率の未達成は、つえを折ったり、職場で虐待するようには目に見えません。しかし、法律で定められた最低限の雇用義務も果たそうとしない企業(とくに大企業)論理と、「障がい者はじゃまだ」という容疑者の「思想」との間にどれだけの違いがあるでしょうか。
 日本経済を代表しているような顔をし、自民党に多額の政治献金をしている大企業が、法定雇用率無視という〝見えないヘイトクライム”を常態化させて平然としている。これが日本の企業社会であり、自民党政治です。

 DPI(障害者インターナショナル)日本会議副議長の尾上浩二氏は、相模原事件に関連して、ナチス政権の「優生思想」に触れ、日本にも1996年まで「優生保護法」が存在したことをあげ、「優生保護法下で行われた不妊手術などの被害者に対する謝罪や補償は、いまだになされていない。この問題を私たちの社会は総括せず、けじめをつけないまま現在に至っている」と指摘。そしてこう強調します。

 「私たちの社会は、インクルーシブな社会(障害の有無によって分け隔てられることのない共生社会)に向かえるのか、それとも障害者を排除する社会に向かってしまうのか。無関心が一番の問題だ。今回の事件を、決して猟奇的なものと片づけることなく、私たちの社会が進むべき方向が問われていると捉えたい」(28日付共同配信)

 相模原事件が問いかけているのは、日本の社会と政治の進路であり、私たちの生き方です。

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