蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

日本経済改造論

2006年09月14日 | 本の感想
日本経済改造論(野口悠紀雄 東洋経済新報社)

著者によると・・・
日本経済が不振である(あった)原因は、デフレや不良債権処理にあるのではなく、日本企業の利益率低下にある。低下の原因は以下の三点である。
①本業以外に多角化を進め、リスク回避的である。
②系列取引が多く費用構造が硬直的である。
③中国の台頭、通信コストの低下等世界経済の変化に対応できていない。
これに対してアメリカやアイルランドなど近年経済成長を遂げている国の企業は、小規模で、新技術に依存し、株主によるガバナンスが働き、海外アウトソーシング等外部資源の利用がうまい、といった特徴があるという。日本企業もこうしたスタイルに変貌しないと日本経済の真の復活はない。


私の考えは・・・
リスク回避的で系列化した企業グループがあったからこそ、歴史的な資産価格の大幅な下落(バブル崩壊)があっても恐慌的な経済状況にまでは落ち込まなかったともいえる。失業率もさほど悪化せず、円が安くなることもあまりなかった。「黄金の不況国」とも言われた。
確かに分散投資が可能な株式投資家からみれば、個々の企業の経営者にはできるだけ大きなリスクを取った経営をしてもらいたいのだが、従業員や立地地域の経済にとってはあまりにも果敢な経営者は敬遠したいところだ。投資家はリスク回避的な企業の株を売り、リスク選好の企業の株を買えばよいのだが、「日本経済」という視点からすると、バブル崩壊期にはリスク回避的な企業が多かったことに感謝すべきだったのかもしれない
なるほどリスク回避的であればリターン(収益)も低くなるはずだが、どちらの経営スタイルを選ぶかは好みの問題だろう。


上記のように、著者の主張に必ずしも賛同はできない。しかし、日本経済の課題が幅広くコンパクトにまとめられ、(著者の他の本同様)論旨は明確で、説明がわかりやすく、非常に理解しやすい本だった。
また、主張を冒頭にまとめ、目次、索引が充実しており、今時珍しいくらい良心的な作りになっている。


以下の三点については、(私にとっては)今まで聞いたことがないとても興味深い主張であった。
1)今後ファイナンスの必要性が高まるのは企業、家計ではなく政府であり、国債の最大の引受先である郵貯を民営化したのは時代に逆行している。
2)国民年金の不足分はサラリーマンが負担する厚生年金により補填されている。
3)少子化対策は、高齢化にともなう経済問題の解決になるどころか(依存人口が増えるので)むしろ有害。
コメント
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