蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

貝と羊の中国人

2006年09月17日 | 本の感想
貝と羊の中国人(加藤徹 新潮新書)

中国人の特長をいろいろな見方で把握しようとした評論。面白かった視点をランダムに以下にあげる。(歴史をよく知っている人にとっては常識かもしれないが)⑥、⑦が特に興味深かった。

①「民」の語源は「針で目をつぶした奴隷」

②中国には二つの民族集団があり、現代中国人は両方の特長を併せ持っている。
一つは殷の国に代表される。自然の恵み豊かな地にあって有形の財貨を重んじ、商業が盛んで多神教的。こちらは古代の貨幣「貝」に象徴される民族
もう一つは殷を滅ぼした周に代表される。気候風土の厳しい草原地帯にあって主義・思想を重んじ、一神教的。遊牧民に欠かせない「羊」に象徴される民族
現代中国人は本音部分では「貝」の文化(実利を重んじる)ながら、タテマエ部分では「羊」の文化を持っているという。

③海外に移住した中国人は苛酷な環境にあっても健康を維持できる。それは国内で大量の流民を生み出してきた歴史があるからで、彼らはどんなに暑い時でも火を十分に通した料理しか食べず、漢方薬や鍼といった民間療法にも長じている。

④死を特別視しない。寝たり食べたりすることと同じ自然の営みの一種。今でも世界一の死刑大国で、死刑囚の内臓を移植することも当然。

⑤「功」(仕事を通じて世のために働くこと)と「徳」(見返りがないことを前提として人を助けること)の使い分け。「徳」がないと敬われない。日本のODAは「功」だと思われている。

⑥古代から近代に至るまで中国が養える人口の上限はおおよそ六千万人。それを超えると食糧不足等から農民暴動が起こりやがて戦乱につながって人口は激減する。この繰り返しだった。

⑦世界史的な傾向だが、強大国の首都は国の片隅にある。首都が国土の真ん中にある国は短命である。中国ではど真ん中の南京政権は短命であり、北京政府が頑強である。しかし、一方北京を陥れられるともろくも崩壊することが多かった。

⑧中国の周辺国で属国化しなかったのは日本くらい。それゆえか交流関係はほとんどなかったと言っていい(あっても交流ではなく、一方的なものだった)。
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カポネ

2006年09月16日 | 本の感想
カポネ(佐藤賢一 角川書店)

禁酒法、大恐慌時代のシカゴで酒の密造・密売(この本で初めて知ったのだが、禁酒法って、酒を飲むこと自体は違法ではなく、作ったり、輸送したり、売ったりするのが禁止されていたそうだ)で巨万の富を築き、ギャングの代名詞ともいえるアルフォンソ・カポネと彼のライバルとして有名な連邦捜査官エリオット・ネスの話。前半はカポネ側から、後半はネス側からの立場で書いてある。

たぶん、多くの人と同じように私もカポネとネスの物語は映画の「アンタッチャブル」でしか知らなかった。この映画(デ・ニーロとケビン・コスナー出演のもの)では、カポネは冷酷無情のヤクザ者で、ネスはひたすら正義を追及する勇気の人だったが、この本ではカポネに非常に好意的で、一方のネスには批判的だった。

ともに共通しているのは、移民の二世で、自己顕示欲、出世欲が強く、マスコミ(新聞)を利用して世論を勝ち取ろうとしたこと。二人ともアメリカ史に残る評価を得たのだから、本望だったかもしれないが、末路はみじめ(カポネは刑務所内で梅毒に冒されて廃人となり、ネスは失職してアル中となった)だった。

ところで、カポネは脱税で有罪になった時、まだ32歳だったとのこと。露悪的なほど新聞記者に自分を書かせ、世間を驚かすような派手な背広をひるがえして、塀の上を歩いているようなきわどいビジネスで財を成した・・・誰かに似てるな。ホリエモ○か!

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日本経済改造論

2006年09月14日 | 本の感想
日本経済改造論(野口悠紀雄 東洋経済新報社)

著者によると・・・
日本経済が不振である(あった)原因は、デフレや不良債権処理にあるのではなく、日本企業の利益率低下にある。低下の原因は以下の三点である。
①本業以外に多角化を進め、リスク回避的である。
②系列取引が多く費用構造が硬直的である。
③中国の台頭、通信コストの低下等世界経済の変化に対応できていない。
これに対してアメリカやアイルランドなど近年経済成長を遂げている国の企業は、小規模で、新技術に依存し、株主によるガバナンスが働き、海外アウトソーシング等外部資源の利用がうまい、といった特徴があるという。日本企業もこうしたスタイルに変貌しないと日本経済の真の復活はない。


私の考えは・・・
リスク回避的で系列化した企業グループがあったからこそ、歴史的な資産価格の大幅な下落(バブル崩壊)があっても恐慌的な経済状況にまでは落ち込まなかったともいえる。失業率もさほど悪化せず、円が安くなることもあまりなかった。「黄金の不況国」とも言われた。
確かに分散投資が可能な株式投資家からみれば、個々の企業の経営者にはできるだけ大きなリスクを取った経営をしてもらいたいのだが、従業員や立地地域の経済にとってはあまりにも果敢な経営者は敬遠したいところだ。投資家はリスク回避的な企業の株を売り、リスク選好の企業の株を買えばよいのだが、「日本経済」という視点からすると、バブル崩壊期にはリスク回避的な企業が多かったことに感謝すべきだったのかもしれない
なるほどリスク回避的であればリターン(収益)も低くなるはずだが、どちらの経営スタイルを選ぶかは好みの問題だろう。


上記のように、著者の主張に必ずしも賛同はできない。しかし、日本経済の課題が幅広くコンパクトにまとめられ、(著者の他の本同様)論旨は明確で、説明がわかりやすく、非常に理解しやすい本だった。
また、主張を冒頭にまとめ、目次、索引が充実しており、今時珍しいくらい良心的な作りになっている。


以下の三点については、(私にとっては)今まで聞いたことがないとても興味深い主張であった。
1)今後ファイナンスの必要性が高まるのは企業、家計ではなく政府であり、国債の最大の引受先である郵貯を民営化したのは時代に逆行している。
2)国民年金の不足分はサラリーマンが負担する厚生年金により補填されている。
3)少子化対策は、高齢化にともなう経済問題の解決になるどころか(依存人口が増えるので)むしろ有害。
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カナリア

2006年09月11日 | 映画の感想
12歳の主人公は(オウム真理教団を模した)新興宗教団に母に連れられて妹とともに「出家」する。やがて教団はテロ行為により強制捜査を受け、幹部であった母は逃亡し指名手配される。
主人公と妹は祖父に引き取られることになったが、教団の教えを捨てようとしない主人公は祖父の首を絞めるなどしたため、祖父は妹だけを引き取る。
主人公は大阪の児童相談所を脱走し、妹のいる東京をめざす。途中で、親と仲たがいして売春まがいの行為をしていた同い年の少女と出会う。少女は主人公に付きまといいっしょに東京に来る。
祖父はマスコミなどの指弾にあって転居していたが、かつての教団の仲間に助けられたりして、転居先をつきとめる。祖父の転居先の家の近くの食堂で母が死んだことをテレビのニュースで知った少年は自暴自棄になる。それでも祖父の家から妹を連れ出して、3人は、手をとりあって歩き出す。

母の死を知った少年が雨の中を絶叫しながら走りもだえ苦しむ場面が、背後で流れる「銀色の道」という唄とマッチしてとても感動的。「やっぱり暗くて救いのない映画だなあ、見るのやめようかな」と思っていたのをがまんして見続けると、それなりの報いが得られると思う。

主人公が祖父を殺そうとして、拾ったドライバを石で研ぐ場面が何度も出てくる。しかし、母の死を知ってヤケクソになっているはずの祖父の転居先の家の場面で、そのドライバで祖父を刺そうとする少女を主人公はなぜか止める。
それは、祖父も自分同様に世間から追い詰められたことを知っての心変わりなのだろうか。数々の試練を経てついに教団の目的である「解脱」に少年は達してしまったことを暗示しているのだろうか。
どのような理由にせよ、この場面は唐突で、かつ、予定調和的な感じがして、若干説得性に欠けているような気がする。というか、直前の「銀色の道」の場面と比べて落差がありすぎる。
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砂漠で溺れるわけにはいかない

2006年09月09日 | 本の感想
砂漠で溺れるわけにはいかない(ドン・ウインズロウ 東京創元文庫)

ニールケアリーシリーズ第5作にして最終話。自宅を離れてラズヴェガスへ行ってしまった元有名コメディアンの老人を連れ戻す指令を受けて、ニールが例によって悪戦苦闘する話。

第4作の「ウォータースライドをのぼれ」もそうだったが、シリーズ前3作とは違って軽いムードの中篇といった感じで、私がこのシリーズに求めていたものとはかなり離れてしまってとても残念。

「ストリートキッズ」とまではいかなくても、厭世感をただよわせて、世間とのかかわりを断った世捨て人のニールが、クールに事件に立ち向かう話を、もう一度書いてくれないものだろうか。

それにしても、本文250ページで720円は高いなあ。シリーズファンの足元をみてるって感じ。
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