魯生のパクパク

占いという もう一つの眼

命のまま

2020年08月04日 | 日記・エッセイ・コラム
安楽死事件に対して、賛同する人は誰もいない。善悪を論ずる前に、少なくとも違法なのだから、当然だろう。
しかし、こんな事件が起きるのは、日本が安楽死をタブー視しているため、公論にもならないからだ。
切腹文化で知られ、自殺大国でもある日本が、安楽死を無視する不可思議に、誰も矛盾を感じないのだろうか。近頃は自殺を自死と言い換えるらしいが、こうした事なかれ精神が、ますます問題を遠ざけている。
文化、社会心理の観点では、極めて面白い現象なだけに、一言で説明できるような問題ではないかもしれない。

むづかしい議論やプロセスはさておき、もし、安楽死を認める法律があったらどうだろう。
真の安楽死が研究される一方で、自殺者の多くを救うことができるはずだ。
安楽死が公的に行われるならば、そこまでの過程で多くの専門家の判定を受け、何よりも、その前に、受付の段階でカウンセリンを受けることができる。
自殺者は元々、死にたくない人だ。生を求める故に、生に行き詰まれば、死ぬしかないと選んでしまう。生きることの希望や意味に気づけば、死を選ぶ必要はない。

世にはばかる憎まれっ子のようには生きられない人を、慰めたり、道を示したり、壁の突破を助けることは出来るはずだ。
自分の生が、人に役立つと思えるなら、光明が見える。人の役立ち方は無限にある。
死を伏せるような偉い人でなくても、その人が生きてくれているだけで、周囲にとってありがたい人は少なくない。また、この人のために生きなければと思って生きている人も多い。

生命は命(いのち)
何のために生まれてきたかと問われて、答えられる人などいないだろう。だから人は、何かのために、誰かのために生きていると思いたい。多くは、家族のため、主君のため、国のためなど、自分に関わる存在、つまりは、生命の自己防衛意識を拡大し、理由を見いだす。
しかし、人類のため宇宙のためなどと、思う人は滅多にいない。五感に響くリアリティが無いものには、一体感を感じられないからだ。

ところが、実は、人類の多くはこれに共感して生きている。一神教の神や、仏教の法と言われるものは、この宇宙観だ。
一神教では、命は神が定めるものなので、自分で勝手に決めることはできないと考える。仏教でも、人は従うべき法を悟る修行をしなければならない。解釈の仕方によっては、例外的に、神のため法のためなら死ぬことは可能と考える人もいる。

神によって、法に従って、生かされていること、宇宙の一部として生きていることは、それ自体が生きることの意味となる。
そうであれば、どのような形どのような境遇であっても、無駄な生ではない。何らかの使命を帯びている。なぜなら、宇宙は互いの存在に依存し合って成立しているからだ。

体が動かなくなっても、意識が働いている以上、他者に働きかける力がある。そこに気づけば、そしてそれが可能なら、確固たる存在理由があり、最後まで生きている価値を発揮できる。意識が無くても、誰かがその存在を必要としているなら、それだけで意味がある。
いわゆる普通の状態でなければ、生きている価値がないとすれば、老人など要らないし、姥捨て山に捨てた方がいい。
また、この先、科学の発展で、人類は脳だけで生きることも考えられる。今の「普通」しか考えられない人には、そんなことはとても受け入れられないかもしれないが、
もし、意識だけで生きる経験をしている人がいれば、そういう世界の体験者として、極めて貴重な存在となる。

人間の身体は、人間そのものではない。意識と魂の依り代にすぎない。一方で、身体そのものの存続を繰り返すことで、数多の依り代を成し、魂の集合体として文化・技術を紡ぎ出している。そしてそれが、やがて宇宙に影響していく。そのときは今のような姿をしていないかもしれない。あるいは別の生命体になっているかもしれない。その過渡期を預かるのが人類の使命なのだとすれば、個々の命に、何一つ無駄はない。
生きることの意味が、この時代の価値観しか無いとすれば、そこから外れたものは皆死ななければならないが、すべての在りようは、時代を謳歌する人を支えているのだ。大将を支えているのは兵卒であり、国民であり、馬なのだ。共に生きるものは、何一つ欠かすことは出来ない。

生命は、宇宙とともに生きよと命じられている。生きる命(いのち)は使命であり宿命なのだ。ただの一つも無駄な生は無い。何のために生きているかわからない時こそ、悟りへの第一歩が始まる。死にたいと思うその時に、偉大なる生の道、魂の道が開かれる。
犯罪者、馬鹿な人、無能の人、虐げられている人、苦難の底にいる人・・・無駄と思われる規格外の人こそが、人類を、そして生命を支える力の温床なのだ。絶やすわけにはいかない。

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