舞台中継『旭輝黄金鯱』

『通し狂言　旭輝黄金鯱』の舞台中継を昼にNHKで観た。
登場人物の多くに「実ハ誰某」という設定があり、
正体があとでわかるようになっている構成や、
主要登場人物が血縁その他なんらかの繋がりのあることが
だんだんと明かされる展開、
また調子の良い七五調の台詞など、
『弁天小僧』を彷彿とさせる箇所がいくつかあった。

特に、音羽屋の旦那さん（菊五郎）が演じているせいもあって、
「ここらで尻尾を出すとしようか」
と柿木金助が皆の前で開き直って、勅使から盗人の顔に戻るところは、
弁天小僧か日本駄右衛門かという展開で面白かった。
一方、悪役でしかも巧みな妖術を使うところは、
なんとなく仁木弾正みたいな雰囲気でもあった。
こうした、既視感のあるような無いような部分が、
演出なのか、もともとの設定なのかは、私には不明だった。

しかし何より、今回は松緑が非常に大きな役を務めていて、
覇気のある舞台姿に加え、胸のすくような台詞回しが見事で、
あの辰之助の息子がこんなに立派になったかと感慨深かった。
事実上、今回の菊五郎の相手役のひとりは松緑だった。

幕間の、山川静夫氏や沢村田之助丈、草笛光子さんらのお話では、
しばしば、「松緑」「権十郎」などの名前が、
先代を指す意味合いで自然に出てきていたが、
きょうのは、私としても、歌舞伎が世代交代していることを
改めてはっきりと感じた公演だった。
既に、これらの名跡が、当代の若い役者さんたちによって、
立派に継承されていることが、舞台を観てよくわかったからだ。

可愛い丑ちゃんだと思って微笑ましく観てきた菊之助が、
とっくに、あまりにも気品のある役者に育っていたことが、
今更ながら実感できたし、
幼い、若いと勝手に思っていた中村梅枝が美しく、
時蔵の若いときによく似ていて、感嘆してしまった。

おふく役の市川男寅もオモシロ過ぎだった。
声変わり中なのか不安定な声を逆手に取って、
ヨーデルみたいな声音の、愛嬌のある女の子を演じていて、
音羽屋との呼吸の合わせ方も実に巧かった。
おじいさんの左團次からしてあまりにも可笑しいのだが、
こういう笑いのセンスがちゃんと受け継がれているかと感心した。
いつぞや博多座で男女蔵を観て、左團次生き写しでウケたが、
孫の男寅にまでこれだけ楽しませて貰って、
私もファンとして長くなって来たなあと感慨深かった（汗）。

それにしても、大凧宙乗りで客席を睥睨（へいげい）する金助、
金鯱を背景に、名古屋城の天守閣の上で見得を切る金助、
ああ、音羽屋はなんて格好イイのだろうと見とれた。
あんなの良性発作性頭位メマイ症だったら絶対務まりません（爆）。
「実ハ」「実ハ」があって、音羽屋のいろいろな顔を
ひとつの芝居で次々と観ることができるのも楽しかったが、
大詰めの最初に出て来る愉快な「金太夫」が、
特に今の音羽屋ならではで、良かったと感じた。
彼の踊る『招き猫ダック』が、千秋楽に向かって日々深まることを願う（逃）。

ということで、私の観劇予定は一応、来週だ。
私の体調が安定していて、予定通り出かけられますように
（きょうの目眩も、起床直後に下を見たときからグラグラが始まり、
二時間ほど我慢しながら漫画を読んだあと、
根負けしてメリスロン6mgを飲んだら、
その御陰かどうか不明だが、おさまった。
以後は、就寝近い現時点まで、とりあえず目眩は起こらず）。