殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

ロス疑惑

2009年06月01日 10時52分23秒 | みりこんぐらし
たま~にだが、結婚を申し込まれることがある。

断っておくが、これは自慢ではない。

なぜなら、どう見ても勘違い…かつザンネンなおかたにしか

申し込まれないからだ。


恋愛関係ならともかく、既婚者にいきなりプロポーズするあたり

そもそも尋常な神経ではない。

「そういうおかた」を刺激してしまうナニカが備わるという

呪われた星のもとに生まれたとしか思えない。

周囲の好奇心とあわれみが、二人三脚で私をさいなむ。


中でも苦々しい思い出は、35才だった九州の仲居時代にさかのぼる。

最初に申し込まれたのは、出獄間もない

保護観察中の板前見習いの若者であった。


決して私を好きになったというわけではない。

一人暮らしだとわかったからだ。

仲居の同僚は、夫や彼あり、または親か子供と暮らす者が多く

完璧な一人暮らしは、ベテランのおばあちゃんと私しかいなかった。


寮で他の板前と同室だった彼は

居心地の悪さを感じていた。

他人とうまくやれるような男なら、事件なんて起こしゃしないのだ。


大将が身元を引き受けたのだが

刑務所を出たばかりでお金もなく、入れられた寮もイヤとなると

誰でもいい、一人暮らしの女をたぶらかして入り込むしかないわけだ。

おばあちゃんではナンだから、どんぐりの背比べとはいえ

ちょっとでも若いほうが…という打算も垣間見えた。


ひと回りも年下の一文無しを

なぜ私が養わなければならないのだ。

まったく、こういう知恵だけはよく回るものだと感心した次第である。


次は、これも丁重にお断りしたものの、10何人兄妹だかの長男。

これでは妻でなく、無償の働き手募集だ。


その次は厄介だった。

店のお客である。

これは厳密に言えば、はっきり結婚を申し込まれたという分野ではないが

はなはだ不愉快だったので、数に入れる。


食品関係の会社を経営している50代の人で

なかなかのお金持ちという触れ込みであった。

店とは仕事上のつきあいがあるので

どうせ経費だろうが、ほとんど毎日夕食を食べに来る。


数年前に一人息子が亡くなり、それが元で離婚したと言う。

息子さんの写真をいつも懐に入れ、話しながら涙するので

仲居一同もらい泣きしたこともあった。


何度もその人から食事に誘われたが

イヤだったので、ヘラヘラとかわした。


長身に、薄手のシャツ…

ちょっと広くなり始めた額にかかる前髪…

のっぺりとした顔立ち…

うう…その姿は…あのロス疑惑のおかたにそっくりなのだ。


息子さんの死がきっかけで離婚したというのも

ちょっとなぁ…と思ってしまう。

そういう悲しい出来事に直面した夫婦の絆は

かえって強くなるのではなかろうか。


それらのことを女性限定で話して、いちいち涙ぐむあたり

そういう方面で問題があり、奥さんに愛想をつかされたのではなかろうか…

と思ってしまう。

あんなによく泣く男の人を見るのも初めてだった。


しかし、休みの日に同僚のミサコとショッピングに出かけた際

街でばったり、問題の“ミウラ氏”に出くわしてしまう。

「そこの店で夕食でも…」

ということになる。


食事がすむと、ホテルのバーへ行こうと言う。

「いいです、いいです、帰ります…」

しかしかなり強引な上、ミサコが乗り気なのだ。


ミサコは、男性にご馳走してもらうのは久しぶりだそうで

とても嬉しそうだった。

自称、若い頃は売れっ子ホステスということであったが

初老の年代に入った自分一人では

ミウラ氏の財布が開かないということも熟知していた。


ミウラ氏は、我々を酔い潰そうとしているらしく

高い酒を自分はほとんど飲まずに、ガンガン注いでくれる。

しかし、私ってば酒はそう好きではないが、酔わない子なんじゃ。

この強靱な肝臓を提供してくれた家系に感謝よっ!


バーで早々に酔いつぶれたミサコをタクシーに乗せると

ミウラ氏は私を振り返り

今夜のおかずはサバの味噌煮…とでも言うように

上を指さしながら軽~くのたまった。

「部屋、リザーブしてあるから」


ぎゃ~!カンベンしてくだせぇ!

「結婚してほしい。その話だけでも…」

ぎゃ~!やめてくだされ!

「ボクがイヤなの?」

イヤに決まっとりますがな!

あんた、年寄りにしてはモテるのかもしんないけど

私にゃタダの苦手なおっさん…(心の声)


「もしみりこんちゃんがウンと言ってくれたら

 二人で会社をやりたい」

「ボクの悲しみがわかると言ってくれたじゃない」

ああ、言いましたとも。

ミサコも言ってた社交辞令じゃん。 

♪悲しけりゃ、よそでお泣きよ♪(清水健太郎・失恋レストランの節でよろしく)


これ以上“ミウラさん”といては危ない…

結婚を口走ったのは、部屋に連れ込む手段に決まってら~!

頭の中をかの有名な「ロス疑惑」が駆け巡る。

似ているというだけなのだが

保険をかけて殺害されるイメージが、どうしても…。


あとあと店で顔を合わせることは避けられないので

ズケズケ言うのもはばかられ

私は「お腹が痛い」という、きわめて古典的な手段を使い

スソをからげて逃げ帰った。


その後、腹痛の原因を「生理中で今日は相手が出来ない」と

都合良く受け止めた彼に、しつこくつきまとわれる羽目に陥る。

もう「腹痛」を使うのはよそう…強く誓った。
コメント (14)
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