殿は今夜もご乱心

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現場はいま…ピカチューの乱・4

2024年04月10日 14時50分20秒 | シリーズ・現場はいま…
さて、ここまでのいきさつを一旦整理してみよう。

少々複雑な内容になってしまったので、これはご覧くださる皆さまへの配慮…

と申し上げていい子ぶりたいところだが

お話ししている私自身が混乱しそうなので、おさらいのつもりである。

前記事と重複するが、お付き合い願いたい。


3月29日の夕方、酔ったピカチューが次男に電話をかけて暴言を吐いた。

内容は、「自分の言うことを聞かない」というもの。

その様子を目の前で見た夫は腹を立て

翌朝ピカチューに、酔って電話をしたことを抗議した。

夫の予定ではこれで終わるはずだったが、ピカチューは激しい抵抗を見せ

二人は言い争いになった。


「ワシの言うことが聞けんのなら辞めぇ!」

ピカチューが放った予想外の強気発言に、夫は逆上。

「辞めたるわい!」

そう言って事務所の鍵と携帯を置き、その日は休みを取っていたので

そのまま家に帰った。


二人のやり取りを事務所の外で聞いていた次男は

取り急ぎ、直属上司の河野常務に連絡。

入院中で動けない常務は、本社から永井営業部長を差し向け

ピカチューと次男から事情聴取をさせた。

しかしピカチューは「酔っていたので忘れた」を繰り返し

酒を飲んで電話をした行為しか認めなかったため

事情聴取はウヤムヤのまま終わった。


辞めると断言し、怒り心頭で家に帰って来た夫だが

その後、激しく後悔しているのが見て取れた。

この何十年、会社が好き、仕事が好きで生きて来た夫が

腹立ちまぎれに辞めて、大丈夫だろうか…

しかも相手は、たかだかピカチュー…

あんなコモノのために、夫の40年余りに渡る歴史を途絶えさせていいのか…

明るく振る舞ってはいるものの、内心は意気消沈している夫を見て

私は思うのだった。


このまま辞めるのであれば、仕方がない。

薄い味噌汁をすすり、漬物をおかずに不死身の義母を養って生きて行こう。

嫌だけど。

しかし、運命がこれを許すだろうか。

これまで何があっても、夫は必ず誰かのサポートによって生き残ってきたのだ。

夫は必ず会社に残る…私には確信があった。


残るとすれば、問題が。

だって、私がピカチューなら絶対言うもんね。

「てめぇ、吐いたツバ飲むんか」

男がこれを言われたら、ものすごく辛いと思う。

これをピカチューに言わせないためには

今後どう立ち回るかを考えておかなければならない。


しかし、それを考えるには

ピカチューが豹変した原因を究明しておく必要があった。

酔って突然、次男に電話をかけたのはなぜか。

煙たいはずの夫に「辞めろ」とまで言えた、その原動力は何なのか。

ピカチューの身に一体何が起きたのかを知らなければ、彼の次の行動が読めない。


次男からこの件を聞いた常務は、永井営業部長の報告を待って

近日中に必ず夫に連絡を取るはずだ。

その時、夫が冷静を欠いて、きちんとした受け答えをしなければ

非はピカチューにありながら、喧嘩両成敗になってしまう可能性がある。

もちろん常務は夫の味方ではあるが

ピカチューが前任の松木氏や藤村のように嘘八百を並べる恐れはゼロではない。

手術を控えた常務に1ミリの疑惑も残さないよう努め

安心してもらうためには、取り急ぎ夫と真実を共有し

善後策を話し合っておくに越したことは無いのだ。


ピカチューの粗野な言動が不可解なのは、夫が何かを隠しているから…

私にはそう思えた。

夫が隠すといったら、女のことしか無い。

アイジンガー・ゼットが、裏で何かやらかしているのは確実だ。

「ピカチューが突然変わったのと、アキバ産業は関係があるか」

私はこの一つだけを問い、女のことではない質問に安心した夫は

ピカチューがアキバ産業との共同仕入れを言い出し

自分が拒絶したことをしゃべった。

次男への電話も、夫に辞めろと言ったのも、これが原因だった。


ピカチューは自分の計画を却下した夫と

アキバ産業に近づかない方がいいと言う次男を恨んでいたのだ。

愚かな人間はうまくいかないことがあると

誰かを憎むことしかできないものである。


このことから私は、アイジンガー・ゼットが夫を見限り

ピカチューに乗り換えたと判断。

その瞬間には、心当たりがあった。

時は2月初旬、3年に1回の巡回監査があった日のこと。

おカミの天下り機関から人が来て、労働基準に違反してないか

タコメーターの管理はしっかりされているか

書類は正しく記入されているか

アルコールチェックはちゃんとやっているか、などを細かく調べるのだ。


この時、対応のために、本社から元経理部長のダイちゃんが来た。

彼は合併以来ずっとこの検査に立ち会って慣れているのもあるが

前の事務員、推定体重100キロ超のトトロから

今のアイジンガー・ゼットに代わって以来

何やかんやと理由をつけてしょっちゅう来るようになり

監査当日も朝から張り切ってやって来たそうだ。

アイジンガー・ゼットはお世辞にも美人とは言い難いが

愛人をやるぐらいだから、男あしらいがうまいのかもしれない。


やがて監査官が到着した時、ダイちゃんは夫に言った。

「ヒロシさんは、出て行ってくれる?」

そう言われれば、事務所の外へ出るしかない。

中には二人の監査官と、こちら側の立会人として

ダイちゃん、ピカチュー、そしてアイジンガー・ゼットが残った。


昼休みに帰って来るなり、このことを私に言ったぐらいだから

夫はかなりショックだったらしい。

監査は楽しい時間ではないが、今まではずっと立ち会ってきた。

それが今回はピカチューとアイジンガー・ゼットが残され

自分だけ追い出されたんだから、戦力外通告と同じだ。

こちらでは新米のピカチューと

錯覚とはいえ一時は自分のカノジョと思っていたアイジンガー・ゼットの前で

夫のプライドはズタズタになったのである。


ダイちゃんは、我々が彼の信仰する宗教への入信を断って以来

夫や息子たちに手厳しい。

彼はお気に入りのアイジンガー・ゼットの前で

夫に冷たく命令して見せたかったのだと思う。

初めての監査で緊張するピカチューにも、ええカッコがしたかったと思う。

社内での宗教勧誘が原因で左遷され

窓際になったダイちゃんが威張れる場といったら

事情を知らないアレらの前だけなのだ。


「面倒くさい監査から逃げられて、良かったじゃんか」

ダイちゃんの仕打ちに傷ついている夫を慰めたのはともかく

ピカチューが夫より上だと勘違いしたのも

アイジンガー・ゼットが夫を見限ってピカチューに乗り換えたのも

この時からと見て間違いない。

ピカチューとアイジンガー・ゼットがラブラブになったのも

ピカチューがアキバ産業へ出入りし始めたのも、同じ2ヶ月前なんだから

誰でもわかるというものだ。

アキバ社長とアイジンガー・ゼットは、この時を境にターゲットを変更したのである。


《続く》
コメント
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