世の中には、バカがいるものだ…
語弊はあるだろうけど、久々にそう思った。
と言うのも先日のこと…
その日は私が籍だけ置いている、しょうもない集合体で新年度の総会が行われる。
この4月から会計役員の順番が回って来た私は、仕方なく出席することにしていた。
すると朝、電話が鳴った。
前年度の会計役員、50代のヤッちゃんからだ。
「おはようございますぅ。
あの、会計報告は今日ですよね」
総会では、前年度の会計役員が大ざっぱな会計報告を口頭で行い
細かい内訳は会計報告書に記載して全員に配るのだ。
「そうよ、今日よ…報告書できた?」
悪い予感がした私は、恐る恐るたずねたものであった。
「いえ、全然!」
ヤッちゃんは明るい。
「さっきやろうと思ったんですけど、さっぱりわからないんです」
なおも明るい。
「ヤッちゃん、これから全部やるつもり?2時間後には総会が始まるんよ?」
「はは…やっぱり間に合いませんよね。
それで、みりこんさんにお願いしようと思って電話したんです」
依然として明るいヤッちゃんであった。
彼女は明るくていい子だが、のんびりノビタなのは若い頃から知っていた。
日本で一番有名な新興宗教の、俗に言う二世信者で
選挙の時だけ、お仲間と連れ立って頼みに来るからだ。
信仰に熱心過ぎるからか、年を取るにつれ、ぽわ〜んと浮世離れしてきた様子も知っている。
そんな彼女、近頃は子供が大学生になったということで
パートを二つ掛け持ちして頑張っているそうだ。
つまり、ひどくのんびり屋なのに、ひどく忙しい生活をしている…
そこが私の感じた悪い予感の原因だった。
会計役員は二人いるはずだが、もう一人はフルタイムで働いているので忙しく
この日の総会にも出られないという。
よって、忙しいその人は、昨年4月に会計を引き受けた時点で行う
通帳の名義変更を始め、各方面への届出などの面倒な仕事を先にやり
ヤッちゃんがシメの会計報告をすることになったのだった。
例年なら他人ごとなので放っておくが、次は自分が引き継ぐとなると
心配になってきた私。
「大丈夫?大変だったら手伝うから、早めに言ってね」
ヤッちゃんには、そう言って二度ほど連絡した。
しかし彼女は、その度に大丈夫だと言い切り
「私、ギリギリにならないとできない性格なんで」
と明るく答えた。
その空明るさがますます心配だったが、この子は結婚前
国の機関で事務職だったという、田舎では輝かしい経歴があるため
あんまりヤイヤイ言うのも失礼かなと思っていたのが裏目に出た。
この子、何でもかんでも教祖様を拝めばどうにかなると思ってるんだろうか…
とすら思いつつ
「これから、総会の会場に集合しようや。
通帳と金銭出納帳と印鑑、忘れずに持って来て」
と告げる。
すると彼女…
「通帳はありますけど、出納帳にはまだ何も書いてないから白紙なんです」
「え…?!」
「あるのは通帳と〜領収書と〜それから〜色んな書類がいっぱい…」
「あんたさ〜、1年間、何しよったんよ〜」
「すぐできると思ってたんですよ〜。
だって私ね、仕事を二つ始めたから忙しかったし〜。
みりこんさん、私みたいなのに会計を任せるのは間違ってると思いません?
これからは、そういうのも考えてから役員を決めてもらいたいですよね〜」
「おしゃべりしとる暇は無いけん、わたしゃもう行くよ」
ヤッちゃんのおしゃべりを遮断し
洗濯機の中の洗濯物もほったらかして総会の会場へ急行。
この子のことだから筆記用具も電卓も持って来ないと思い
それら事務用品も持って行く。
その道すがら、私と一緒に今年度の会計役員を務めることになっている
40代のマッちゃんを呼び出した。
「マッちゃん!会計報告がヤバいらしい…助けて!」
彼女は、経理事務のエキスパート。
この子と一緒なら安心ということで、私は今年度の会計役員を引き受けたのである。
年寄りの私が、わけわからんヤッちゃんと二人で頭を突き合わせても
今からでは何もできん。
ここはプロにお出まし願うのじゃ。
自分の秘密が私だけでなく、マッちゃんにまで伝わったと知ったヤッちゃんは
「みりこんさんだけでよかったのに〜」
と不満を口にしたが、そんなことをほざける身分ではない。
マッちゃんもすぐに来てくれたので、無理を言って会場を開けてもらい
会計報告書の作成が始まった。
が、去年の引き継ぎ以来、ヤッちゃんは本当に何もしておらず
彼女が持って来た紙袋には、おびただしい書類や領収書が
メチャクチャに突っ込まれたままの状態だ。
何が何やらさっぱりわからないので
マッちゃんは事務というより推理で作業を進めていった。
私はその横で助手を務め、ヤッちゃんはしょうもないこと…
「私を会計にするのが間違ってる」
「あそこの店のケーキ、美味しいと思います?」
などと関係ないことを延々と口走る。
うろたえて、あらぬことを言っているわけではない。
脱線が通常モードなのだ。
邪魔をするくらいなら、会計報告書が早く出来上がるように祈ってくれた方がマシじゃ。
が、努力も虚しく、総会の開始時刻には間に合わないことが判明。
入出金の処理がずさんなため、マッちゃんの実力をもってしても
収支がなかなか合わないのだ。
やっぱり私では無理だった。
やがて総会に出席する人たちが、続々と会場に入り始めた。
マッちゃんは相変わらず、電卓にかぶりついて計算を続けている。
頭脳で人を助けるその姿は、神々しくすらあった。
ヤッちゃんの崇める教祖様より、よっぽど神だよ。
あと数分で開始時刻という時になって、ようやく収支が合い
口頭で伝える数字が仕上がった。
この数字は前年度の会計役員、ヤッちゃんが言うことになっているが
また脱線したり、あらぬことを口走って数字に突っ込まれたら面倒なので
私が交代。
会計報告書が総会に間に合わなかった理由は
直前にミスプリントが見つかったためで、次の会合で配布すると言っておいた。
難なく通過したので、ホッとしたものである。
総会が終わると、改めて会計報告書を作るための残業だ。
ヤッちゃんの証言が無ければ計算が進まないので
私が一つ一つ彼女に質問、彼女は脱線しながら記憶を辿って解答し
マッちゃんがそのやり取りで推理しながら計算するという厄介な作業を繰り返し
叩き台ができあがったのは、2時間後だった。
マッちゃんはこの叩き台を持ち帰り、報告書を仕上げてヤッちゃんに渡すことになった。
ヤッちゃんの方はそれを人数分コピーして、次の会合で渡すのだ。
「コピー代は、みりこんさんに請求したらいいですか?」
マッちゃんへのお礼の言葉もそこそこに、ヤッちゃんはやっぱり明るい。
殴ってやりたくなった。
ピンチを助けてくれたマッちゃんに、私もお礼がしたいけど
彼女はおそらく拒絶するだろう。
そこで、本来は二人が半年ずつ交代して行う会計の仕事を
私が1年間、全部やると申し出た。
銀行でお金を出し入れしたり、支払い先に振り込んだり持って行く作業を
時間の自由な私がやるのだ。
この団体は使い込みを警戒して会計役員を二人置くシステムだが
やはり警戒の一環で銀行のキャッシュカードも作ってないため
ATMでの入金はできるが、出金はできない。
お金をおろすには銀行の窓口へ行くしか無いので
フルタイムで働くマッちゃんには負担だと思ったからだ。
私からのお礼は時間というわけ。
ついでにマミちゃんの店で買った、マキアージュのリップクリームも付けるぞ。
「本当?嬉しい!平日の昼間に銀行へ行くの、難しいのよ」
マッちゃんは喜んだ。
「その代わり、年度末の会計報告書はマッちゃんが作ってくれる?」
「もちろん!」
この団体、参加しなくなって久しいので辞めようかと考えていたが
マッちゃんみたいな人もいるのだから、もう少し籍を置いておこうと思った。
それにつけても、ヤッちゃんには腹が立つ。
バカはうちの会社だけにいると思っていたが、ここにもいたとはな。
ほんとバカだ、あの子。
語弊はあるだろうけど、久々にそう思った。
と言うのも先日のこと…
その日は私が籍だけ置いている、しょうもない集合体で新年度の総会が行われる。
この4月から会計役員の順番が回って来た私は、仕方なく出席することにしていた。
すると朝、電話が鳴った。
前年度の会計役員、50代のヤッちゃんからだ。
「おはようございますぅ。
あの、会計報告は今日ですよね」
総会では、前年度の会計役員が大ざっぱな会計報告を口頭で行い
細かい内訳は会計報告書に記載して全員に配るのだ。
「そうよ、今日よ…報告書できた?」
悪い予感がした私は、恐る恐るたずねたものであった。
「いえ、全然!」
ヤッちゃんは明るい。
「さっきやろうと思ったんですけど、さっぱりわからないんです」
なおも明るい。
「ヤッちゃん、これから全部やるつもり?2時間後には総会が始まるんよ?」
「はは…やっぱり間に合いませんよね。
それで、みりこんさんにお願いしようと思って電話したんです」
依然として明るいヤッちゃんであった。
彼女は明るくていい子だが、のんびりノビタなのは若い頃から知っていた。
日本で一番有名な新興宗教の、俗に言う二世信者で
選挙の時だけ、お仲間と連れ立って頼みに来るからだ。
信仰に熱心過ぎるからか、年を取るにつれ、ぽわ〜んと浮世離れしてきた様子も知っている。
そんな彼女、近頃は子供が大学生になったということで
パートを二つ掛け持ちして頑張っているそうだ。
つまり、ひどくのんびり屋なのに、ひどく忙しい生活をしている…
そこが私の感じた悪い予感の原因だった。
会計役員は二人いるはずだが、もう一人はフルタイムで働いているので忙しく
この日の総会にも出られないという。
よって、忙しいその人は、昨年4月に会計を引き受けた時点で行う
通帳の名義変更を始め、各方面への届出などの面倒な仕事を先にやり
ヤッちゃんがシメの会計報告をすることになったのだった。
例年なら他人ごとなので放っておくが、次は自分が引き継ぐとなると
心配になってきた私。
「大丈夫?大変だったら手伝うから、早めに言ってね」
ヤッちゃんには、そう言って二度ほど連絡した。
しかし彼女は、その度に大丈夫だと言い切り
「私、ギリギリにならないとできない性格なんで」
と明るく答えた。
その空明るさがますます心配だったが、この子は結婚前
国の機関で事務職だったという、田舎では輝かしい経歴があるため
あんまりヤイヤイ言うのも失礼かなと思っていたのが裏目に出た。
この子、何でもかんでも教祖様を拝めばどうにかなると思ってるんだろうか…
とすら思いつつ
「これから、総会の会場に集合しようや。
通帳と金銭出納帳と印鑑、忘れずに持って来て」
と告げる。
すると彼女…
「通帳はありますけど、出納帳にはまだ何も書いてないから白紙なんです」
「え…?!」
「あるのは通帳と〜領収書と〜それから〜色んな書類がいっぱい…」
「あんたさ〜、1年間、何しよったんよ〜」
「すぐできると思ってたんですよ〜。
だって私ね、仕事を二つ始めたから忙しかったし〜。
みりこんさん、私みたいなのに会計を任せるのは間違ってると思いません?
これからは、そういうのも考えてから役員を決めてもらいたいですよね〜」
「おしゃべりしとる暇は無いけん、わたしゃもう行くよ」
ヤッちゃんのおしゃべりを遮断し
洗濯機の中の洗濯物もほったらかして総会の会場へ急行。
この子のことだから筆記用具も電卓も持って来ないと思い
それら事務用品も持って行く。
その道すがら、私と一緒に今年度の会計役員を務めることになっている
40代のマッちゃんを呼び出した。
「マッちゃん!会計報告がヤバいらしい…助けて!」
彼女は、経理事務のエキスパート。
この子と一緒なら安心ということで、私は今年度の会計役員を引き受けたのである。
年寄りの私が、わけわからんヤッちゃんと二人で頭を突き合わせても
今からでは何もできん。
ここはプロにお出まし願うのじゃ。
自分の秘密が私だけでなく、マッちゃんにまで伝わったと知ったヤッちゃんは
「みりこんさんだけでよかったのに〜」
と不満を口にしたが、そんなことをほざける身分ではない。
マッちゃんもすぐに来てくれたので、無理を言って会場を開けてもらい
会計報告書の作成が始まった。
が、去年の引き継ぎ以来、ヤッちゃんは本当に何もしておらず
彼女が持って来た紙袋には、おびただしい書類や領収書が
メチャクチャに突っ込まれたままの状態だ。
何が何やらさっぱりわからないので
マッちゃんは事務というより推理で作業を進めていった。
私はその横で助手を務め、ヤッちゃんはしょうもないこと…
「私を会計にするのが間違ってる」
「あそこの店のケーキ、美味しいと思います?」
などと関係ないことを延々と口走る。
うろたえて、あらぬことを言っているわけではない。
脱線が通常モードなのだ。
邪魔をするくらいなら、会計報告書が早く出来上がるように祈ってくれた方がマシじゃ。
が、努力も虚しく、総会の開始時刻には間に合わないことが判明。
入出金の処理がずさんなため、マッちゃんの実力をもってしても
収支がなかなか合わないのだ。
やっぱり私では無理だった。
やがて総会に出席する人たちが、続々と会場に入り始めた。
マッちゃんは相変わらず、電卓にかぶりついて計算を続けている。
頭脳で人を助けるその姿は、神々しくすらあった。
ヤッちゃんの崇める教祖様より、よっぽど神だよ。
あと数分で開始時刻という時になって、ようやく収支が合い
口頭で伝える数字が仕上がった。
この数字は前年度の会計役員、ヤッちゃんが言うことになっているが
また脱線したり、あらぬことを口走って数字に突っ込まれたら面倒なので
私が交代。
会計報告書が総会に間に合わなかった理由は
直前にミスプリントが見つかったためで、次の会合で配布すると言っておいた。
難なく通過したので、ホッとしたものである。
総会が終わると、改めて会計報告書を作るための残業だ。
ヤッちゃんの証言が無ければ計算が進まないので
私が一つ一つ彼女に質問、彼女は脱線しながら記憶を辿って解答し
マッちゃんがそのやり取りで推理しながら計算するという厄介な作業を繰り返し
叩き台ができあがったのは、2時間後だった。
マッちゃんはこの叩き台を持ち帰り、報告書を仕上げてヤッちゃんに渡すことになった。
ヤッちゃんの方はそれを人数分コピーして、次の会合で渡すのだ。
「コピー代は、みりこんさんに請求したらいいですか?」
マッちゃんへのお礼の言葉もそこそこに、ヤッちゃんはやっぱり明るい。
殴ってやりたくなった。
ピンチを助けてくれたマッちゃんに、私もお礼がしたいけど
彼女はおそらく拒絶するだろう。
そこで、本来は二人が半年ずつ交代して行う会計の仕事を
私が1年間、全部やると申し出た。
銀行でお金を出し入れしたり、支払い先に振り込んだり持って行く作業を
時間の自由な私がやるのだ。
この団体は使い込みを警戒して会計役員を二人置くシステムだが
やはり警戒の一環で銀行のキャッシュカードも作ってないため
ATMでの入金はできるが、出金はできない。
お金をおろすには銀行の窓口へ行くしか無いので
フルタイムで働くマッちゃんには負担だと思ったからだ。
私からのお礼は時間というわけ。
ついでにマミちゃんの店で買った、マキアージュのリップクリームも付けるぞ。
「本当?嬉しい!平日の昼間に銀行へ行くの、難しいのよ」
マッちゃんは喜んだ。
「その代わり、年度末の会計報告書はマッちゃんが作ってくれる?」
「もちろん!」
この団体、参加しなくなって久しいので辞めようかと考えていたが
マッちゃんみたいな人もいるのだから、もう少し籍を置いておこうと思った。
それにつけても、ヤッちゃんには腹が立つ。
バカはうちの会社だけにいると思っていたが、ここにもいたとはな。
ほんとバカだ、あの子。