殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

言うに言えぬ

2023年03月23日 13時23分52秒 | みりこんぐらし

『やる気、無し』


最近、真知子さんと遊ぶことが増えた。

真知子さんは以前、『他人の夢』という記事に登場した70代の女性。

一人暮らしの自由を活かして、様々な文化的活動している。

記事で話した移住希望者のお世話も、その活動のほんの一端だ。

あ、記事に出てきた東京のアパレル女子?

あれっきりよ。

どうなったか聞くのもアホらしい。


その真知子さんを、同級生のマミちゃんとモンちゃんにそれぞれ紹介したところ

彼女の控えめで優しい人柄に魅せられて、すっかりファンになった。

だから、このところはもっぱら

真知子さんとマミちゃん、モンちゃん、私の4人で女子会をしている。

昔からの友だちと錯覚するようなこの感覚、すごく楽しい。


4人がこうも惹かれ合ったのには、理由がある。

真知子さんは日々の活動の一環で

あるワークショップのお手伝いをしているが

その主催者は、我々の地元に住む男性A君。

彼と我々は年が近いこともあり、古くからの知り合いだ。

ワークショップの方は興味が無いので参加しないが

モンちゃんと私は真知子さんと話すようになった。


月に一度のA君のワークショップは、数年前から開催されていた。

しかし男のやることだから、殺風景。

そこで先生然としているA君は、立派というよりイタい部類に属していた。


が、真知子さんが手伝うようになって、ワークショップは急にグレードアップした。

会場の飾り付けに彼女のセンスが光り、明るく楽しげになったからか

人あしらいが上手いためか、参加者は倍増。

彼女とA君は気が合うようで、姉と弟のように和やかな雰囲気も

参加者にとってはホッとできる空間のようだ。


ところが先日のある日、真知子さんは突然

ワークショップのお手伝いをやめると言い出す。

私とモンちゃんは、たまたまその場に居合わせていた。


彼女がお手伝いをやめると言い出した理由…

それは、A君に弟子入りして知識と技術を継承したいという

物好きな若者B君の出現が発端。

非常に喜んだA君は、次回からB君を含めた3人でやると真知子さんに伝えた。


そしたら彼女は、明るく言ったそうだ。

「一回の参加者が5人程度なのに、スタッフは3人もいらないから

今日でお手伝いを卒業します」

そして後片付けには戻ってくると言い残し、どこかへ行ってしまったという。

これからも3人で仲良くやって行くつもりだったA君は困惑し

近くにいた私たちに事情を話したという経緯である。


「弟子ができたからって、浮かれてんじゃないわよ。

真知子さんのお陰で参加者が増えたから、弟子にたどり着いたんでしょうが。

むくつけき男が2人並んでたら、女性が来にくいじゃんか。

私らも真知子さんがいなくなったら、もう来ないからね。

ちゃんと話し合って、何とかしなさいよ」

参加したことが無いにもかかわらず

私はA君にさらなる追い打ちをかけたものだ。


それから数日後、我々は真知子さんと会う予定があった。

マミちゃんはまだ彼女と面識が無いので、紹介を兼ねたランチ会である。


私がA君に言った悪質な発言は、すでに彼から真知子さんに伝わっていた。

彼女はそれを聞いて、救われた気持ちになったという。

そしてA君と話し合い、彼は自身の配慮が足りなかったことを謝罪して

お手伝いは続行することになったそうだ。


詳しく聞いてみると

真知子さんの思いはA君から聞いたのとは全く違っていた。

A君は2人から3人に増えるという人数問題と受け止めていたが

真知子さんの方は弁当問題だったのだ。


というのもワークショップは午前中に2回

午後に2回ぐらいあるので昼を挟む。

親切な真知子さんは毎回、A君と自分のお弁当を作っていた。

しかし、彼もいただくばかりではない。

おむすびは彼の担当で、真知子さんは二人分のおかずを持って行くのだそう。

ずっとこの分担でうまく行っていた。


けれども弟子ができたとなると、当たり前だが

ワークショップを手伝うことになる。

そこでA君は、真知子さんに言った。

「次からお弁当のおかずを3人分、お願いします」


それを聞いた真知子さんは、「やっとられん」と思ったそうだ。

「弟子になったB君に悪い感情は全然無いの。

だけど彼の分まで、何で私が?という気持ちになっちゃって

ここらが引き際なのかな?って思ったの」


「わかる、わかります!」

身を乗り出して真っ先にそう言ったのは、真知子さんと初対面のマミちゃん。

そうよ、うちらもユリ寺のお寺料理で

真知子さんと同じ気持ちをいつも噛み締めている。

お役に立てればと思って始めたことが、いつの間にか当たり前になって

気がつけば善意は踏みにじられ、便利な飯炊き要員として使われている現実…

この言うに言えぬ無念は、真知子さんが味わった気持ちと同じだ。


おむすびとおかずでは、味と予算の面から見て、おかずを作る方が断然気を使う。

自分とA君の2人分なら、自分プラスアルファの軽い気持ちでいられるが

3人分となるとひと仕事。

しかもA君もB君も独身。

独身男の食欲に遠慮は無い。

そして自分で作ったことのない人は、作る側の気持ちなんか知らない。

タダ飯が食えるなら、どこへだって顔を出すものだ。

そのような作り手の負担を一切考えず

「一人分増やして」と当たり前のように伝えられたことに

彼女は傷ついたのだと思う。


「私、お料理は嫌いじゃないから、作りたくないわけじゃないの。

だけど、ほんの親切のつもりが、なぜか義務みたいになってて

勝手に人数が増えるのって、何か違うんじゃない?と思って

どうしても納得できなかったのよ。

こんな気持ち、誰に話したってわかってもらえないと思ってたの」

嬉しそうな真知子さん。


「いえいえ、ここに同じ気持ちの人が3人」

「こういうのって、我慢してたらエスカレートする一方なのよね」

「早めに話し合った真知子さんとA君はえらいと思う」

激しく賛同する我々3人。

かくして4人は、強い絆で結ばれたのだった。


ところでユリ寺のお寺料理は、正月の雑煮以来、お休み中。

うちらが断っているのではなく、寺に人が集まらないのだ。

4月にお花見があるそうで、その時には招集されるらしい。

というのも5人会のラインで別のおしゃべりをした別れ際

「じゃあ次は4月5日のお花見でお会いしましょう!」

ユリちゃんは、そう言って締めたからだ。


こういう時に、人の本心が出るものよ。

何を勝手に日程決めとんじゃ。

グレてやる。

「お花見があるの?私らが料理するってこと?」

意地悪く返したら、長時間の沈黙後

「桜が咲く頃だから、お花見もいいかな?と思って。

ご都合はいかがですか?ご無理の無きよう」

何かやらかしたら、時間を置いて何ごともなかったかのように

気取って仕切り直すのはいつもの手だ。


モンちゃんは年度始めだから仕事で行けないと言い

私も、まだわからないと返した。

今年は厳しくするんじゃ!

…と決意したのもつかの間、今年初の招集にマミちゃんが張り切っているため

結局行くことにした。 

意志薄弱。
コメント (2)
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