殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

原因と結果・2

2023年03月04日 10時31分47秒 | みりこん流
Uは小学校時代から、本当に悪質な男児だった。

以下は『宇宙人』の記事でも触れたので重複すると思うが

我慢して聞いてもらいたい。


通う幼稚園が違っていたUとは小学校で合流し、我々女子の受難が始まった。

校庭のブランコで遊んでいたら、後ろから飛び乗ってきて

ものすごい勢いで高く漕ぐので、落下して怪我をした者もいた。

縄跳びなんかしようものなら、その縄を奪い取り

鞭にして周りの者を執拗に追いかけて、しばきまくる。

同い年とはいえ身体が大きく、足が速く、運動機能が発達していた彼に

小さい女の子がかなうわけはないのだった。


校庭も受難だが、校内でも油断はできない。

使用中のトイレのドアをこじ開けるなんて、朝飯前。

昔のトイレのドアは木製で、鍵らしきものといったら内側に細い掛け金があるだけなので

彼の腕力で引っ張られたら、ひとたまりもない。

授業中は髪を切られ、服を破られ、釘や針金で手足や背中を刺される者、続出。


先生の目が届かない登下校はもっと危険だ。

待ち伏せされてランドセルを奪われ、中身をぶちまけられるぐらいなら、まだマシな方。

突進してきて突き飛ばしたり、石を投げたり、川や側溝へ突き落とす。


我々女子は彼から身を守るため、いつもグループで行動するようになっていた。

誰かがやられたら誰かが微力ながら応戦し、その間に誰かが大人を呼びに行くためだ。

しかしその程度の手段が防御になるはずもなく、毎日が恐怖の連続だった。


そして彼は巧妙でもあった。

叩いたり蹴ったりの、はっきりした乱暴はしない。

元気が余って、ついこうなってしまったテイを装う。

走っていて、ぶつかった…一緒に遊ぼうとして力が入った…

つい手元が狂った…誰がやったか、はっきりしない…

彼の悪事は大半がそういうことになり、先生たちも彼の所業をワンパクとして片付けた。

家庭環境に同情すべき点があるというのがその理由なのは、子供の私にもわかっていた。

つまるところ呑んだくれで働かず、暴力を振るうお父さんがいるらしい。


「うちの子とU君を同じクラスにしないでください」

毎年の年度末には父兄からの嘆願があったが、学校は取り合わなかった。

それは差別になるという建て前があるので、取り合うわけにはいかないのだ。

しかもU君と同じクラスになりたくない者を募れば、学年の女子全員になる。

男女共学の公立小学校で、そのようにイビツなクラス編成ができるわけはない。


4年生の4月、Uは担任の勧めで学級委員に立候補した。

担任の考えついた苦肉の策であろうことは、子供にもわかった。

「ワンパクな子は良いリーダーになる」

選挙の前に担任が皆に言い、それに騙された子は彼に投票。

見事、学級委員になったが、それで彼がおとなしくなることはなく

目立たぬよう、さらに巧妙になっただけだった。


中学に進学しても、彼の暴挙は続いた。

ヤツは野球部に入ったので放課後の悪事は無くなったが

日中の手口はさらに巧妙、かつ性的な方向に近づいた。

ニタニタと笑いながら卑猥な言葉を連発し、女子の反応をうかがうのは日常。

授業で使う棒状の木切れを握って、女子の尻を追いかけたりもした。


さらにはビンに入れた複数のゴキブリを学校へ持って来て

女子の背中に入れることもよくやった。

その上から背中を叩き、中のゴキブリを潰して喜ぶのだ。

もちろん女子は泣き、その子の周りに居た誰かが注意する。

注意したら、次はその子に同じことをやる。

やり遂げた時のUの表情は歓喜に満ちて高揚し、それがまた恐怖を増した。


ちなみに私は、このゴキブリ作戦をやられてない。

目撃して文句も言ったが、報復は無かった。

やられるのは、可愛い女子限定だ。


それにつけても学校へゴキブリを持って来ようと思ったら、前日から準備する必要がある。

いったいどんな心境で、せっせとゴキブリを捕まえるのか。

考えるだけでもおぞましい。

じきに婦女暴行事件なんて起きるんじゃないのか…

ヤツは長身で身体がゴツく、力も強いので、襲われたらまず逃げられまい…

それでもまたワンパクで済ませるのか…

我々女子も成長してきて、そんな懸念が浮かび始めた中2の終わり頃

父親が他界したということで、彼は母親の故郷、愛媛県に転校することになった。

見知らぬ愛媛の女の子たちが心配になったが、ヤツがいなくなるのは本当に嬉しかった。


転校直前、最後っ屁のつもりか、彼は音楽室に置いてあった忘れ物を付けるノートに

私が音楽の授業で毎回、忘れ物をしたように工作していた。

私は学期末に成績表をもらうまで、このことを知らずにいた。

3学期の成績表は、親でなく生徒に直接配られるシステムだ。

音楽の成績は、小学校から5段階評価の5が続いていたのが

初めて4に転落していて、大いに当惑したものだ。


呆然とする私に近づいた彼は、得意そうに言ったものである。

「 どう?俺の置き土産」

一瞬、何のことかわからなかった。

「音楽室のノート、ノート」

アゴの張ったホームベースのような顔で、彼はさも楽しげにささやくのだった。


成績ダウンが彼の仕業によるものと知り、大きな衝撃を受けた私は

この時点で、おぼろげながら描いていた音楽系への進路を頭から消した。

このことが無ければ希望する進路に進んだかどうかは不明なので、彼のせいにするつもりは毛頭ない。

背中にゴキブリを入れなかった代わりとして、こんなことをされたのだと思うと

気持ちが悪くなり、やる気が削がれただけである。


彼とはそれっきりだったはずが、40代の頃、Uは同窓会に現れた。

大学卒業後は海上自衛隊に入って、そこそこ出世したらしい。

わざわざ制服を着て来たのが、いかにも彼らしい。

問題児が立派に成長した姿を見て、先生たちは涙を流して喜ぶのだった。


「ケッ!あんな酷いことをしても出世できるなんて。

やっぱり優待って、本当にあるんだ」

故郷に錦を飾っただの、ヒーローだのと

先生や男子たちにもてはやされてご満悦の彼を横目に、私は思ったものだ。


以後、里心がついた彼は時折、墓参りに帰省するようになった。

こちらに彼の家は無いため、図々しくも同級生の家に泊まろうとして色々あったが

それはさておき、彼は5〜6才だか年上の女性と晩婚し、男の子と女の子を授かっていた。

奥さんの故郷の長崎にマンションを買った…

妻子はそこで暮らし、彼は単身赴任を続けながら出世街道をまい進中…

年を取ってからできた娘が、可愛くてたまらないみたい…

彼と連絡を取り合っている同級生男子が言っていた。


ほぉ…相変わらず我が世の春じゃんけ…

やっぱり優待なんだ…

私は苦々しく、その報告を聞いたものである。

《続く》
コメント (6)
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