5日は例のごとく、同級生の友人ユリちゃんの実家のお寺で料理を作った。
お寺では、毎月5日がお勤めの日。
この日は檀家さんが来ない。
近頃はこの日に合わせ、最低でも月に一回のご奉仕が慣例になった。
お勤めが終わると、ユリちゃんの身内やブレーンが境内の整備作業を行う。
そして昼食は、我々同級生の作った料理ということになっている。
ユリちゃん一族とお友達のために、我々はせっせと料理を作るのだ。
人数が少ないので楽ちん、というわけではない。
口さがなくて気の張る檀家さんが来て人数が増え、お昼の支度が大変だから…
そんな理由で始まった料理のはずだった。
それが今は、気の置けない身内と仲良しだからこそ
珍しくて豪華な料理を要求されているような気がする。
釈然としないのは確かだ。
釈然としないなら、手抜きに限る。
私はこのところ、そればっかり考えている。
だからここ何回か、せめて洗い物を減らそうと躍起になって
プラスチックの弁当パックや発泡スチロールの寿司桶なんかを使った。
しかし肝心の洗い物は、あんまり減ってないような…。
それもそのはず、よく考えたらユリちゃんの兄嫁さんお手製の
焼き菓子やゼリーの類いが増えている。
同時に、それらに合わせて飲むコーヒーカップを始め
ジュースやお茶のコップも増えているではないか。
弁当パックで出すのは味気なくて、皆さんに申し訳ないと思われてしまうらしく
兄嫁さんはデザートの種類と、提供の回数を倍増なさったのだ。
少しでも楽をしようと思って取り組んだ
使い捨てのパック方式は逆効果となった。
暑い夏が来て、お寺の台所はエアコンも換気扇も無い灼熱が始まった。
私は何とかして身体を守る秘策を考える。
そしてひらめいた。
炭焼きだ。
お寺の境内、つまり屋外で料理を作っちゃるもんね!
焼くだけだから簡単だし、外なら多少は涼しいはず。
炭焼きといえば焼肉だけど、ユリ寺ではNG。
表向きは一応、匂いの問題ということになっている。
でも本当は違う。
予算の問題。
安く上げるために我々を使って料理をさせているのに
高い牛肉なんか、ガンガン買われちゃ困るのよ。
いいもんね。
息子たちが釣ってきた魚、焼いちゃるけん。
もうね、何でもええのよ。
熱中症で死にたくない一心。
そんな横着の権化と化した私とは違って、マミちゃんはケナゲだ。
「焼いたり揚げたりは私がやるから、任せて!」
と言う。
ああ、なんていい人だ。
さて当日の料理番は、マミちゃんと私の2人。
モンちゃんは仕事なので欠席だ。
我々も入れて合計8人のランチを作るべく、料理は開始された。
台所で真の料理に取り組むマミちゃんを残し、私は足取りも軽く庭へ出る。
炭をおこして、ひたすら焼くだけ。
あ、炭焼きの網は、焼く前にレモンの汁を塗っておくと
焦げつきにくくなる。
半分に切ったレモンを網全体にこすりつけるだけ。
まず、長男の釣った天然鯛5匹。
塩まぶして、焼け焼け〜い!
次男の釣った天然鮎40匹。
塩まぶして、どんどん焼け焼け〜い!
焼けたばい。
つーか、燃えたばい。
だけど今日は、鯛も鮎も前座に過ぎない。
真打ちは、息子たちが協力して獲った天然ウナギだ。
これは、ユリちゃん夫婦が尊敬してやまない芸術家の兄貴がご所望のメニュー。
天然のウナギが食べたいな、という兄貴の会話を聞いたユリちゃんが
私に水を向け、私が息子たちに頼んだものである。
釣った端から丸ごと冷凍していき
当日までに大きいのが一匹、中くらいが一匹
あとは「逃がしてやれよ」級の、ごく小さいのが二匹確保できた。
8人分のうな丼には少ないので、私は食べないことにする。
同じ食べるなら、たっぷり食べてもらいたいじゃない。
ウナギはあんまり好きじゃないので、かまわない。
偏食家のユリちゃんも、養殖はいいけど天然は無理ということでパス。
これで皆に行き渡るだろう。
ウナギはさばいて持って行き、串刺しにする。
百均で買ったシリコンのハケで両面に酒を塗り、まず素焼きだ。
ウナギを炭で焼くのは初めて。
貴重なウナギを台無しにしはすまいかと、兄貴が張り付いて見守る前で
緊張しながら焼く。
そんなに心配なら、あんたが焼いてちょうだいよ。
素焼きのウナギに、今度は市販のタレを塗る。
焼いては塗り、焼いては塗りを数回繰り返し、軽く焦げ目がついたら終了。
なかなかうまくできたような気がする。
5センチほどの長さに切って、カットした海苔をまぶしたご飯に乗せ
上からさらにタレをかけて、うな丼だい。
焼くのに忙しくて途中の写真が撮れなかったばかりか
うな丼のできあがりも撮りそびれ、急いで隣の人の食べかけを撮影させてもらった。
申し訳ない。
私が作った…いや、焼いた物は以上。
そうそう、唯一、煮炊きしたものがある。
ウナギの肝吸い。
数が少ないので、男性陣4人に提供した。
で、外は涼しいと思っていたら、大間違いだとわかった。
火のそばは、熱かった。
あとはマミちゃんの作品だ。
「もらったトマト、もらった玉ねぎ、もらったキュウリ、もらったナスを使う」
そう宣言していた通り、トマト、玉ねぎ、キュウリ、ナスで
おしゃれな料理を作っていた。
『フランケン・トマト(みりこん命名)』
普通サイズのトマトをくり抜き、中に溶けるチーズを詰め
外側に豚バラ肉のスライスを包帯のようにグルグル巻いて
ひたすら全面を焼く。
上にかけるソースはコンソメとポン酢と水を合わせ、トマトの角切りを入れて
ひと煮立ちさせたら、フランケンにかける。
これがソースをかける前のフランケンの姿。
ここにソースをかけてバジルを飾り、黒胡椒をかけて終了…らしい。
私は庭で焼きまくっていたため、製作の現場を見ていないのだ。
トマトの甘みが出て、すごく美味しかった。
『トマトジュレ』
緩めのコンソメゼリーが固まったら粗めに崩し
切った生のトマトを乗せて軽く混ぜて終了…らしい。
さっぱりして、おしゃれな一品だ。
暑いのでジュレのゼラチンが溶け
やがてトマトの浮かぶ冷製コンソメスープになっていった。
トマト料理はまだ続く。
撮影し忘れたが、プチトマトとキュウリの塩昆布和え。
あと、撮影はおろか、どんなものだったかも忘れたが
トマトの入ったサラダもあったように思う。
朝、マミちゃんは不安げに言った。
「トマトの料理が多いんだけど、嫌いな人がいたらどうしよう…」
私は断言した。
「そんな人、おらんよ。
おったとしても、他の料理もあるんじゃけん
黙ってそっちを食べりゃええが。
みんなの好き嫌いをいちいち気にしょうたら、やっとられんわ。
少なくとも私はトマト大好きじゃけん、マミちゃんの料理が楽しみなんよ」
「みりこんちゃんが好きだったら、いいか〜!」
マミちゃんはホッとした顔で言ったものだ。
が、フタを開けてみると、トマト嫌いはいた。
《続く》
お寺では、毎月5日がお勤めの日。
この日は檀家さんが来ない。
近頃はこの日に合わせ、最低でも月に一回のご奉仕が慣例になった。
お勤めが終わると、ユリちゃんの身内やブレーンが境内の整備作業を行う。
そして昼食は、我々同級生の作った料理ということになっている。
ユリちゃん一族とお友達のために、我々はせっせと料理を作るのだ。
人数が少ないので楽ちん、というわけではない。
口さがなくて気の張る檀家さんが来て人数が増え、お昼の支度が大変だから…
そんな理由で始まった料理のはずだった。
それが今は、気の置けない身内と仲良しだからこそ
珍しくて豪華な料理を要求されているような気がする。
釈然としないのは確かだ。
釈然としないなら、手抜きに限る。
私はこのところ、そればっかり考えている。
だからここ何回か、せめて洗い物を減らそうと躍起になって
プラスチックの弁当パックや発泡スチロールの寿司桶なんかを使った。
しかし肝心の洗い物は、あんまり減ってないような…。
それもそのはず、よく考えたらユリちゃんの兄嫁さんお手製の
焼き菓子やゼリーの類いが増えている。
同時に、それらに合わせて飲むコーヒーカップを始め
ジュースやお茶のコップも増えているではないか。
弁当パックで出すのは味気なくて、皆さんに申し訳ないと思われてしまうらしく
兄嫁さんはデザートの種類と、提供の回数を倍増なさったのだ。
少しでも楽をしようと思って取り組んだ
使い捨てのパック方式は逆効果となった。
暑い夏が来て、お寺の台所はエアコンも換気扇も無い灼熱が始まった。
私は何とかして身体を守る秘策を考える。
そしてひらめいた。
炭焼きだ。
お寺の境内、つまり屋外で料理を作っちゃるもんね!
焼くだけだから簡単だし、外なら多少は涼しいはず。
炭焼きといえば焼肉だけど、ユリ寺ではNG。
表向きは一応、匂いの問題ということになっている。
でも本当は違う。
予算の問題。
安く上げるために我々を使って料理をさせているのに
高い牛肉なんか、ガンガン買われちゃ困るのよ。
いいもんね。
息子たちが釣ってきた魚、焼いちゃるけん。
もうね、何でもええのよ。
熱中症で死にたくない一心。
そんな横着の権化と化した私とは違って、マミちゃんはケナゲだ。
「焼いたり揚げたりは私がやるから、任せて!」
と言う。
ああ、なんていい人だ。
さて当日の料理番は、マミちゃんと私の2人。
モンちゃんは仕事なので欠席だ。
我々も入れて合計8人のランチを作るべく、料理は開始された。
台所で真の料理に取り組むマミちゃんを残し、私は足取りも軽く庭へ出る。
炭をおこして、ひたすら焼くだけ。
あ、炭焼きの網は、焼く前にレモンの汁を塗っておくと
焦げつきにくくなる。
半分に切ったレモンを網全体にこすりつけるだけ。
まず、長男の釣った天然鯛5匹。
塩まぶして、焼け焼け〜い!
次男の釣った天然鮎40匹。
塩まぶして、どんどん焼け焼け〜い!
焼けたばい。
つーか、燃えたばい。
だけど今日は、鯛も鮎も前座に過ぎない。
真打ちは、息子たちが協力して獲った天然ウナギだ。
これは、ユリちゃん夫婦が尊敬してやまない芸術家の兄貴がご所望のメニュー。
天然のウナギが食べたいな、という兄貴の会話を聞いたユリちゃんが
私に水を向け、私が息子たちに頼んだものである。
釣った端から丸ごと冷凍していき
当日までに大きいのが一匹、中くらいが一匹
あとは「逃がしてやれよ」級の、ごく小さいのが二匹確保できた。
8人分のうな丼には少ないので、私は食べないことにする。
同じ食べるなら、たっぷり食べてもらいたいじゃない。
ウナギはあんまり好きじゃないので、かまわない。
偏食家のユリちゃんも、養殖はいいけど天然は無理ということでパス。
これで皆に行き渡るだろう。
ウナギはさばいて持って行き、串刺しにする。
百均で買ったシリコンのハケで両面に酒を塗り、まず素焼きだ。
ウナギを炭で焼くのは初めて。
貴重なウナギを台無しにしはすまいかと、兄貴が張り付いて見守る前で
緊張しながら焼く。
そんなに心配なら、あんたが焼いてちょうだいよ。
素焼きのウナギに、今度は市販のタレを塗る。
焼いては塗り、焼いては塗りを数回繰り返し、軽く焦げ目がついたら終了。
なかなかうまくできたような気がする。
5センチほどの長さに切って、カットした海苔をまぶしたご飯に乗せ
上からさらにタレをかけて、うな丼だい。
焼くのに忙しくて途中の写真が撮れなかったばかりか
うな丼のできあがりも撮りそびれ、急いで隣の人の食べかけを撮影させてもらった。
申し訳ない。
私が作った…いや、焼いた物は以上。
そうそう、唯一、煮炊きしたものがある。
ウナギの肝吸い。
数が少ないので、男性陣4人に提供した。
で、外は涼しいと思っていたら、大間違いだとわかった。
火のそばは、熱かった。
あとはマミちゃんの作品だ。
「もらったトマト、もらった玉ねぎ、もらったキュウリ、もらったナスを使う」
そう宣言していた通り、トマト、玉ねぎ、キュウリ、ナスで
おしゃれな料理を作っていた。
『フランケン・トマト(みりこん命名)』
普通サイズのトマトをくり抜き、中に溶けるチーズを詰め
外側に豚バラ肉のスライスを包帯のようにグルグル巻いて
ひたすら全面を焼く。
上にかけるソースはコンソメとポン酢と水を合わせ、トマトの角切りを入れて
ひと煮立ちさせたら、フランケンにかける。
これがソースをかける前のフランケンの姿。
ここにソースをかけてバジルを飾り、黒胡椒をかけて終了…らしい。
私は庭で焼きまくっていたため、製作の現場を見ていないのだ。
トマトの甘みが出て、すごく美味しかった。
『トマトジュレ』
緩めのコンソメゼリーが固まったら粗めに崩し
切った生のトマトを乗せて軽く混ぜて終了…らしい。
さっぱりして、おしゃれな一品だ。
暑いのでジュレのゼラチンが溶け
やがてトマトの浮かぶ冷製コンソメスープになっていった。
トマト料理はまだ続く。
撮影し忘れたが、プチトマトとキュウリの塩昆布和え。
あと、撮影はおろか、どんなものだったかも忘れたが
トマトの入ったサラダもあったように思う。
朝、マミちゃんは不安げに言った。
「トマトの料理が多いんだけど、嫌いな人がいたらどうしよう…」
私は断言した。
「そんな人、おらんよ。
おったとしても、他の料理もあるんじゃけん
黙ってそっちを食べりゃええが。
みんなの好き嫌いをいちいち気にしょうたら、やっとられんわ。
少なくとも私はトマト大好きじゃけん、マミちゃんの料理が楽しみなんよ」
「みりこんちゃんが好きだったら、いいか〜!」
マミちゃんはホッとした顔で言ったものだ。
が、フタを開けてみると、トマト嫌いはいた。
《続く》