夫が崇拝するのはとにかく女子だが、次男の場合は年かさの男性が多かった。
浮気三昧で家庭をかえりみない父親の代用品を求めている…
そんな見方があるかもしれないが、長男にはその兆候が見当たらないので
単に父親譲りの性分と考えている。
新興宗教に傾倒する人もそうだが
精神的な支えが複数、必要な性分の人間はいるものだ。
これは夫を通り過ぎていった女性の人数が増えていくにつれて
だんだん感じるようになり
やがて二桁に到達した頃、確信した。
ともあれ家庭があって、崇拝の対象が異性の場合は問題が生じる。
しかし独身で同性を崇拝する場合、これといった問題は起きない。
慕って崇拝しているうちに、いろんなことを吸収すればいいのだ。
ただしそれは、崇拝する相手がマトモだった場合に限定される。
ロクでもないのに引っかかったら、おしまいだ。
次男は今まで、仕事や趣味で知り合ったおじさん達に対して
崇拝の遍歴を繰り返してきた。
仕事の都合で疎遠になったり、趣味が変わったりで縁の切れた人もいるが
大半は善良な人たちで、現在も行き来している。
その安全ぶりは、次男に人を見る目があったからではない。
彼が、わりと早期に体験した出来事に由来するものである。
今から10数年前、次男が20代前半の頃だ。
どこで知り合ったのか、町内の個人事業主Aさんを慕い始め
仕事のかたわら、その人の仕事まで手伝うようになった。
言動がみるみるチンピラ風になって、これはいけないと思ったが
親の言うことを聞かないのはどこの子も同じ。
深入りしないようにと釘を刺したところ、ますますのめり込んでしまった。
当時のAさんは、50才。
我々夫婦より、少し年上だ。
数年前、この町にやって来て中古の家を買い
一人で水道工事の会社を始めた…
40代の奥さんとは再婚で、二人の間には高校生の娘が一人いる…
次男から断片的に仕入れたAさんのプロフィールは、これだけ。
会ったことは無かった。
我々夫婦はそれぞれに、見知らぬAさんを怪しんでいた。
無給で自分の仕事を手伝わせるために親分を気取り
次男を舎弟のように扱っている…
そう感じる私は、心穏やかではなかった。
若いうちは利用されてバカを見る経験も必要だろうが
ちょっと度が過ぎているような気がした。
次男が断片的に口走る、Aさんの語録も気になっていた。
「今は一人でやっているが、事業を拡大する計画があるので
いずれ、この業界で天下を取る」
「そうなったらヨシキを娘婿に迎えて、そのうち会社を任せたい」
次男はそれを信じているわけではなく、娘婿の話も嬉しくないが
天下取りの意欲だけは、軽めに肯定している模様。
私にはこれが、大いに気にくわない。
夢物語とはいえ、他人の息子の将来を勝手に決めていらんわい。
しかも「いずれ」、「そのうち」ときた。
安易に「いずれ」や「そのうち」を使う御仁は、嘘つきと決まっている。
義父母から、この二つの言葉でさんざん騙されてきた私は
嘘つきが吐く「いずれ」や「そのうち」が絶対に来ないことを
すでに知っていた。
親が言うのもナンだが、フットワークが軽くて働き者の次男は
使い勝手の良い若者だ。
奥さんと女の子しかいないAさんにとって
次男が便利なアイテムだというのはわかる。
しかし夜になって呼び出されたり、時に泊まったりすると親としては心配だ。
若い娘さんもいることだし、もしも何かあって恨みを買い
未成年をどうしたこうしたの罪に問われでもしたら
目も当てられないじゃないか。
このようなメンタル面において、私はAさんを警戒したが
一方の夫は物理的な理由から、Aさんに疑惑を持っていた。
夫の主張は、こうだ。
「水道工事の会社を名乗って、うちと取引が無いのはおかしい」
そうなのだ。
夫の会社は当時、まだ義父の会社だったが
その営業形態は他の同業者と異なっていた。
大手取引先への大量販売だけでなく、市内の水道工事や建築工事の会社にも
少量の小口販売を行っていたのである。
他の同業者は、小口販売をしない。
在庫が無い場合、わざわざ仕入れなければならないからである。
売る側のこっちは、ドカンと大量に仕入れるしか無いので損が多いのだ。
しかし義父は、たとえ損をしてでも
町の小さな業者のために商品を仕入れていた。
義父の会社だけでもそうしなければ、小さい所は困るからだ。
義父はそれを地域貢献と考えていた。
そういうわけで、市内の水道工事関係者はおしなべて
義父の会社の商品を買う。
つまり夫の知らない水道工事の会社は、この近辺に存在しない。
それなのにAさんは水道工事の事業主を名乗っているし
次男がお手伝いしているのも水回りのようだ。
となるとAさんの仕事は、地下を掘って配管を繋ぐという
夫の認識する水道工事ではなく、家庭用上水道の修理ではないのか。
修理を工事と拡大して自称するのは厳密に言えば詐称であり
このような詐称をする人物はたまにいるが
マトモな人間は皆無というのが夫の意見だった。
次男が、そのような胡散臭い人物と交流を深めるのは良くない…
我々夫婦の意見は一致した。
かといって大きな子を家の柱に縛りつけて
行かせないようにするわけにもいかず、さしあたっては様子を見るしかない。
我々がいい顔をしないため、次男はますますAさんに傾倒していった。
《続く》
浮気三昧で家庭をかえりみない父親の代用品を求めている…
そんな見方があるかもしれないが、長男にはその兆候が見当たらないので
単に父親譲りの性分と考えている。
新興宗教に傾倒する人もそうだが
精神的な支えが複数、必要な性分の人間はいるものだ。
これは夫を通り過ぎていった女性の人数が増えていくにつれて
だんだん感じるようになり
やがて二桁に到達した頃、確信した。
ともあれ家庭があって、崇拝の対象が異性の場合は問題が生じる。
しかし独身で同性を崇拝する場合、これといった問題は起きない。
慕って崇拝しているうちに、いろんなことを吸収すればいいのだ。
ただしそれは、崇拝する相手がマトモだった場合に限定される。
ロクでもないのに引っかかったら、おしまいだ。
次男は今まで、仕事や趣味で知り合ったおじさん達に対して
崇拝の遍歴を繰り返してきた。
仕事の都合で疎遠になったり、趣味が変わったりで縁の切れた人もいるが
大半は善良な人たちで、現在も行き来している。
その安全ぶりは、次男に人を見る目があったからではない。
彼が、わりと早期に体験した出来事に由来するものである。
今から10数年前、次男が20代前半の頃だ。
どこで知り合ったのか、町内の個人事業主Aさんを慕い始め
仕事のかたわら、その人の仕事まで手伝うようになった。
言動がみるみるチンピラ風になって、これはいけないと思ったが
親の言うことを聞かないのはどこの子も同じ。
深入りしないようにと釘を刺したところ、ますますのめり込んでしまった。
当時のAさんは、50才。
我々夫婦より、少し年上だ。
数年前、この町にやって来て中古の家を買い
一人で水道工事の会社を始めた…
40代の奥さんとは再婚で、二人の間には高校生の娘が一人いる…
次男から断片的に仕入れたAさんのプロフィールは、これだけ。
会ったことは無かった。
我々夫婦はそれぞれに、見知らぬAさんを怪しんでいた。
無給で自分の仕事を手伝わせるために親分を気取り
次男を舎弟のように扱っている…
そう感じる私は、心穏やかではなかった。
若いうちは利用されてバカを見る経験も必要だろうが
ちょっと度が過ぎているような気がした。
次男が断片的に口走る、Aさんの語録も気になっていた。
「今は一人でやっているが、事業を拡大する計画があるので
いずれ、この業界で天下を取る」
「そうなったらヨシキを娘婿に迎えて、そのうち会社を任せたい」
次男はそれを信じているわけではなく、娘婿の話も嬉しくないが
天下取りの意欲だけは、軽めに肯定している模様。
私にはこれが、大いに気にくわない。
夢物語とはいえ、他人の息子の将来を勝手に決めていらんわい。
しかも「いずれ」、「そのうち」ときた。
安易に「いずれ」や「そのうち」を使う御仁は、嘘つきと決まっている。
義父母から、この二つの言葉でさんざん騙されてきた私は
嘘つきが吐く「いずれ」や「そのうち」が絶対に来ないことを
すでに知っていた。
親が言うのもナンだが、フットワークが軽くて働き者の次男は
使い勝手の良い若者だ。
奥さんと女の子しかいないAさんにとって
次男が便利なアイテムだというのはわかる。
しかし夜になって呼び出されたり、時に泊まったりすると親としては心配だ。
若い娘さんもいることだし、もしも何かあって恨みを買い
未成年をどうしたこうしたの罪に問われでもしたら
目も当てられないじゃないか。
このようなメンタル面において、私はAさんを警戒したが
一方の夫は物理的な理由から、Aさんに疑惑を持っていた。
夫の主張は、こうだ。
「水道工事の会社を名乗って、うちと取引が無いのはおかしい」
そうなのだ。
夫の会社は当時、まだ義父の会社だったが
その営業形態は他の同業者と異なっていた。
大手取引先への大量販売だけでなく、市内の水道工事や建築工事の会社にも
少量の小口販売を行っていたのである。
他の同業者は、小口販売をしない。
在庫が無い場合、わざわざ仕入れなければならないからである。
売る側のこっちは、ドカンと大量に仕入れるしか無いので損が多いのだ。
しかし義父は、たとえ損をしてでも
町の小さな業者のために商品を仕入れていた。
義父の会社だけでもそうしなければ、小さい所は困るからだ。
義父はそれを地域貢献と考えていた。
そういうわけで、市内の水道工事関係者はおしなべて
義父の会社の商品を買う。
つまり夫の知らない水道工事の会社は、この近辺に存在しない。
それなのにAさんは水道工事の事業主を名乗っているし
次男がお手伝いしているのも水回りのようだ。
となるとAさんの仕事は、地下を掘って配管を繋ぐという
夫の認識する水道工事ではなく、家庭用上水道の修理ではないのか。
修理を工事と拡大して自称するのは厳密に言えば詐称であり
このような詐称をする人物はたまにいるが
マトモな人間は皆無というのが夫の意見だった。
次男が、そのような胡散臭い人物と交流を深めるのは良くない…
我々夫婦の意見は一致した。
かといって大きな子を家の柱に縛りつけて
行かせないようにするわけにもいかず、さしあたっては様子を見るしかない。
我々がいい顔をしないため、次男はますますAさんに傾倒していった。
《続く》