殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

目から相撲・4

2021年07月08日 10時57分46秒 | みりこんぐらし
雨が大変なことになっていますが、皆様は大丈夫でしょうか?

私のほうは家の前を流れる川がスリリングですが

3年前の西日本豪雨の時ほどではないようです。

県内各地もまだ、目立つ被害は出ていませんが

油断はできない状況だと思います。

ご心配いただいたモモさん、ありがとうございます。

皆様もどうか、気をつけてくださいね。





さて帰宅して、夕飯の支度をしていると電話が鳴った。

義母からだ。

当時、我々一家は義父母とは別に生活していた。


「ちょっと、さっきAさんが電話してきたよ。

あんたのことで、怒ってるみたい。

いったい何をしたん?」

何もしてない。

むしろ挨拶や贈り物など、向こうが望むことをしなさ過ぎだ。

うちでなく、先に夫の実家へ電話したことから

やはりAさんは次男を足掛かりに仕事の発展を狙っていて

いよいよ勝負に出たと思われた。


「とにかく、ヨシキの携帯に電話してみて」

義母に言われて、かけてみる。

次男が出て、社長に代わると言った。


「もしもし、Aですが!」

初めて聞くAさんの声は、野太くてガラガラしている。

しゃべり方は横柄。


「いつも息子がお世話に…」

みなまで言わぬうちに、Aさんはいっそう大きな声で言った。

「あんたなぁ、それでも母親か!」

「は?」

「さっき、ヨシキと会うたやろ。

ヨシキがうちへ来て、母さんが手を振ってくれんかったいうて

ショボンとしとるんや。

俺はヨシキがかわいそうになって、お祖母さんとこへ電話したんや」

関西弁なのか、四国弁なのか、Aさんはまくしたてる。


とにかく、先ほど次男と交差点で会った際についてのクレームだというのは

わかった。

次男は私が手を振らなかったことを気にしているらしい。

Aさんと我々親との板挟みになって数ヶ月

両方で気を使い過ぎたためか、彼のハートはガラス状に変化したようだ。

私がなぜ手を振らなかったのかを疑問に思いながらAさんの家に向かい

慕わしいAさんの顔を見た途端、甘えが出たのだろう。

バカじゃあるまいか…

そう思われるかもしれないが、若い男の子の中には成人した、しないに関係なく

大人と子供の間を揺れながら成長していく子がいるものだ。


「あんた、母親やのに何とも思わんのか!」

Aさんは興奮して、なおも叫ぶ。

彼は今、かわいそうな子供を守る自分に酔い

敵をやっつける使命感に燃えているらしかった。

穏やかに話すことができない人らしい。


何でも自分だけの物差しで測って、早々に善悪を決めつける。

その善は必ず自分で、相手は必ず悪。

善は悪をヒステリックにののしっていい。

どうしてこうなるかというと、本当は人の話を聞き取る能力が無いからである。

それを隠すために最初から強気に出て相手をビビらせ、一発目でケリをつけようとする。

つまり義父と同じ人種だ。

攻略法は知っている。

向こうがヘトヘトになるまで、怒鳴らせるのだ。


ともあれ、母親であるにも関わらず何とも思わないのかという質問を受けたので

一応は答えなければならない。

「はい」

そう返事をしたら、Aさんはますます怒り狂う。

「あんた、鬼か!

子供が傷ついて悲しみよんぞ!よくも平気でおられるもんや!

それでも母親か!」

「はい」

「な〜に〜?!そっち行ったろうか!ワリャ〜!」

いいぞ、もっと怒れ。

彼の横で耳をそばだてる次男よ、聞くがいい。

お前の崇拝するおっさんは、ヤクザまがいの言葉で女性を威嚇する恥ずかしい男だ。

非紳士だ。

君はこれでも崇拝できるか。

彼のようになりたいか。

次男よ、お前ならわかるはずだ。


「どうぞ、いつでもお越しください。

ですが、ご足労いただく前に、この電話でご説明できると思いますよ」

「何じゃと〜?コラ〜!

言いたいことがあるんなら言うてみやがれ!ワリャ〜!」

「じゃ、お話しします。

さっき私が手を振らなかったのは、交差点だったからです。

夕方ですから車が混雑しておりましたし、ヨシキはバイクです。

私が親子の情に流されて、うっかり手を振りますと、ヨシキも手を振り返すはずです。

ヨシキが手を振り返しますと、一瞬でも片手運転になります。

この子は過去に何回か、バイクで事故に遭っていますから

危険防止のために、私は母親として正しい判断をしたと思っています」

「……」

「ご納得いただけましたでしょうか」

「…はい…」

「ヨシキの気持ちを思いやってくださって、ありがとうございます。

それでは失礼いたします」


その夜、次男は遅くに帰って来た。

そして二度とAさんの所へ行くことはなかった。

出入り禁止になったのか、次男に何らかの気づきがあったのか、理由は知らない。


そして数年が経過したある日。

新聞にAさんが載っていた。

見出しは、“窃盗の常習犯逮捕”。

水道の修理であちこちの家に行っては、金品を盗んでいたという。

縁が切れていて、良かったと思った。



とまあ、こんなことがあったので、次男は幾分慎重になった。

そして今回、接骨院の先生との出会いがあった。

安心して見ていられる…何というありがたさじゃ。

「コロナが落ち着いたら、お母さんも一緒に大相撲の観戦に行きましょう」

先生は次男に伝言してくれる。

だけど私は微妙な気持ちよ。

最後に会ってから何十年、老いさらばえた姿でお目にかかる勇気が無いんじゃ。

さしあたって、やるのはダイエットか。

《完》
コメント (4)
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