殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

リベンジ・ツアー・3

2020年02月08日 21時52分44秒 | みりこんぐらし
会長のモトジメ、副会長のタカヒロ、それにエイジ‥


犯行は、酒好きの3人を中心に行われた‥


これを前提に推理すると、水のすり替えの謎も解ける。



酒の大部分を仕事場に残したタカヒロは


お茶2ケースをそのままバスまで運ぶことにしたが


水のケースまで運ぶのが面倒になった。


そこで自前の水を1本、持って来たのだ。


盗っ人の情けではない。


全くのゼロだと騒ぎになり、犯行が発覚しやすいという


姑息な判断からである。



名探偵は、事件が起きてから初めて関係者に会い


その人間性を瞬時につかむ。


だから「名」がつく。


しかし今回の犯人は、子供の頃から知り合いだ。


同窓会が発足して30年、頻繁に接触を続けているが


不況のせいか、はたまた酒のせいなのか


中年期以降、腐敗の一途を辿る様子をつぶさに観察してきた。


だから今までの友情や、世話になった恩というバリアを外せば


名探偵でなくても、彼らのやらかしそうなことは簡単にわかる。



特に数年前、離婚したエイジが単身で故郷へ帰って来て


活動に参加するようになってから


腐敗が加速し、お下劣度が増した。


皆の兄貴分、セレブのユータローは彼らと距離を置くようになり


癌で大酒が飲めなくなったヤスミチと


難病で断酒したツヨシもそれに続いた。


地元男子は二つに分裂し、腐る者は順調に腐り続けて


現在に至っている。



腐り組の悪事は、酒の横領だけではなかった。


一昨年の末、皆の菩薩的存在だったみ〜ちゃんが


亡くなったことは記事にした。


亡くなる前、彼女が同窓会に宛てて


5万円の寄付を残したこともお話しした。


「還暦旅行で使ってくださいとのことでした」


み〜ちゃんのご主人はそう言って


新札の入った封筒をモトジメに託した。


この5万円が今、どうなったかわからないのだ。



当時、モトジメはその封筒を会計の私に預け


「ありがたく使わせてもらおうや。


このことは還暦旅行で皆に発表する」


そう言った。


その時、モトジメはこうも言った。


「通帳には入金しないように。


会計報告に載せたら、うるさいことを言ってくるヤツが出る」



私は職務上、いったん通帳へ入金した方がいいと言ったが


モトジメは頑として聞かなかった。


これには、過去の出来事が関与している。


十何年前だったか、遠方在住の会員から


会計報告書に記載された年会費の使い方について


細かい質問状が届いたことがあった。


町内会などの集団にも時々いるが


仕事で事務を少々をかじったことがあり


今は落ちぶれて不本意な暮らしをしているが


昔が忘れられず、頭の方もちょっくら怪しくなってきて


ことごとくに執拗なクレームをつける人。



その人物は数年に渡って同窓会の三役を苦しめていたが


やがて年会費を滞納するようになった。


さらに数年後、その親が亡くなった時には


同窓会が香典を出し、通夜葬儀を手伝い


モトジメたちは棺桶を担いだものだ。


親が亡くなると、同窓会に用は無いと言い


年会費を滞納したまま、その人物は退会した。



当時の苦い経験から、モトジメ以下男子一同は神経質になっていた。


「旅行に参加しない者の恩恵は無いのか」


そう突っ込まれる可能性を考慮すると


気持ちはわからないでもない。



いずれにしても、会長の決定は絶対である。


同窓会活動は、時々集まって飲み食いするだけではない。


地元の祭やイベントの手伝いなど、多岐に渡る。


我々女子がいくら息巻いたところで、彼の代わりはできない。


半裸で神社の神輿を担いだり、カラオケの舞台を設営したり


町の長老たちと酒盛りをするのは無理というものだ。


最終的に私が折れ、通帳への入金はしないことになった。



私は旅行にみ〜ちゃんの5万円を持参し


モトジメが皆に発表するのを待った。


「まだ?」「いつ?」「今、言えば?」


再三に渡って彼をせかしながら、待った。


しかしモトジメは生返事をするばかり。


「今、せっかく盛り上がっているのに、シュンとする話題は‥」


「女子が泣くと雰囲気が‥」



業を煮やした私は


「あんたが言わないなら、私が言う!」


と立ち上がった。


するとモトジメは、必死の形相で止めるではないか。


「待ってくれ!タカヒロの気持ちも考えてやれ!」



タカヒロは2年前、同居していた愛娘を癌で亡くし


翌年、娘婿は幼い子供たちを連れて、遠い郷里へ帰った。


タカヒロは明るく振る舞っているが


その痛手から、まだ立ち直っていないそうで


ここで皆がしんみりしたら、タカヒロには耐えられないと


モトジメは言う。


「それとこれとは別じゃ!」


私は声を荒げる。



モトジメはひたすら親友のタカヒロに気を遣うが


当のタカヒロは今、カメラに凝っていて


カメラマンを引き受け、自慢のカメラで得意げに


パシャパシャやっている。


これのどこが、耐えられないというのだ。


「耐えられんかどうか、やってみたらええが」


と言ったら


「鬼か!」


と怒るモトジメだった。



確かに逆縁は辛い。


目に入れても痛くない孫まで去ってしまった


タカヒロの胸中は察するに余りある。


しかし、見た目も心もジャイアンみたいなタカヒロを


可憐な乙女のように特別扱いするのは間違っていると


腹を立てる私だった。



旅行中、み〜ちゃんの5万円のことは、とうとう発表されなかった。


当然、そのお金を使うこともなかった。


旅行が終わるとモトジメが


「必ず後できちんとする」と約束したので


何か考えがあるのだろうと思い、お金は彼に渡すことにした。


私が預かったままだと思われるのは嫌なので


証人として副会長のタカヒロと


会計監査のマミちゃんに立ち会ってもらった。



それっきりだ。


モトジメやタカヒロに、あれから何度も


どうなっているか聞いたが、のらりくらりと生返事。


5人会が怒り狂うだろうから誰にも言ってないが


私はあのお金、タカヒロのカメラになったと踏んでいる。


旅行でみんなのために使ったという


腐ったオジさん特有の言い訳になるからだ。


私の周りには腐ったオジさんがたくさんいるので


思考回路がわかる。



じゃ、怒りも情けなさも吹っ飛ばすつもりで


リベンジ・ツアー、行ってきま〜す!


《完》
コメント (4)
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