殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

ワケあり・ワケなし

2010年07月21日 10時42分18秒 | みりこんぐらし
その夜、夫と私は、コンビニへ行った。

風呂上がりでノーブラ、ノーメイクの私は、車で待つことにした。

私がどんな格好をしていようと、誰も知ったこっちゃなかろうが

人様にお見苦しいものをお目にかけ、ご迷惑をかけてはならぬ。

50女の風呂上がりの姿を人目にさらすなど、犯罪に等しい。


店に入ろうとする夫に、一人の中年女性が

ダダ…とすごい勢いで駆け寄った。

我々と入れ違いに、さっき車で帰りかけていた女性だ。


夫を追いかけるようにして、一生懸命何か話している。

夫は困ったような顔で、雑誌のコーナーまでジリジリと後ずさりし

女性はにじり寄る。

なかなかのミモノである。

コンビニって、ガラス張りじゃ~ん…丸見えなんざんすよ。


この光景をサイレントで見たら、彼の普段の行いもかんがみて

怪しむのが妥当であろう。

しかし、誰でも彼でも旦那とワケありのように考えてはいけない。

女房妬くほど、亭主モテもせず…選別は大事だ。


かく言う私も初心者の頃は、確かにやみくもに疑うところがあった。

「ああ、また嫌なことが始まるのでは…」

不安と恐怖にかられ、老婆だろうと幼児だろうと

夫に近付く女という女は、すべからく敵と思っていた時期がね。


しかし、数をこなすと、ワケありとワケなしを嗅ぎ分けられるようになる。

この“ワケあり”は、実際に夫とナンカあった人物の他に

今のところ未遂だが「あわよくば…」という意思を持つ、控え選手のことも指す。

この“あわよくば”は、うちの夫とぜひ!と指名しているわけではなく

チャンスがあったら不倫がしてみたいという

漠然とした思いのあるなしのことだ。

夫は野生のカンで、これを敏感にキャッチしているのではないかと思う。


ワケありの場合、わずかにうるんだ物欲しげな視線は、ゆるぎない共通点である。

腹にイチモツある女は、その対象を見つめる時、まばたきの回数が少ない。

そこまで近付いたことはないが、瞳孔も開いているんじゃないかと思う。

その他、感じやセンスのよしあしにかかわらず

外見のどこかに必ず「あれ?」と引っかかる部分がある。


髪型だけ青春とか、服だけ少女とか

全身バッチリ決めていても、車は汚れた古いボロとか

後生大事なブランドのバッグに、いたんだ靴とか

本人はピカピカでも、連れてる親や子供はズタズタとか

とにかく、本人が力を入れている部分と、そうでない部分の対比が

違和感となって、浮かび上がって見えるのだ。


この対比、年齢が高くなるに従って、落差が激しくなる。

こだわる部分には依然としてこだわり続けるものの

経済や性格上の都合により、あきらめたり、気がつかない部分を

若さというベールで、ごまかせなくなるからだ。

当人は、まだそのベールがあると思い込んでおり

はた目には、ベールをはいだ姿しか見えないところが痛々しい。

愛だの恋だの言ってるうちに、本人の心と実際の時間経過に

ズレが生じるとも言えよう。


あら探しや、被害妄想のなれの果てかもしれない…

亭主の野外活動に興味を失った今となっては、どうでもいいことだが

領土侵犯で、国境ぎわのイクサをさんざん繰り返すと

このようなゲームも楽しめる。

いいか…楽しまなくても。


さて、夫に駆け寄ったこの女性…目つきがカタギ。

本当に用事がある人の目だ。

行動はともかく、そのいでたちは、すんなりと風景に溶け込んでいる。

この“すんなり”しているか、いないかが、重要ポイント。

こういうタイプの人は、うちの夫なんて相手にしない。


女性はやがて店から出て、車でブーと帰って行った。

「やれやれ…」

買物をすませ、車に戻った夫は言う。

「オマエに会いたいんだとさ」

    「なんですと?」

ここで初めて聞く。

    「どちらさん?」


夫の話によると、同じ野球チームだった人のお姉様じゃげな。

「ぜひ奥様に会わせてくださいって。

 しつこく家を聞くから、お袋のとこを教えてやった。

 親と一緒と言えば、来にくいだろう」

    「車にいるって言えばいいじゃん」  

「たまたますれ違った顔見知りに、奧さんに会わせろなんて

 普通は言うもんか。

 絶対、変な宗教か、商売にハマッてるぞ。

 でないと、わざわざオマエに会いたいヤツなんか、いるもんか」

それもそうだ…と納得する。   


すっかり忘れて、数日が経過した昨日…

「やっぱりな!」

夫は得意満面で言う。

彼女の弟に会ったそうだ。


「エリートの旦那がリストラされて、マルチの化粧品を売ってるんだって。

 下について一緒に売る人間を探してるらしい。

 洗脳されてるから、迷惑かけたらゴメンだとさ」

オマエを子分にしようなんて、恐いもの知らずもええとこじゃ…

あの女、エラい目に遭うぞ…

夫は、怪談を語るような顔で言った。

私をマルチから守ってくれたのではなく

彼女を私から守ったような口調であった。
コメント (23)
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