組長の任期が終了した。
ここに1枚の回覧が残っている。
自治会を混乱させ、会長になり代わろうともくろんだSじじい…
彼が想像をはるかに越えたウルトラ級のわからんちんだと知り
近所に回覧板として回したものである。
最初は、言いなりになったら図に乗ると思い、総会はやらないと決めていた。
しかし、前年度の決算に異議を訴えている以上
このまま放置しておくのはマズい…という前任者の意見が出た。
そこで、バカを野放しにするより、ここらで1回叩いておく方針に変えた。
『総会のおしらせ…
8月某日、総会を開催いたします。
これは、5月に中止となりました総会を業務上引き継いだものであり
現在、一部住民から再三に渡って出されている執拗な要求に屈したものではないことを
ここに明記させていただきます。
現状をご理解いただき、安心して暮らせる町にするために
多数のご参加をお願い申し上げます。
なお、今後このような要求は
みりこん宅で一括対応することに決定いたしました。
ご意見のあるかたは、みりこん宅へお越しの上
わかりやすくご説明いただきますようお願い申し上げます』
総会は盛況であったが、Sじじいは欠席した。
回覧板が回って、出るに出られなくなったのであった。
敵前逃亡…の声、多数。
他の一味は参加して、作戦どおり決算報告書にケチをつける。
内容はどうでもいいのだ。
巻き舌でお下品に責められたら、誰でも「やりたくない」と思う。
そこで「ワシらがやってやる」と大いばりで引き継ぐ…いう方向へ
持ち込む手はずになっている。
そのために、彼らは総会を開く必要があった。
なぜそうまでして三役になりたいか…
我々には理解し難いところであるが、彼らにとっては権力の象徴らしいのだ。
そして最大の魅力は、親睦会と称して、自治会費で飲むタダ酒である。
3年前、たまたまこのメンバーで三役をやり、味をしめた。
最初こそ、皆に呼びかけがあったが
彼らと親睦をはかりたい人間はいないので、参加者は限られる。
集会所の大画面液晶テレビとエアコンも、いつの間にか黙って買っていた。
それらを不問にしたのは、彼らの次に役員をした者達の臆病もあったが
情けでもあった。
さて、総会で司会をする私は
彼らの言う「不審な点」がどうしても理解できない。
「損失補填(そんしつほてん)があるとおっしゃりたいんでしょうか?」
「そ…そうじゃ…損失補填じゃ…」
損失補填というフレーズがいたく気に入ったらしく
「損失補填、損失補填」と口々に繰り返す。
「あら?でもこの場合、損失補填とは違うかも」
「そうじゃ、そうじゃ…損失補填じゃない…」
「じゃあ、粉飾決算?」
「そ…それじゃ…粉飾決算じゃ」
もうここらへんになると、住民の間から忍び笑いが漏れてくる。
私も吹き出しそうなのをこらえ、真摯に取り組む姿勢をキープ。
「あ、違う、単なる二重計上かも」
「…二重計上、二重計上」
「そうじゃなくて、記載漏れ」
「記載漏れじゃ、記載漏れじゃ」
「でもちゃんと記載はありますね。
この記載のしかたが“一部住民”にはわかりにくかったということですね。
では今後、気を付けるということで、よろしければ拍手をお願いします」
多勢に無勢の抵抗は、むなしいものであった。
以来、やつらはずいぶんおとなしくなった。
もう1枚、去年の冬に回した回覧がある。
『お知らせ…
集会所に、おびただしい私物(酒・食品・寝具等)が放置してあります。
集会所は子供会も使用するため
私物による事故(飲酒・食中毒・ダニ等)が懸念されます。
お心当たりのあるかたは、すみやかに撤去をお願いいたします。
なお、個人的に作られた集会所のスペアキーは
すみやかに返却または処分していただきますよう
また、今後集会所を使用する際は、従来の取り決めどおり
事前に自治会に申し出て、使用許可を得ていただきますよう
重ねてお願い申し上げます』
これで、一味の生き甲斐…会費が流用できない今、自費で続く親睦会…は終わった。
もっともその頃には、一味はすでにバラバラであった。
こちらとしては、タイミングを見計らい、有終の美を飾ってやったつもりだ。
私は感情のままに、ヒステリックに言い合うのを好まない。
口で負けるとは思わないが、それでは相手と同類になってしまう。
それにこの種の人間もどきは、自分で怒りの処理が出来ないので
また誰か弱い立場の者にあたり、解決にならない。
よって段階的にジワジワと追い詰め、自滅を促すほうが、私の好みである。
さて、最近はどうか。
一味の一人、Sじじいを影で操っていた男は
ヒザに水が溜まって、かねてより通院中だった。
先月、弱った足で転倒し、頭を切る。
なかなかの重症である。
救急車で運ばれるところを窓から見た。
その光景は去年の春、彼らにいじめられて倒れた
あのじいちゃん会長を彷彿とさせた。
もう一人は、不治の病で未だ闘病中。
Sじじいの家では、年老いて出来た一人息子の家庭内暴力が始まった。
息子の機嫌が悪い時は、放心状態でフラフラ徘徊している。
目が濁って白くなり、視線も定まらない。
心も体も、かなり危ない状態だ。
静かになったらもの足りず、ひそかに彼らの回復を願う
慈悲深い!私であった。
新しい組長は、信仰に大変熱心なご夫婦のお宅にお願いした。
きちんとした服装で家々を訪問して布教活動をする、かの有名なあの宗教だ。
もしSじじい一味が復活しても、温かい人柄のご夫婦のこと…
神と精霊の御名(みな)において、優しく諭していただけるであろう。
暇が増えたので、今年度はバンド活動に本腰を入れたいものである。
ここに1枚の回覧が残っている。
自治会を混乱させ、会長になり代わろうともくろんだSじじい…
彼が想像をはるかに越えたウルトラ級のわからんちんだと知り
近所に回覧板として回したものである。
最初は、言いなりになったら図に乗ると思い、総会はやらないと決めていた。
しかし、前年度の決算に異議を訴えている以上
このまま放置しておくのはマズい…という前任者の意見が出た。
そこで、バカを野放しにするより、ここらで1回叩いておく方針に変えた。
『総会のおしらせ…
8月某日、総会を開催いたします。
これは、5月に中止となりました総会を業務上引き継いだものであり
現在、一部住民から再三に渡って出されている執拗な要求に屈したものではないことを
ここに明記させていただきます。
現状をご理解いただき、安心して暮らせる町にするために
多数のご参加をお願い申し上げます。
なお、今後このような要求は
みりこん宅で一括対応することに決定いたしました。
ご意見のあるかたは、みりこん宅へお越しの上
わかりやすくご説明いただきますようお願い申し上げます』
総会は盛況であったが、Sじじいは欠席した。
回覧板が回って、出るに出られなくなったのであった。
敵前逃亡…の声、多数。
他の一味は参加して、作戦どおり決算報告書にケチをつける。
内容はどうでもいいのだ。
巻き舌でお下品に責められたら、誰でも「やりたくない」と思う。
そこで「ワシらがやってやる」と大いばりで引き継ぐ…いう方向へ
持ち込む手はずになっている。
そのために、彼らは総会を開く必要があった。
なぜそうまでして三役になりたいか…
我々には理解し難いところであるが、彼らにとっては権力の象徴らしいのだ。
そして最大の魅力は、親睦会と称して、自治会費で飲むタダ酒である。
3年前、たまたまこのメンバーで三役をやり、味をしめた。
最初こそ、皆に呼びかけがあったが
彼らと親睦をはかりたい人間はいないので、参加者は限られる。
集会所の大画面液晶テレビとエアコンも、いつの間にか黙って買っていた。
それらを不問にしたのは、彼らの次に役員をした者達の臆病もあったが
情けでもあった。
さて、総会で司会をする私は
彼らの言う「不審な点」がどうしても理解できない。
「損失補填(そんしつほてん)があるとおっしゃりたいんでしょうか?」
「そ…そうじゃ…損失補填じゃ…」
損失補填というフレーズがいたく気に入ったらしく
「損失補填、損失補填」と口々に繰り返す。
「あら?でもこの場合、損失補填とは違うかも」
「そうじゃ、そうじゃ…損失補填じゃない…」
「じゃあ、粉飾決算?」
「そ…それじゃ…粉飾決算じゃ」
もうここらへんになると、住民の間から忍び笑いが漏れてくる。
私も吹き出しそうなのをこらえ、真摯に取り組む姿勢をキープ。
「あ、違う、単なる二重計上かも」
「…二重計上、二重計上」
「そうじゃなくて、記載漏れ」
「記載漏れじゃ、記載漏れじゃ」
「でもちゃんと記載はありますね。
この記載のしかたが“一部住民”にはわかりにくかったということですね。
では今後、気を付けるということで、よろしければ拍手をお願いします」
多勢に無勢の抵抗は、むなしいものであった。
以来、やつらはずいぶんおとなしくなった。
もう1枚、去年の冬に回した回覧がある。
『お知らせ…
集会所に、おびただしい私物(酒・食品・寝具等)が放置してあります。
集会所は子供会も使用するため
私物による事故(飲酒・食中毒・ダニ等)が懸念されます。
お心当たりのあるかたは、すみやかに撤去をお願いいたします。
なお、個人的に作られた集会所のスペアキーは
すみやかに返却または処分していただきますよう
また、今後集会所を使用する際は、従来の取り決めどおり
事前に自治会に申し出て、使用許可を得ていただきますよう
重ねてお願い申し上げます』
これで、一味の生き甲斐…会費が流用できない今、自費で続く親睦会…は終わった。
もっともその頃には、一味はすでにバラバラであった。
こちらとしては、タイミングを見計らい、有終の美を飾ってやったつもりだ。
私は感情のままに、ヒステリックに言い合うのを好まない。
口で負けるとは思わないが、それでは相手と同類になってしまう。
それにこの種の人間もどきは、自分で怒りの処理が出来ないので
また誰か弱い立場の者にあたり、解決にならない。
よって段階的にジワジワと追い詰め、自滅を促すほうが、私の好みである。
さて、最近はどうか。
一味の一人、Sじじいを影で操っていた男は
ヒザに水が溜まって、かねてより通院中だった。
先月、弱った足で転倒し、頭を切る。
なかなかの重症である。
救急車で運ばれるところを窓から見た。
その光景は去年の春、彼らにいじめられて倒れた
あのじいちゃん会長を彷彿とさせた。
もう一人は、不治の病で未だ闘病中。
Sじじいの家では、年老いて出来た一人息子の家庭内暴力が始まった。
息子の機嫌が悪い時は、放心状態でフラフラ徘徊している。
目が濁って白くなり、視線も定まらない。
心も体も、かなり危ない状態だ。
静かになったらもの足りず、ひそかに彼らの回復を願う
慈悲深い!私であった。
新しい組長は、信仰に大変熱心なご夫婦のお宅にお願いした。
きちんとした服装で家々を訪問して布教活動をする、かの有名なあの宗教だ。
もしSじじい一味が復活しても、温かい人柄のご夫婦のこと…
神と精霊の御名(みな)において、優しく諭していただけるであろう。
暇が増えたので、今年度はバンド活動に本腰を入れたいものである。