殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

アリキリ思考

2010年04月20日 11時39分49秒 | 前向き論
人は情報に操られる、いや、操られたがる生き物だと、つくづく思う。

職場にいた「アルアル婆ぁ」。

今は亡き情報番組“あるある大辞典”を見ては

「納豆は夜がいい」「白インゲンは痩せる」などと

ツバを飛ばしながら、自分が発見者であるかのように話していたものだ。


ああまで入れ込んでいたというのに

ヤラセで打ち切りになったら、今度は「ガッテン婆ぁ」にひらりと転身。

頼まれてもいないのに“ためしてガッテン”の私設広報員になりきる。

毎週、したり顔で聞かされる人間の身にもなってみろってんだ。


近頃は、食品の効能効果を誇示する番組が、単発でも増えた。

スーパーでは、紹介された品物が売り切れるという。

そういえば、いっときバナナやとろろ昆布が品薄だった…と思い出す。


在庫過剰や豊作の時に「この食品がいい!」と言ったら、よく売れるだろうなぁ…

株価まで変動することもあるのではなかろうか…

今週は豆、来週はキウイとかの順番制だろうか…

裏で贈り物をするんだろうか…

などと考えるのも、なかなか楽しいものである。


「負け犬」や「品格」なんて言葉も、ひところ流行った。

オシャレにバリバリ働く優秀な女性が、たまたま結婚していない状態を

“負け犬”でひとくくりにされてはたまらない。


犬どころか、家で座敷ブタと化し

土俵にすら立っていない私ですら「あんまりだ」と思ったくらいなので

該当者とされた者の気持ちは、いかばかりだろう。

本を読みかじり、聞きかじった者が

やっかみ半分で必要以上にそれを言うからいけないのだ。

残酷なことである。


「品格」…言っちゃナンだけど、そこまで大変な思いをしなくても

美しくしておけば、あんな苦労はしなくていいのに…と思う。


そりゃ、ある程度の常識や能力は必要だろうけれども

「外見は今ひとつですが、頭と心はすごくいいんです…」と百ぺん叫ぶより

見た目を早くにどうにかしておけば、人は自然に心を開き

頭も心も見てくれる。

見たいから、見てくれるのだ。

見たくないものを無理矢理見させるのは、大変なんだ。


持って生まれたものは関係ない。

仕事、プライベートにかかわらず、今日会うすべての人のために

美しく、感じの良い装いを心がける行為は

自分に出来る最低限の礼儀であり、最高の敬意である。

それを怠るから、別の気配りで挽回する必要が出てくる。

効率が悪い。


とはいえ、言われて嬉しいフレーズなら、こぞってその称号を得たがり

あんまり嬉しくない呼び名だと、それだけは避けたくなるのが

人情というものであろう。

情報に踊らされるな…なんて言うつもりはない。

時には踊らされて、浮世の流行りを楽しむのもいいものだ。

しかし内容によっては、それが人生に暗い影を落とすこともあるので

自分なりに選別する必要があるといえよう。


情報によるすり込みが、多くの人に害を及ぼしている例が

「アリとキリギリス思考」である。

汗水流してコツコツ働き、その成果で温かい冬を迎えるアリ。

バイオリンなんか弾いちゃって、さんざん遊んだあげく

最後に困ったことになるキリギリス。


幼い頃に読んだ寓話が、強く印象に残るような人は

真面目で心優しく、頑張り屋の子供であったろう。

おこがましいが、私もそうだった。

悪く言えば、臆病で融通のきかない子供であった。


根が律儀なもんで、人はアリかキリギリスしかいない…と信じ込んで疑わない。

この世には、勝ち組と負け組しかいないと

知らず知らずのうちに決めてしまうのだ。


着々と目的を達成していく理想形…アリになるべく

努力、精進、ついでに根性。

しかし、そもそもが融通のきかない生まれつきであるから

努力してもそれ相応の結果が出ない場合、強い敗北感にさいなまれる。

このままではアリになれそうにないという危機感は

そのままキリギリス行きの特急に乗ってしまったような焦燥感を生む。


この世には、アリとキリギリスだけじゃなくて

蝶もトンボもゲンゴロウも…いろんな虫がいるというのに

それには目もくれず、ただひたすらアリに憧れる。

周囲の人がアリに見え、自分がふがいないキリギリスに見える。

幻覚にとらわれて、劣等感で我が身を痛めつける善良な人々は

思いのほか多い。


アリでさえあれば、それでいいのか。

備蓄した食糧を眺めてほくそ笑み、もっと、もっと…と

よその巣からも奪う手段を企てる卑怯なアリだっているはずである。


そしてキリギリスは、本当にミジメで悲しい冬を迎えているのだろうか。

皆が皆、後悔して泣きながら死ぬのだろうか。

春から秋まで、この世を存分に謳歌して

「じゃあね」と笑顔で死んで行くキリギリスが、一匹もいないと言えるだろうか。


うまくいかなくてつらい時は、自分を責めずに

とりあえず、サナダ虫でも弱虫でもいい…別の虫になれ。

心の奥底を支配しているアリキリ思考から、無事脱却したあかつきには

自分色の羽根を持つ、のんきで面白い虫になれ。

必ずなれる。


あ、私?

虫はあんまり好きじゃないし、面倒臭いからキリギリスでいいや。

バイオリン弾いて、楽しく死んで行こう。

ミリギリスって呼んでもらおうかな。
コメント (45)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする