自分では、あわてんぼうでもそそっかしいほうでもないと
思っている。
お魚くわえたドラ猫を裸足で追いかけたり
買物しようと街まで出かけて財布を忘れるようなことはしない。
しかし、聞き違いはたまにする。
聞き違えたまま突っ走る。
ふとした拍子に思い出してしまったので
その中でも特に恥ずかしかったものを
自戒を込めて書き留めておこうと思う。
中学の時、授業前に先生が私に言った。
「みりこんさん、家帰って」
私はハッとして立ち上がり
理科室を出て泣きながら玄関に向かう。
家で何かあったんだ…
先生は気を使って、さりげなく言ってくれたんだわ…
ううっ…きっと誰か死んだんだわ…
小学生の時、家族の危篤を学校で伝えられ
体操着のまま迎えの車に乗ったのを思い出していた。
「お~い!どこ行くんだ~」
先生が追いかけて来た。
私の座っていた位置が、先生の席順表と違っていたらしい。
先生はそれに気づいて
「入れ替わって」
と言ったのだった。
ただでさえ恥ずかしいお年ごろ…
みんなに笑われて、穴があったら入りたかった。
長男が幼稚園に入って間もない頃
園で初めての行事があった。
開会式の時、園児たちに向かって
かわいらしい女の先生がりりしく号令をかける。
「合掌!演歌!」
私はおもむろに手を合わせ、目を閉じた。
そして心静かに演歌が始まるのを待った。
お年寄りもたくさん来てるから、こんなサービスがあるのね…
子供たちは何を歌ってくれるんだろう…
北島三郎か…八代亜紀か…。
♪よいこ~ あつま~れ~ た~のしい ようちえん~♪
流れてきたのは、幼稚園の園歌であった。
先生は、合唱…園歌と言ったのだった。
ハッと目を開けて周囲を見回すと
ジロジロ見られており、赤面した。
小学生になった長男の勉強部屋から声が聞こえる。
「人を撃つ!」
おもちゃのピストルが流行っていた頃だった。
階下でそれを聞いた私は、階段を駆け上がった。
「人を撃ったらダメよ~!」
あまりに急いだので階段を踏み外し
向こうずねをいやというほど打った。
次に聞こえてきたのは
「ふたあつ!」
みい~っつ…よ~っつ…
宿題の本読みだった。
痛いのと恥ずかしいのとで、ちょっと泣いた。
OLの頃、運送会社の男性が新しい電話帳を配達に来た。
「そうそう、捨てるものがあったら回収しますよ」
「そんなサービスがあるんですか?」
「はい。遠慮なく持って来てください。捨ててあげますよ」
私は倉庫へ行き、遠慮なく
古い書類などの廃棄物が満載された台車を
ゴロゴロ引っ張って来た。
目をむいて固まる男性と同僚たち。
回収すると言ったのは、いらない電話帳のことだった。
相当恥ずかしかった。
ある年末、病院の上司が言う。
「昨日仕事の帰りに墓地を買いに行ってね…」
「ええ~?墓地を?仕事の帰りに?」
いくら高給取りでも、年の瀬の仕事帰りに
気軽に墓地購入とは…この人、本当は太っ腹?
「お買い得でいいのがあったのよ。
こういうのは早めに用意しとかなきゃね」
「それはそうですけど…すごいですね!仕事帰りに…」
「気になっていたけど、これで落ち着いたわ」
この人でもたまにはマトモなことするんだ…
ご主人のことをいつも“死ねばいい”と言ってるけど
死んでからのこともちゃんと考えてあげてるんだ…
ちょっと意外…見直したかも…
上司は出勤してきた他の同僚にも同じ話をしていたが
どうもおかしい。
ショウユだのキナコだの言ってる。
…墓地ではなく、正月用の餅の話であった。
この人は出身地の方言が強いので、アクセントが逆なのだ。
一瞬でも尊敬した自分を恥じた。
最近は無いような気がする。
家に居るようになって、あんまり人と話さないからだと思う。
安全である。
思っている。
お魚くわえたドラ猫を裸足で追いかけたり
買物しようと街まで出かけて財布を忘れるようなことはしない。
しかし、聞き違いはたまにする。
聞き違えたまま突っ走る。
ふとした拍子に思い出してしまったので
その中でも特に恥ずかしかったものを
自戒を込めて書き留めておこうと思う。
中学の時、授業前に先生が私に言った。
「みりこんさん、家帰って」
私はハッとして立ち上がり
理科室を出て泣きながら玄関に向かう。
家で何かあったんだ…
先生は気を使って、さりげなく言ってくれたんだわ…
ううっ…きっと誰か死んだんだわ…
小学生の時、家族の危篤を学校で伝えられ
体操着のまま迎えの車に乗ったのを思い出していた。
「お~い!どこ行くんだ~」
先生が追いかけて来た。
私の座っていた位置が、先生の席順表と違っていたらしい。
先生はそれに気づいて
「入れ替わって」
と言ったのだった。
ただでさえ恥ずかしいお年ごろ…
みんなに笑われて、穴があったら入りたかった。
長男が幼稚園に入って間もない頃
園で初めての行事があった。
開会式の時、園児たちに向かって
かわいらしい女の先生がりりしく号令をかける。
「合掌!演歌!」
私はおもむろに手を合わせ、目を閉じた。
そして心静かに演歌が始まるのを待った。
お年寄りもたくさん来てるから、こんなサービスがあるのね…
子供たちは何を歌ってくれるんだろう…
北島三郎か…八代亜紀か…。
♪よいこ~ あつま~れ~ た~のしい ようちえん~♪
流れてきたのは、幼稚園の園歌であった。
先生は、合唱…園歌と言ったのだった。
ハッと目を開けて周囲を見回すと
ジロジロ見られており、赤面した。
小学生になった長男の勉強部屋から声が聞こえる。
「人を撃つ!」
おもちゃのピストルが流行っていた頃だった。
階下でそれを聞いた私は、階段を駆け上がった。
「人を撃ったらダメよ~!」
あまりに急いだので階段を踏み外し
向こうずねをいやというほど打った。
次に聞こえてきたのは
「ふたあつ!」
みい~っつ…よ~っつ…
宿題の本読みだった。
痛いのと恥ずかしいのとで、ちょっと泣いた。
OLの頃、運送会社の男性が新しい電話帳を配達に来た。
「そうそう、捨てるものがあったら回収しますよ」
「そんなサービスがあるんですか?」
「はい。遠慮なく持って来てください。捨ててあげますよ」
私は倉庫へ行き、遠慮なく
古い書類などの廃棄物が満載された台車を
ゴロゴロ引っ張って来た。
目をむいて固まる男性と同僚たち。
回収すると言ったのは、いらない電話帳のことだった。
相当恥ずかしかった。
ある年末、病院の上司が言う。
「昨日仕事の帰りに墓地を買いに行ってね…」
「ええ~?墓地を?仕事の帰りに?」
いくら高給取りでも、年の瀬の仕事帰りに
気軽に墓地購入とは…この人、本当は太っ腹?
「お買い得でいいのがあったのよ。
こういうのは早めに用意しとかなきゃね」
「それはそうですけど…すごいですね!仕事帰りに…」
「気になっていたけど、これで落ち着いたわ」
この人でもたまにはマトモなことするんだ…
ご主人のことをいつも“死ねばいい”と言ってるけど
死んでからのこともちゃんと考えてあげてるんだ…
ちょっと意外…見直したかも…
上司は出勤してきた他の同僚にも同じ話をしていたが
どうもおかしい。
ショウユだのキナコだの言ってる。
…墓地ではなく、正月用の餅の話であった。
この人は出身地の方言が強いので、アクセントが逆なのだ。
一瞬でも尊敬した自分を恥じた。
最近は無いような気がする。
家に居るようになって、あんまり人と話さないからだと思う。
安全である。