先日、薬膳しゃぶしゃぶを食べに行った。
クコの実やら松の実やら
よくわからない葉っぱ、なぜかキクラゲ…
なんだか体に良さそうなものが入っている鍋に
豆乳を投入…。
しゃぶしゃぶはおいしかったけど、一緒に行った人がまずかった。
友人夫妻…ご主人と一緒に食事をするのは初めて。
この旦那が俗に言う“鍋奉行”であった。
長いことフツーの人だと思っていたのに
鍋を前にしたら人格が変わった。
普段おとなしいタイプなので
変貌の落差がより大きく感じられる。
浮き上がってくるアクが許せないらしいのだ。
上質な牛肉はアクがあまり出ない。
年を取ってくると、お腹いっぱいを目指すよりも
少量の上質を求めるようになる。
それでも彼は思い詰めたような表情をして
わずかなアクというかアブクを
親の仇みたいに待ち伏せる。
右手にハシ、左手におタマという戦闘態勢にて
せわしなく監視と撤去を繰り返す。
合間で肉や野菜の入れ方、量、食べる順番…
「早い」だの「多い」だの「はい!今食べて!」だの
いちいち命令。
ああ…うるさい。
なんだよ…こいつ…無言で友人に目配せする。
友人は、ゴメンね…いつもこうなの…と目で言う。
鍋奉行がのさばるのは、鍋をつつくという団らんの席で
コトを荒立てたくない人が多いからだと思う。
しゃぶしゃぶの場合、アクをすくうという作業が
ひとつ余計についてくるので、うざさ倍増。
善意で世話してくれるものを
うざったいからよせとは言いにくい。
鍋奉行…それは食べ物が原因の喧嘩を恥じる
日本人のゆかしさに甘えた反社会的行為…とさえ思えてくる。
おとなしい!私とて、一応抵抗は試みた。
彼のオゴリなら我慢もしようが、今日は割り勘。
条件は平等なはずじゃ。
とはいえ私も和を尊ぶコモノなので、セコいことしか出来ない。
まずは軽いジャブ…
「気配りに忙しくて、食べた気がしないんじゃない?」
イヤミを込めて質問してみる。
「僕はいいんだよ。みんながおいしく食べられたらそれで…」
この方法はどこそこの有名店で教わった食べ方で…
などとウンチクが長くなり、逆効果であった。
今度は、1回の入浴は2きれまで…
と厳しく制限された白菜を
ガバッと入れて反応をうかがう。
「ダメッ!」
すぐさま制止され、白菜は引き上げられて連行。
ちょっとでも彼の意に反した行動を取ろうものなら
ただちに粛清(しゅくせい)されそうな勢い。
もはや奉行どころではない…鍋将軍じゃ。
そうだ!おまえは鍋ジョンイル!
「ポン酢が濃いから、ダシを入れようっと…」
などと言いながら、スキを見ておタマ略奪。
戦利品のおタマを彼の死角へと隠蔽。
フン…平民だって抵抗する時はするのだ。
しかしその頃には豆乳のタンパク成分はすべてすくい取られ
透明な普通のしゃぶしゃぶと化している。
おタマを奪われ、キョロキョロと落ち着かない目つきで
再度奪還のチャンスをうかがう彼。
渡すものか…ガルルル。
しかしつかの間の抵抗むなしく
しゃぶしゃぶはほどなく終戦とあいなった。
せっかく薬膳なのに、体に悪かったような気がする。