運転免許は、結婚してから取った。
学科を終え、初めて車での教習が始まる日
教官が開口一番こう言った。
「途中で車を乗り捨てないでね」
意味わからん!
「お姉さんは路上教習の時、脱走したんだよ」
夫の姉、カンジワ・ルイーゼのことだった。
名字が同じなので、私はその妹だと思われたのだ。
一時停止を無視したので注意したところへ
ちょうど買い物帰りの母親が通りかかったという。
ルイーゼは教習車から飛び出し
母親にすがって泣いたあげくそのまま帰宅。
以来私が教習所へ通うようになる8年の間、その伝説は語り継がれていた。
ルイーゼは本当に面白くていいヤツだ。
友達が一人もおらず、結婚式で格好がつかないからと
一回だけしゃべったことがあるという女の同級生を二人呼んだ。
ついでに言うと、披露宴のキャンドルサービスで頭が燃えた。
「みんな、聞いて」
一人息子が幼稚園や学校に通っていた頃は
毎年4月に「ご宣言の儀」がある。
「今年は緑でいく!」
「今年は着物!」
参観日に着ていく衣装のコンセプトをご発表。
義母と私は、コウベをたれてそれをうかがう。
几帳面なので初志貫徹
本当にそのとおり、子供が高校を卒業するまでやり通した。
ただ気の毒なのは、その見てくれを賞賛する人が
母親以外誰もいないこと。
先日、両親の家に来客があった。
取引先の跡取り息子だ。
ちょうど私も居たので、コーヒーの用意をする。
ルイーゼは、こういう準備は嫌いなのだ。
持って行きたがるだろうな~…と思いながら
私も意地が悪いもんで、わざと持って行くふりをする。
案の定、取り急ぎ着替えと化粧直しをすませたルイーゼが立ちはだかる。
「私は大学時代に喫茶店でアルバイトしたことがあるの!」
2日でクビになったくせに…(夫談)
「大切なお客様には、慣れた者が失礼のないようにやらないとね!」
義母も賛同する。
「そうよ。仕事の関係者だからね。顔を見せておくのも大事よ」
フン!とルイーゼは盆をひったくり、いそいそと客間を目指す。
来客は若いイケメン…ルイーゼの好みなのだ。
ガチャン!!
大きな音がして、ウワッ!っという客の叫び声が…。
ルイーゼがものすごい勢いでキッチンに戻って来た。
「うぅぅ…」
床に座り込み、うなだれるルイーゼ。
同時に義父の怒鳴り声が聞こえる。
「早く!水!フキン!」
私はフキンをつかんで走る。
ルイーゼはコーヒーカップを
客のヒザの上でひっくり返したのだ。
冷やしたり拭いたり、ひと騒ぎ済んで戻ってみると
ルイーゼは義母になぐさめられてすでに立ち直り、新聞を読んでいた。
ルイーゼが現在夢中なのは、某団体主催の「女性経営者クラブ(仮名)」。
商売人の奥さんや娘さんで結成された会だ。
建て前は、会員同士の交流によって事業繁栄を図る集まりである。
選民意識と優越感をくすぐり、やれ視察旅行だ、やれ研修会だと
そのたびに会費をゲットしたい主催側と
不況にあえぐ日常から現実逃避して、ちやほやされたい会員の息ぴったし。
お客がたくさん来ないと儲からない商売なら必要かもしれないが
うちのような稼業ではまったく意味がない。
いくら交流したって「じゃ、高速道路ひとつください」
「空港でもいただいときましょうか」ということにはならないのだ。
しかしながら御年53才にして
生まれて初めて同性の他人と交際を始めたルイーゼ。
ただいま青春街道ばく進中。
今年、ルイーゼは副会長の座をゲット。
やる人がいないという噂もあるが、ここは身内…
ひとえに彼女の人望のたまもの…ということにしておこうではないか。
義母は大喜びだ。
出来れば会長にしてやりたいと言う。
「でも、居住地が市外なのと、代表取締役じゃないから
会長はできない規則なの。
昔から人に好かれるし、なんでも出来るウツワの子なのに…」
と残念そう。
父親と弟の暗殺も近いと思われる。
楽しみだ。
学科を終え、初めて車での教習が始まる日
教官が開口一番こう言った。
「途中で車を乗り捨てないでね」
意味わからん!
「お姉さんは路上教習の時、脱走したんだよ」
夫の姉、カンジワ・ルイーゼのことだった。
名字が同じなので、私はその妹だと思われたのだ。
一時停止を無視したので注意したところへ
ちょうど買い物帰りの母親が通りかかったという。
ルイーゼは教習車から飛び出し
母親にすがって泣いたあげくそのまま帰宅。
以来私が教習所へ通うようになる8年の間、その伝説は語り継がれていた。
ルイーゼは本当に面白くていいヤツだ。
友達が一人もおらず、結婚式で格好がつかないからと
一回だけしゃべったことがあるという女の同級生を二人呼んだ。
ついでに言うと、披露宴のキャンドルサービスで頭が燃えた。
「みんな、聞いて」
一人息子が幼稚園や学校に通っていた頃は
毎年4月に「ご宣言の儀」がある。
「今年は緑でいく!」
「今年は着物!」
参観日に着ていく衣装のコンセプトをご発表。
義母と私は、コウベをたれてそれをうかがう。
几帳面なので初志貫徹
本当にそのとおり、子供が高校を卒業するまでやり通した。
ただ気の毒なのは、その見てくれを賞賛する人が
母親以外誰もいないこと。
先日、両親の家に来客があった。
取引先の跡取り息子だ。
ちょうど私も居たので、コーヒーの用意をする。
ルイーゼは、こういう準備は嫌いなのだ。
持って行きたがるだろうな~…と思いながら
私も意地が悪いもんで、わざと持って行くふりをする。
案の定、取り急ぎ着替えと化粧直しをすませたルイーゼが立ちはだかる。
「私は大学時代に喫茶店でアルバイトしたことがあるの!」
2日でクビになったくせに…(夫談)
「大切なお客様には、慣れた者が失礼のないようにやらないとね!」
義母も賛同する。
「そうよ。仕事の関係者だからね。顔を見せておくのも大事よ」
フン!とルイーゼは盆をひったくり、いそいそと客間を目指す。
来客は若いイケメン…ルイーゼの好みなのだ。
ガチャン!!
大きな音がして、ウワッ!っという客の叫び声が…。
ルイーゼがものすごい勢いでキッチンに戻って来た。
「うぅぅ…」
床に座り込み、うなだれるルイーゼ。
同時に義父の怒鳴り声が聞こえる。
「早く!水!フキン!」
私はフキンをつかんで走る。
ルイーゼはコーヒーカップを
客のヒザの上でひっくり返したのだ。
冷やしたり拭いたり、ひと騒ぎ済んで戻ってみると
ルイーゼは義母になぐさめられてすでに立ち直り、新聞を読んでいた。
ルイーゼが現在夢中なのは、某団体主催の「女性経営者クラブ(仮名)」。
商売人の奥さんや娘さんで結成された会だ。
建て前は、会員同士の交流によって事業繁栄を図る集まりである。
選民意識と優越感をくすぐり、やれ視察旅行だ、やれ研修会だと
そのたびに会費をゲットしたい主催側と
不況にあえぐ日常から現実逃避して、ちやほやされたい会員の息ぴったし。
お客がたくさん来ないと儲からない商売なら必要かもしれないが
うちのような稼業ではまったく意味がない。
いくら交流したって「じゃ、高速道路ひとつください」
「空港でもいただいときましょうか」ということにはならないのだ。
しかしながら御年53才にして
生まれて初めて同性の他人と交際を始めたルイーゼ。
ただいま青春街道ばく進中。
今年、ルイーゼは副会長の座をゲット。
やる人がいないという噂もあるが、ここは身内…
ひとえに彼女の人望のたまもの…ということにしておこうではないか。
義母は大喜びだ。
出来れば会長にしてやりたいと言う。
「でも、居住地が市外なのと、代表取締役じゃないから
会長はできない規則なの。
昔から人に好かれるし、なんでも出来るウツワの子なのに…」
と残念そう。
父親と弟の暗殺も近いと思われる。
楽しみだ。