♪小鳥がね お窓でね
♪お首をふりふり聞いてるよ
♪一緒にね 楽しいね
♪きれいな声だと聞いてるよ
♪ヤ○ハ ヤ○ハの音楽教室…
40年以上も前の話だ。
その日は、初めての発表会に向けて
受け持つ楽器の発表がある。
4才の私は、エレクトーンを狙ってひそかに燃えていた。
うちにはピアノしか無かったので
あの軽く触れるだけで響き渡る
震えるような音色はあこがれなのだ。
シンバル、タイコ、タンバリン…先生が次々に名前を呼ぶ。
カスタネット、ハーモニカ…
おお、どうか呼ばれませんように。
私の野望はただひとつ。
あの木目も神々しいエレクトーン!
そしていよいよ…。
ドキドキ。
「エレクトーンは…ノブちゃん」
…がっくり。
しっかり者のライバル、ノブちゃんはうれしそう。
お母さんも満足げに、ノブちゃんの背中をなでている。
エレクトーンは一人だけなのだ。
夢…破れたり。
「次に、エレクトーンの…」
なに?もう一人あるのか?
祈るような思いで、望みをつなぐ。
「エレクトーンの足…」
エレクトーンの下にくっついている
重低音を出す大きな鍵盤だ。
周りの親たちから、かすかな失笑がもれる。
察するに、どうも恥ずかしい役どころらしい。
「エレクトーンの足は…みりこんちゃん」
「うっ…!」
今度は子供たちがクスクスと失笑。
「しっ…!」
それをたしなめる親たちのヒソヒソ声が
さらに私をうちのめす。
私もボー然だが、母チーコもガク然。
パートがどうのというより
「足」と言われて、すでに笑いを取っているのが問題だった。
人が笑うものを引き受けねばならない
このクツジョク!
今はそうでもないが
昭和中期のいにしえは
この「笑われる」という現象が
人としてもっとも恥ずかしいことだったのだ。
みりこん、4才にして人生初の絶望を知る。
我々母子の尋常ならぬ形相を見て
あわてた先生が、とり急ぎフォロー。
「あの…この曲はベースの音がないと、映えないんです…
とても大事な楽器なんです…
ノブちゃんの足が届かないので…あの…」
若くてかわいらしい先生は、必死に弁解するが
すればするほどドツボにはまって上滑り。
チーコはおとなしい女なので
ええ、ええ…とうなづいて微笑んだ。
翌日から、チーコは変貌した。
音楽教室に行き
発表会までエレクトーンの足を練習させてほしい…と頼み込む。
本体を買う気は、さらさらないようだ。
連日の特訓につぐ特訓。
チーコと私は、夕方になると黙々と通い
ブースカ、ブースカ、ひたすらキーを踏む。
そしていよいよ明日は発表会という日…
幼稚園から帰ると、デパートの小さな包みがあった。
チーコははるばる
汽車(電車ではない)で2時間かかる都会へ行き
私のためにレースふりふりの靴下を買っていた。
人の足となる私の足のためだと言う。
同じやるなら、やれるだけのことをやるのだと言う。
くどいほどレースのついた
「都会」の香り漂う靴下に喜ぶ私をながめ
チーコは涙ぐんだ。
そして以後、この件に触れることは一切なかった。
♪お首をふりふり聞いてるよ
♪一緒にね 楽しいね
♪きれいな声だと聞いてるよ
♪ヤ○ハ ヤ○ハの音楽教室…
40年以上も前の話だ。
その日は、初めての発表会に向けて
受け持つ楽器の発表がある。
4才の私は、エレクトーンを狙ってひそかに燃えていた。
うちにはピアノしか無かったので
あの軽く触れるだけで響き渡る
震えるような音色はあこがれなのだ。
シンバル、タイコ、タンバリン…先生が次々に名前を呼ぶ。
カスタネット、ハーモニカ…
おお、どうか呼ばれませんように。
私の野望はただひとつ。
あの木目も神々しいエレクトーン!
そしていよいよ…。
ドキドキ。
「エレクトーンは…ノブちゃん」
…がっくり。
しっかり者のライバル、ノブちゃんはうれしそう。
お母さんも満足げに、ノブちゃんの背中をなでている。
エレクトーンは一人だけなのだ。
夢…破れたり。
「次に、エレクトーンの…」
なに?もう一人あるのか?
祈るような思いで、望みをつなぐ。
「エレクトーンの足…」
エレクトーンの下にくっついている
重低音を出す大きな鍵盤だ。
周りの親たちから、かすかな失笑がもれる。
察するに、どうも恥ずかしい役どころらしい。
「エレクトーンの足は…みりこんちゃん」
「うっ…!」
今度は子供たちがクスクスと失笑。
「しっ…!」
それをたしなめる親たちのヒソヒソ声が
さらに私をうちのめす。
私もボー然だが、母チーコもガク然。
パートがどうのというより
「足」と言われて、すでに笑いを取っているのが問題だった。
人が笑うものを引き受けねばならない
このクツジョク!
今はそうでもないが
昭和中期のいにしえは
この「笑われる」という現象が
人としてもっとも恥ずかしいことだったのだ。
みりこん、4才にして人生初の絶望を知る。
我々母子の尋常ならぬ形相を見て
あわてた先生が、とり急ぎフォロー。
「あの…この曲はベースの音がないと、映えないんです…
とても大事な楽器なんです…
ノブちゃんの足が届かないので…あの…」
若くてかわいらしい先生は、必死に弁解するが
すればするほどドツボにはまって上滑り。
チーコはおとなしい女なので
ええ、ええ…とうなづいて微笑んだ。
翌日から、チーコは変貌した。
音楽教室に行き
発表会までエレクトーンの足を練習させてほしい…と頼み込む。
本体を買う気は、さらさらないようだ。
連日の特訓につぐ特訓。
チーコと私は、夕方になると黙々と通い
ブースカ、ブースカ、ひたすらキーを踏む。
そしていよいよ明日は発表会という日…
幼稚園から帰ると、デパートの小さな包みがあった。
チーコははるばる
汽車(電車ではない)で2時間かかる都会へ行き
私のためにレースふりふりの靴下を買っていた。
人の足となる私の足のためだと言う。
同じやるなら、やれるだけのことをやるのだと言う。
くどいほどレースのついた
「都会」の香り漂う靴下に喜ぶ私をながめ
チーコは涙ぐんだ。
そして以後、この件に触れることは一切なかった。