殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

お菓子な家・3

2009年03月16日 11時06分12秒 | みりこん童話のやかた
ヤンデルもグレテルも

彼らに初めて会ったような気がしませんでした。


「ああっ!」

二人は思い出しました。

暴走集団「那智’S」のヘッドには

代々腕に卍のタトゥーを入れるしきたりがあるのを…。


卍は太って伸びてしまい、角が丸くなっているけれども

あれはまぎれもなく

彗星のごとく現われ、風のように消えた伝説のヘッド

その名もオヤマノタイ・ショウ!


「ショウ様!おいたわしや!」

ヤンデルは思わず口走りました。


グレテルも、女の子のほうに見覚えがありました。

太って人相が変わってしまっていますが

いまどきなかなかお目にかかれない金髪のなごりと眼つき…

ひところ町を騒がせ、なぜか忽然と姿を消した

レディースの総長「鬼姫」にちがいありません。


その名のとおり、泣く子もだまる女総長が

「これじゃ、おたふくじゃん…」


いなくなったと思っていたら、こんなところに入れられていたのか…。

二人はがく然としました。


ひっひっひ…

おばあさんは、手をポンポン、と叩いて言いました。

「さあ、あんたたちもお部屋に行くんだよ」


椅子にくっついたまま

台車に乗せられて連れて行かれたのは

ホテルのような個室でした。


「テレビもあるし、ゲームもマンガもたくさん。

 部屋の中で、ただ遊んでいればいい。 

 ここは天国さ」


それを全部食べ終わったら、椅子と体を離してあげよう…

おばあさんはそう言うと

外からガチャリと鍵をかけました。


テーブルの上には、今度はお菓子ではなく

山ほどのごちそうと甘い飲み物が用意されています。

ヤンデルもグレテルも

自由になりたい一心で一生懸命食べ続けました。


やっと食べ終わると

おばあさんが来て椅子と体を離してくれました。

おばあさんが手にしているツエで

椅子をポンとたたくと

不思議なことにお尻に張り付いていた椅子が離れるのです。


しかし、体が自由になっても

おなかがいっぱいで動けません。

ふたりはそのまま、柔らかいベッドで

眠ってしまいました。



「どうだい?食べてるかい?」

今日もおばあさんが、ようすを見に来ます。


「えらい、えらい。たくさん食べて、大きくなるんだよ」

おばあさんに優しくそう言われ

ヤンデルとグレテルは、とても嬉しそうです。

二人はどんどん太っていきました。


素直でかわいい二人は、おばあさんのお気に入りです。

近頃では、おばあさんもいろいろな話を

してくれるようになりました。


「太ったら、動くのがおっくうで悪さもできないだろ。

 逃げ足も遅いし、何をしてもユーモラスだし。

 心なんてコロコロ変わる見えないものをどうにかするより

 わかりやすくていいってもんだ」

おばあさんは、ひっひっひ…と笑うのでした。



                  続く






  
コメント (18)
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