「せとうちノスタルジー47の旅」は尾道から復路の旅となる。尾道発万富行き・・・って、通常ではありえないコースである。
尾道発車後、昼食の弁当が配られる。中身は幕の内でおかずもあれこれ入る。酒のアテには事欠かない。なおご飯はたこめしだ。駅弁をいただき、また飲みながらの汽車旅となる。ええやないですか・・。
この「ノスタルジー号」の座席の窓枠にはテーブルが設けられ、その下には栓抜きがある。その昔、飲み物を瓶で売っていた時の名残で、この改造にあたり再現したものである。車内では食後の口直しということで添乗員が瓶入りのサイダーを売って回る(すでに炭酸のものを飲んでいるので注文はしなかったが・・)。栓抜きでプシュッとやるのを楽しみにしていた様子の人もいる。同じ栓抜きなら瓶ビールで・・とも思ったが、居酒屋ならともかく、昔ながらの酒屋でなければ手に入るものではない。
復路は尾道から岡山を通り過ぎて万富まで行くが、今度は岡山に数分停まるのみで、長時間の停車はない。
その復路の見どころとして、さまざまな列車とのすれ違いの案内がある。まず備後赤坂では、先ほど尾道で同じホームに到着した「etSETOra」が宮島口への折り返しの時間待ちをしている。こちらは「急行」らしく備後赤坂を通過するが、この2列車が並ぶのを目当てに、駅のホームには大勢のギャラリーが集まっている。1回限りの運転だが、「せとうちノスタルジー号」のおよその運行時刻が記事になった時点で、備後赤坂ですれ違うと見抜いた方が多いのだろう。
そして、本日2回目の福山通過である。反対側ホームに「WEST EXPRESS銀河」が停車している。この日(1月15日)から山陽ルート、下関行きの運行が始まっており、途中の福山では長時間停車して地元からのおもてなしイベントが開かれている。「銀河」か・・これまで山陰、紀南ルートと乗ったが、山陽ルートは昨年の運転ではさすがに抽選外れ。一度、昼の山陽線を直通列車で走り抜けるというのも体験したいものだ。そういえばこの1~3月分もダメ元でどこかの日付に応募していたっけ。
この後新倉敷付近では、JR西日本が開発した新型ハイブリッド式気動車であるDEC700形の試運転車両と通過する。DEC700形は新山口に配置されていて、現在は山陰線や山口線をはじめとした各線で試運転しているそうだ。現在中国地方を中心に一定数残っており、今乗っている「ノスタルジー号」や「etSETOra」にも使われているキハ47だが、いずれはこうしたハイブリッド車両に置き換わるのだろう。そのDEC700形とすれ違うのを見ようと、運転台の前に乗客が集まる。私は席に座ったまますれ違ったが、ほんの一瞬のことだった。
岡山に到着。ここで7分停車だがほんの小休止である。「ノスタルジー号」はさらに東へと向かう。
これから向かう万富だが、駅のすぐ南にキリンビールの岡山工場がある。コロナ禍の前、クラブツーリズムのツアーで、213系を改造した観光列車「ラ・マル・ド・ボァ」を貸し切ったビール列車に乗ったのを思い出す。岡山~万富の往復だったが、「ラマル」が山陽線の岡山以東を運行するのがレアということでも注目されていた。この時は往復車内でのビール飲み放題に加えて、かつての同和鉱業片上鉄道の跡地である柵原ふれあい鉱山公園での保存車両乗車や、キリンビール岡山工場の見学がセットだった。
今は冬なのでビール飲み放題列車の需要はないだろうが、コロナ禍、特に「まん延防止等重点措置」なんかが出ている中では、工場見学ならまだしも車内での「飲み」を前面に出したイベント列車を運転するのは難しいだろうなあ。はたして今年の夏、ビールが似合う季節には世の中はどういう状況になっているのだろうか。
万富に到着。今回目指すのは国道2号線沿いにある「おさふねサービスエリア」である。国道2号線を東へひた走る中で見慣れたスポットだが、今回こうした鉄道ツアーで訪ねるのにはわけがある。ともかく、路線バス車両2台に分乗し、吉井川に沿って南下する。
この「おさふねサービスエリア」、山陽新幹線の吉井川橋梁のすぐ横にあり、敷地、建物から新幹線が高速で通過するのを間近に見ることができる。今回は1時間15分ほどの滞在時間がある(写真に新幹線の走行シーンがないのは不徳のいたすところ。そこはご想像で・・)。
まずはおやつということでスイーツが出て、その後、車内で渡された整理券の順番で、1階レストランに展示されているNゲージの見学と続く。
そこそこ時間があるということで、お目当てにしていた温泉に入ることにする。これまで何度もこの前を通っているが、いずれも時間が早すぎて温泉は開いてなかったのだ。もちろんツアーとは別料金なのでチケットを買って受付に向かうと、ロッカーキーと引き換えに車のキーを出すように言われる。いや、今回は鉄道のツアーなのだが・・と言うと、スマホなど貴重品を預けるように言われる。そこでスマホを出したが、これは貴重品預かりというよりは、「物質」を取るかのようだが、過去に何か犯罪でもあったのか、何らかの対策だろう。
さすがに新幹線を眺めながら・・とは行かないが、日本有数の強アルカリ性泉を使った「美肌の湯」である。浴場はそこそこの広さでゆったりできた。
湯上りに外に出る。屋外の新幹線の高架下にはかつての下津井電鉄の車両も展示されている。これらを含めて、鉄道の成分が濃いことから今回の立ち寄りスポットになったことがうかがえる。
なお、「おさふねサービスエリア」に鉄道で来る場合、最寄り駅は赤穂線の香登だが結構離れている。そこでバスにも範囲を広げると、「宇野には行かない宇野バス」の備前片上行きが走っている。便数は少ないが、上下ダイヤを組み合わせると、鉄道好きならこのスポットで次のバスの発車時間まで持て余すことはないのではなかろうか。
バスの集合時間となり、万富駅に戻る。ちょうど日が西に傾いてきたところだ。後は岡山まで20分ほどの乗車である。外も少しずつ暗くなってきた。
17時15分、岡山到着。岡山を起点に西へ東へ、気が付けば8時間以上をこの列車とともに過ごした。長時間停車の中での汽車旅風情あり、尾道の散策あり、備前の鉄道スポットありと、天候にも恵まれて贅沢な1日を送れた。また、こうしたイベント列車を運転してほしいものだ。
この日は駅前のミシュラン居酒屋に立ち寄ることもなく、そのまま岡山18時02分発の「こだま863号」で広島に戻った。
さて、岡山駅にはさまざまな方面からの列車、そしてさまざまな形式の車両が行き来し、見るぶんには広島駅よりも面白いところである。その中で、時刻表を見ていて気になる列車がある。JR西日本の次のダイヤ改正はこの3月に予定されているが、その列車はなくなると言われている。私の予定もいろいろある中で、それに出会うことはあるだろうか・・・。