手元にある「青春18きっぷ」。今回は5回使い切ることが難しそうだったので、ネットオークションで3回分のものを落札。最近はこういう手があるから便利である。もっとも2回分で5,000円、3回分で7,000~8,000円というのが落札相場で、単純に2,250円×回数分とはいかないのだが。
さてこれをどうしようかということで、行き先で思いついたのが、元「特定地方交通線」である名松線。岩手の岩泉線とともに、国鉄末期の廃止対象路線だったのが、「代替となる沿線の道路の未整備」を理由に廃止を免れ、現在に至るというやつである。高校生だか大学生だかの時に一度乗ったきりで、10数年ぶりに訪ねてみるのも面白そうである。
・・・ということで、29日の朝9時半過ぎ、近鉄の川合高岡駅に降り立つ。「そんな駅どこにあんねん?」という方のために書き添えると、近鉄大阪線の伊勢中川の一つ大阪寄り。各駅停車しか停まらない小さな駅である。
名松線の起点は松阪であるが、この川合高岡駅と名松線の一志駅というのが歩いて1~2分の距離にある。ただしお互いに「近鉄乗換え」「JR乗換え」という案内はしておらず、それぞれの駅への案内標識も見当たらない。
青春18の旅なのだから、関西線の亀山経由で松阪に行けばいいのだが如何せん接続がよろしくない。かといって近鉄特急というのも贅沢かな、ということで、松阪を9時34分に出る伊勢奥津行きが、一志に9時52分に到着するのを時刻表で確認し、このルートで入ってみることにしたのだ。ただし、ここまでたどり着くのに自宅最寄の阪急武庫之荘→梅田(大阪)→天王寺→王寺→桜井(JRから近鉄乗換え)→青山町→川合高岡という乗り換えで、待ち時間含めて4時間以上かかった。やれやれ。
一志駅には何となく歩くうちに無事たどり着く。と、そこにはリュックを背負った20人くらいの中高年の団体の姿。今はやりのウォーキングだろう。そういえば終点の伊勢奥津は旧伊勢本街道が通っており、そのあたりの街道や山の中を歩くといったところか。
1両の気動車はこの団体やら汽車旅派などで賑わい、座席も埋まった。乗客のいない元「特定地方交通線」、ガラガラだろうとタカをくくっていたが、最近では青春18の普及や鉄道ブームとやらのために、ローカル線のほうが混雑するという現象が起きている。
列車は雲出川に沿って山間に分け入っていく。並行する道路も普通の一般道路に見え、2009年の今となっては「代替道路は整備」されたといってもいいのではないかと思う。まあその基準は国鉄末期の頃の話だし、現在こうして残って地元の足、行楽客の足として生きるのも貴重なことである。
木材の生産がさかんな美杉。美杉リゾートというのもあるので1日自然と付き合うのもいいかもしれない。ただこのあたりも「美杉村」と言っていたのがいつの間にか「津市」に変わったようで。
一志から約1時間で、終点の伊勢奥津着。かつて来たときは側線もあり、古びた木造駅舎だったと記憶しているが、それが今ではホームは1本きり、駅舎も、おそらく地元の木材を使用したであろう、コミュニティ施設も入ったログハウス風のものに変わっていた。
本当にポツネンとした終着駅である。
行き止まりの線路の奥には、かつてSLが走っていた時代の名残か、給水搭が残っている。駅の周りはロータリーや芝生広場にしてあるだけに、これはあえて残したものと思われる。「機関車の 給水あとや ススキ原」という、芭蕉の句の世界にも通じるような一句が、この給水搭の支柱に掲げられていた。
駅前にはバス停があり、「名松線」らしく「名張駅行」の案内もあった。しかし・・・・こういうダイヤで乗る人がいるのかな。でも世間には数々の旅行好きがいる。朝の便を狙って乗車したツワモノの紀行文も必ずやあるに違いない(宿をどのように手当てしたか気になる)。
折り返しまでのわずかな時間だが、旧伊勢本街道の名残をとどめる駅前を歩いてみる。
かつては宿場町として商売をおこなっていたとのことで、家々には屋号を記したのれんがある。これは地元の方たちの「町並みPR」とか。
またのれんとともにしめ飾りが飾られている。最初は「正月に出したのをしまい忘れているのか」と思ったのだが、どの家も飾っている。後でわかったことだが、伊勢地方の風習としてしめ飾りは一年中飾っており、「笑門」や「千客万来」などの縁起言葉を中板に書くということのようだ。
そして駅前には造り酒屋の稲森酒造というのがある。こんな山奥にも銘酒があるとはね・・・。「出世鶴」、なかなか縁起よい名前ですな。
・・・・ということで、伊勢奥津からの帰りの列車の中では、こういう仕儀となる・・・・。
帰りは地元の人たちや汽車旅派たちでゆったりとした車内。まだ満開には早い桜を見ながらの一献ということになる。
途中の家城では対向列車との行き違い。全国的に珍しい存在となったタブレットの交換風景を見ることができる。車両こそJR東海になってからのものであるが、昔ながらの鉄道の光景というのが名松線にはあふれている。
外の風はやや冷たいが、日の当たる温かな車内での穏やかなひと時を過ごすうち、一志を過ぎ、松阪に到着。この日は松阪市街を散策することにしよう・・・・。