前回からの続きである。トニー・オーバン指揮によるデュカの歌劇<アリアーヌと青ひげ>全曲CDの、その2枚目の余白には、思いがけない“お宝”が併録されている。そこには2曲のオーケストラ伴奏付き歌曲が収められているのだが、その2曲目がまさに、「めっけもーん」なのである。
それは、ベルギー出身の名ソプラノ歌手シュザンヌ・ダンコが歌ったラヴェルの歌曲集<シェエラザード>で、伴奏が何とアンセルメ&パリ音楽院管弦楽団なのだ。1948年の太古録音なので音はさすがに悪いが、当時37歳ぐらいだったダンコの張りのある美声と、パリ音楽院管弦楽団の響きが実に良いのである。こんな音源に出会えるとは!
アンセルメがモノラル期に行なっていたパリ音楽院管弦楽団との演奏は、実は少ししか私は聴いていないのだが、いずれも印象的なものであった。1948年録音のR=コルサコフの<シェヘラザード>(※ダットン・ラボラトリーの復刻は、ここでも見事)では、パリ音楽院管から芯の太い音を引き出して、力強い音楽を作っていた。特に第1楽章が力演で、晩年のアンセルメにはない、凄い程の気迫がガンガンと伝わってくる。1954年に録音されたラヴェルの<ボレロ>と<ラ・ヴァルス>(L)あたりでは、曲自体の性格もあってかなり精妙な響きも聴かれるものの、やはり音色美以上に当時のアンセルメが放射していた覇気の方が、私の心には強く響いてきた。
しかし、このセットで聴くことの出来るシュザンヌ・ダンコとの歌曲集<シェエラザード>は、古い録音ながら、響きの色っぽさみたいなものがむしろ伝わってくる。こういう“お宝”に思いがけず出くわした時というのは、実に嬉しいものである。マニア冥利に尽きる、とでも言えようか。(※もっとも、アンセルメ&パリ音楽院管の録音としては、同じラヴェルの<ダフニスとクロエ>からの第1&第2組曲もあるようだし、さらにデュカの<ラ・ペリ>とか、ラフマニノフの<死の島>とか、ちょっとそそられるものがまだ秘蔵されて眠っているようだ。機会があったら、手に入れて聴いてみたいものである。)
さて先頃語ったデゾルミエールから、このアンセルメ&パリ音楽院管弦楽団という話の流れになると、ジャン・マルティノンの名前がふと思い出される。壮年期のマルティノンがパリ音楽院管弦楽団と遺したデッカの初期ステレオ録音は、数こそ少ないものの、すべて一聴の価値ある名盤ばかり。≪アダン(ビュッセル編):<ジゼル>全曲≫≪フランス音楽名演集≫≪プロコフィエフの交響曲第5&7番≫等、いずれも素晴らしい内容を持っている。
バレエ<ジゼル>については次回改めてトピックにしたいと思っているのだが、とりあえずマルティノンの指揮による<ジゼル>は、とても素敵な演奏である。使用楽譜はアンリ・ビュッセルによる編曲版とのことで、演奏時間はわずか40数分。もとのバレエを全曲上演すれば、約2時間弱かかるわけだから、かなり端折っているのがわかる。と言うより、事実上「全曲盤」とは呼べないものだ。しかし、ここで聴かれる演奏自体は非常に魅力的なものである。まず開幕の音楽からして、エレガントな活気に溢れている。きびきびと飛び跳ねるような「ワルツ」も良い。そして美しい旋律の魅力的な歌わせ方や、随所で発揮されるパリ音楽院管弦楽団の柔らかく魅惑的な響きが、心地良いひと時を与えてくれる。第1幕の幕切れの音楽はもう少し強く盛り上げくれてもよかったかな、というぐらいの小さな不満はあったが、全体的な印象としては、とても魅力的な名演奏に仕上がっている。
ところで先述の通り、カラヤン&ウィーン・フィルのコンビも、<ジゼル>の短縮版・全曲を録音している。しかし率直に意見を言わせていただくと、このコンビの演奏は、私には全くいただけない代物であった。おそらくカラヤン先生に言わせれば、「バレエの上演ではなく、コンサート向きのシンフォニックなアプローチをしてみたまでさ」ということにでもなるのだろう。勿論、いろいろな指揮者たちが様々な名作バレエをコンサート・スタイルで演奏している。しかし、「ここまで外されると、ちょっとなあ」という感じなのである。例えば、ウィリーたちが交差するあの幻想的な場面(※詳しいことは、次回)の音楽をあんな風にさっさかと気取ってやられても、聴いているこちらはさっぱり興に乗れないのだ。同じウィーン・フィルとのチャイコフスキーの≪三大バレエ~ハイライト集≫(L)も、懲りずに私はCDを買って聴いたのだが、そこでも思いっ切り外しまくっていたカラヤン氏であった。まあ、受け取り方は人それぞれではあろうけれど・・。
マルティノンに話を戻すが、≪フランス音楽名演集≫の中には、イベールの<ディヴェルティメント>、サン=サーンスの<死の舞踏>、ベルリオーズの序曲<ローマの謝肉祭>と<海賊>他、が収められている。中でもベルリオーズの序曲<海賊>は最高で、少なくとも私にとっては、この曲の断トツ・ベストの名演である。目まぐるしく運動する弦の荒々しい生命力、野蛮に吹き鳴らされる金管、鮮やかな色彩感、時代を超えた優秀な録音。この曲に関しては、ベルリオーズの使徒シャルル・ミュンシュ以上の出来栄えと絶賛したい。サン=サーンスの<死の舞踏>も、フランス国立管との再録音よりずっと魅力的である。<ローマの謝肉祭>も、昔はこの曲の代表的な名演の1つに数えられていた。
プロコフィエフの2曲については、私の個人的な感想としては、<第5番>の方がより良い出来なんじゃないかと思う。特に、木管楽器が強烈な個性を発揮する第2楽章が絶品。いかにもプロコフィエフらしい、忙しい音楽で開始される楽章だが、中間部で聴かれる管楽器、特にオーボエの音色には、くた~っと力が抜けてしまう。何だかもう、“万事休す”みたいな、この虚脱感がたまらない。まさに、パリ音楽院管ならではの魅力である。ロジェストヴェンスキーらに代表される本家ロシア風の名演奏とは異質なものだが、この馨(かぐわ)しき音色の個性には格別な魅力がある。<第7番>の方は、少し出来栄えが落ちるかなと思う。終楽章のコーダにドンちゃん騒ぎをくっつけたのも、私個人的にはちょっと賛成しかねるものを感じるし・・。
そんな訳で、誰でも知っているクリュイタンスは別格として、パリ音楽院管弦楽団と優れた演奏を遺している指揮者としてシルヴェストリ、フィストゥラーリ、デゾルミエール、アンセルメ、そしてマルティノンといった顔ぶれをこれまでにこのブログで紹介してきたが、他の名前についても、また機会があったら補足して語ってみたいと思う。
それは、ベルギー出身の名ソプラノ歌手シュザンヌ・ダンコが歌ったラヴェルの歌曲集<シェエラザード>で、伴奏が何とアンセルメ&パリ音楽院管弦楽団なのだ。1948年の太古録音なので音はさすがに悪いが、当時37歳ぐらいだったダンコの張りのある美声と、パリ音楽院管弦楽団の響きが実に良いのである。こんな音源に出会えるとは!
アンセルメがモノラル期に行なっていたパリ音楽院管弦楽団との演奏は、実は少ししか私は聴いていないのだが、いずれも印象的なものであった。1948年録音のR=コルサコフの<シェヘラザード>(※ダットン・ラボラトリーの復刻は、ここでも見事)では、パリ音楽院管から芯の太い音を引き出して、力強い音楽を作っていた。特に第1楽章が力演で、晩年のアンセルメにはない、凄い程の気迫がガンガンと伝わってくる。1954年に録音されたラヴェルの<ボレロ>と<ラ・ヴァルス>(L)あたりでは、曲自体の性格もあってかなり精妙な響きも聴かれるものの、やはり音色美以上に当時のアンセルメが放射していた覇気の方が、私の心には強く響いてきた。
しかし、このセットで聴くことの出来るシュザンヌ・ダンコとの歌曲集<シェエラザード>は、古い録音ながら、響きの色っぽさみたいなものがむしろ伝わってくる。こういう“お宝”に思いがけず出くわした時というのは、実に嬉しいものである。マニア冥利に尽きる、とでも言えようか。(※もっとも、アンセルメ&パリ音楽院管の録音としては、同じラヴェルの<ダフニスとクロエ>からの第1&第2組曲もあるようだし、さらにデュカの<ラ・ペリ>とか、ラフマニノフの<死の島>とか、ちょっとそそられるものがまだ秘蔵されて眠っているようだ。機会があったら、手に入れて聴いてみたいものである。)
さて先頃語ったデゾルミエールから、このアンセルメ&パリ音楽院管弦楽団という話の流れになると、ジャン・マルティノンの名前がふと思い出される。壮年期のマルティノンがパリ音楽院管弦楽団と遺したデッカの初期ステレオ録音は、数こそ少ないものの、すべて一聴の価値ある名盤ばかり。≪アダン(ビュッセル編):<ジゼル>全曲≫≪フランス音楽名演集≫≪プロコフィエフの交響曲第5&7番≫等、いずれも素晴らしい内容を持っている。
バレエ<ジゼル>については次回改めてトピックにしたいと思っているのだが、とりあえずマルティノンの指揮による<ジゼル>は、とても素敵な演奏である。使用楽譜はアンリ・ビュッセルによる編曲版とのことで、演奏時間はわずか40数分。もとのバレエを全曲上演すれば、約2時間弱かかるわけだから、かなり端折っているのがわかる。と言うより、事実上「全曲盤」とは呼べないものだ。しかし、ここで聴かれる演奏自体は非常に魅力的なものである。まず開幕の音楽からして、エレガントな活気に溢れている。きびきびと飛び跳ねるような「ワルツ」も良い。そして美しい旋律の魅力的な歌わせ方や、随所で発揮されるパリ音楽院管弦楽団の柔らかく魅惑的な響きが、心地良いひと時を与えてくれる。第1幕の幕切れの音楽はもう少し強く盛り上げくれてもよかったかな、というぐらいの小さな不満はあったが、全体的な印象としては、とても魅力的な名演奏に仕上がっている。
ところで先述の通り、カラヤン&ウィーン・フィルのコンビも、<ジゼル>の短縮版・全曲を録音している。しかし率直に意見を言わせていただくと、このコンビの演奏は、私には全くいただけない代物であった。おそらくカラヤン先生に言わせれば、「バレエの上演ではなく、コンサート向きのシンフォニックなアプローチをしてみたまでさ」ということにでもなるのだろう。勿論、いろいろな指揮者たちが様々な名作バレエをコンサート・スタイルで演奏している。しかし、「ここまで外されると、ちょっとなあ」という感じなのである。例えば、ウィリーたちが交差するあの幻想的な場面(※詳しいことは、次回)の音楽をあんな風にさっさかと気取ってやられても、聴いているこちらはさっぱり興に乗れないのだ。同じウィーン・フィルとのチャイコフスキーの≪三大バレエ~ハイライト集≫(L)も、懲りずに私はCDを買って聴いたのだが、そこでも思いっ切り外しまくっていたカラヤン氏であった。まあ、受け取り方は人それぞれではあろうけれど・・。
マルティノンに話を戻すが、≪フランス音楽名演集≫の中には、イベールの<ディヴェルティメント>、サン=サーンスの<死の舞踏>、ベルリオーズの序曲<ローマの謝肉祭>と<海賊>他、が収められている。中でもベルリオーズの序曲<海賊>は最高で、少なくとも私にとっては、この曲の断トツ・ベストの名演である。目まぐるしく運動する弦の荒々しい生命力、野蛮に吹き鳴らされる金管、鮮やかな色彩感、時代を超えた優秀な録音。この曲に関しては、ベルリオーズの使徒シャルル・ミュンシュ以上の出来栄えと絶賛したい。サン=サーンスの<死の舞踏>も、フランス国立管との再録音よりずっと魅力的である。<ローマの謝肉祭>も、昔はこの曲の代表的な名演の1つに数えられていた。
プロコフィエフの2曲については、私の個人的な感想としては、<第5番>の方がより良い出来なんじゃないかと思う。特に、木管楽器が強烈な個性を発揮する第2楽章が絶品。いかにもプロコフィエフらしい、忙しい音楽で開始される楽章だが、中間部で聴かれる管楽器、特にオーボエの音色には、くた~っと力が抜けてしまう。何だかもう、“万事休す”みたいな、この虚脱感がたまらない。まさに、パリ音楽院管ならではの魅力である。ロジェストヴェンスキーらに代表される本家ロシア風の名演奏とは異質なものだが、この馨(かぐわ)しき音色の個性には格別な魅力がある。<第7番>の方は、少し出来栄えが落ちるかなと思う。終楽章のコーダにドンちゃん騒ぎをくっつけたのも、私個人的にはちょっと賛成しかねるものを感じるし・・。
そんな訳で、誰でも知っているクリュイタンスは別格として、パリ音楽院管弦楽団と優れた演奏を遺している指揮者としてシルヴェストリ、フィストゥラーリ、デゾルミエール、アンセルメ、そしてマルティノンといった顔ぶれをこれまでにこのブログで紹介してきたが、他の名前についても、また機会があったら補足して語ってみたいと思う。
ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ、ラ・ヴァルス、ルーセル:バッカスとアリアーヌ第2組曲、ムソルグスキー/ラヴェル編曲:展覧会の絵と関西ではかなりレアなプログラムでしたから頑張って時間を作りました。
音は華やかな色彩で特に金管の豪華絢爛なこと。ブログを読みながら思わず思い出しました。フランスものってみんなこんな特徴なんでしょうか。派手好みの私には素敵に感じるサウンドでした。(^_^)v
ただラベルの編曲が原因でしょうが、展覧会の絵のキエフの最初の音は強力すぎる気もします。オリジナルのピアノの場合、わりとおとなしいめの音なんですよね~。
ピアノで弾いた経験者にはいつも違和感があります。(*^_^*)
基本的にすっきりした水彩画タッチの
淡い響きが印象に残る指揮者ですね。
今は入手困難かもしれませんが、ビゼー
の劇音楽<アルルの女>全曲盤を初めて
出したのが、この人でした。普通は「組曲」
しかやりませんから、全曲なんてものが
そもそもあるのか、と当時驚いたファンも
多かったのでした。私もそうでしたが・・。
juncoさんなら、きっとマニャールの
交響曲全集をお持ちのことでしょう。
これも国内EMI盤では、プラッソンが
指揮していましたね。ただ私は残念ながら
マニャールの交響曲には、ちょっとついて
いけませんでした。^^;)
全集じゃないですが2番は持っています。私もフランスの交響曲って苦手なんですが、どういうわけかこの曲とダンディの山人は違和感なく聴けるんです。(^_^)v
でも、指摘されるまで忘れていました。いい加減なことですみません(^_^;)