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クラシック音楽オデュッセイア

2025年正月、ついに年賀状が1通も来なくなった“世捨て人”のブログ。クラシック音楽の他、日々のよしなし事をつれづれに。

<シンフォニア・タプカーラ> 【改訂投稿】

2005年10月14日 | 作品を語る
伊福部昭先生の<シンフォニア・タプカーラ>については、約半年前の4月23日に一度記事を書いていたのだが、前回述べたとおりの経緯があるので、今回また改訂記事を書くことにした。4月の記事と重複する部分は文章を手直ししてスッキリさせた。

1.山岡重信の指揮によるLP(?)録音

学生時代にこれをFMで聴いたのが、私にとってのこの曲との出会いであった。いつ頃の録音かは不明。オーケストラ名も忘れてしまった。今再びこれを聴いたら、おそらくオケの響きの薄さとか、技術的な稚拙さとかが気になるんじゃないかと思う。これは仮にCD化されても、熱心なコレクター向きのアイテムということになりそうだ。

2.手塚幸紀&東響のキング盤(1984年2月21日・簡易保険ホール)

ライヴ録音だが、かなり克明な音質なので聴いていて心地良い。演奏については、きびきびとした第1楽章が特に活力溢れる好演。時には思い切りテンポを落として、粘りのある土俗感もしっかり打ち出している。ただ、第3楽章がちょっと残念。響きの薄さと、隠し切れないオーケストラの疲労色。このCDでは、同じ日のライヴで収録された<交響譚詩>で抜群の快演が聴ける。外山雄三や小山清茂の作品も収録されていて、充実の一枚。

3.芥川也寸志&新響のフォンテック盤(1987年2月1日・サントリーホール)

今回の投稿に際して、改めて聴き直した。オーケストラは芥川氏が生前手塩にかけていたアマチュア・オーケストラである。特に管楽器にそれらしさが出ているが、全体的には充実したサウンドを生み出している。芥川氏の薫陶の賜物だろう。後述する井上盤さながらに、速めのテンポで熱気ムンムン。改訂版楽譜による厚みのある響き。良い演奏だ。何よりも、安心して聴いていられる。「これが、伊福部音楽です」という感じ。第2楽章は、もう少しゆったりしてくれても良かったかな。不満と言えば、録音のとり方。おそらく天井からの吊り下げマイクを使ったんじゃないかと思われるが、2階席か3階席に座って下のステージを見下ろしながら聴いているような感覚だ。全体のブレンドはよくわかるのだが、個々のパートがくっきり聞こえないのがもどかしい。最近(2005年・初夏)、タワーレコードさんの企画でCD復活。(※このコンビには「改訂版による初演」の記録として、1980年4月6日の録音もあるらしいのだが、現在は入手困難な模様。)

4.金洪才&大阪シンフォニカーのVap盤(1987年9月13日・伊丹市文化会館)

4月に記事を書いた時には存在さえ知らなかったCDだが、「伊福部昭 映画音楽とクラシックの夕べ」と題されたコンサートのライヴ録音らしい。<タプカーラ>の他にも、<SF交響ファンタジー第1番>、<ロンド・イン・ブーレスク>、バレエ音楽<サロメ>が演奏されている。二枚組のCDで、それぞれの最後に各曲についての伊福部先生自身による短いコメントが収録されている。大阪シンフォニカーというのは私には初めての名前だが、響きからして小編成オーケストラのようだ。ただ、個々の楽器の技術的な稚拙さや、全体のアンサンブル・バランスの悪さからして、これはおそらくアマチュア・オーケストラだろうと思われる。

金洪才という指揮者の演奏を聴くのもこれが初めてだが、伊福部音楽の粘りのあるメロディをゆったり歌わせようとしている姿勢には好感が持てる。フレージングも、後述するナクソス盤の外国人演奏家に比べれば、遥かによく伊福部節をわかっている様子だ。第1楽章の出来が良い。第2楽章は、オーケストラの稚拙さによって指揮者の意図が十分に音になっていないのが残念。終楽章はもう少しアップ・テンポでわくわく感を盛り上げてほしかった。それと、コーダの部分が楽器バランスぐちゃぐちゃ。これは指揮者の責任である。演奏はともかく、このCDセットはバレエ音楽<サロメ>全曲が収録されているという点でかなり貴重だ。

ところで、Vapというレーベル名も私には初耳なのだが、<タプカーラ>全曲でトラック番号一つ、<サロメ>全曲でトラック番号一つ、という作り方には不快感を持った。<タプカーラ>なら楽章ごとに3つに分けるのが当然だろうし、<サロメ>なら7つのパートで出来ていると解説書にあるのだから、場面ごとに7つのトラック分けをするべきではないか。こういう手抜きをやっていると、消費者にそっぽを向かれるぞ。

5.井上道義&新日本フィル、他によるフォンテック盤(1991年9月17日・サントリーホール)

東京サントリーホールで企画された≪作曲家の個展≫シリーズの一環として、伊福部先生の作品が取り上げられた時のライヴ。このコンサートを、私は生で体験している。演奏については、かなり速めのテンポ設定がなされている。全体に亘ってそうなのだが、特に第3楽章コーダの追い込みなど、メチャクチャに突っ走る。当時の私はその速さに共感できず、すわりの悪い演奏に感じてしまったのだが、年月を経てCDで聴き直すと、これはこれで説得力があると感じる。第2楽章も速めながら、抒情味はしっかりと出ている。これも上の芥川盤(1987年)同様に、タワーレコードさんがCDを復活させてくれた(2005年・初夏)。

6.石井眞木指揮の新星日響盤(1991年12月13日・府中の森劇場)

伊福部御大の喜寿記念コンサートのライヴ。映画『ゴジラ対キングギドラ』が公開された時のものである。東京の府中市で行われた演奏会で、私はそのホールの客席から大喝采を送った聴衆の一人であった。つまり、これも生で聴いたのである。この時の演奏は、非常に良かった。第1楽章あたりは、石井氏の指揮棒が横に流れる動きのためか、「もう一つ、リズムに縦の切れ味が欲しいなあ」などと、にわか評論家気分で聴き始めたコンサートだったが、ゆーったりと歌う第2楽章から、土俗のエネルギーが爆発する第3楽章へと進んで行くうちにぐんぐん引き込まれて、演奏が終わった直後にはもう、我を忘れて夢中で拍手していた。私には最高の思い出である。

ただ残念なことに、これはCD、LDとも、音質が情けない。ライヴCDから与えられるこの種の失望は生演奏を聴いた人間にとっては日常茶飯の出来事だから、これも仕方のない事と諦めねばならないのだろう。当夜の熱狂はどうやら、そこに居合わせた者達だけの思い出の宝石になってしまったようである。

7.《1994年10月・傘寿記念コンサート》

残念ながら、これは未聴。

8.広上淳一&日本フィル盤(1995年)

私はこのCDを買って、一回聴いて、腹が立って、即座に売り払ってしまった。第3楽章でとりわけ顕著なのだが、複雑なリズムで錯綜する管弦楽が、とにかく透かし彫りのようにきれーいに分解されて白日のもとに開陳されているような演奏である。“熱狂”というすぐれて情緒的な要素も、並んだ音の響きの物理的な結果の一つに過ぎないとでも言っているかのように、現象としての音だけが鳴り続ける。私の趣味にはどうにも合わない演奏だ。

9.石井眞木&新響による《2002年5月19日・紀尾井ホールでの米寿記念コンサート》

石井氏らしさがよく出た、、好ましい演奏である。土俗的な旋律をゆったりと歌わせることへのこだわり、そして重低音に対する偏愛が顕著に表現されている。しかし、ここでは、オーケストラがアマチュアということに起因する弱点も同時に出ているようだ。第1楽章の金管、第2楽章のフルート等、いかにも「腕にちょっと覚えのある素人が吹いている」という感じだ。そして全体的に、弦の仕上げも幾分粗い。石井氏の表現についても、例えば第2楽章あたりを上述の’91年府中ライヴと比べると、いくぶん表情が淡白であるように聴こえる。が、そうは言っても、これは<タプカーラ>の優れた演奏の一つであることは間違いない。これを生で体験なさった方には、きっと良い思い出になっていることと思う。音質的にもこちらのCDの方が、’91年盤よりずっと好ましい。

10.D・ヤブロンスキー&ロシア・フィル(ナクソス盤)

外国人演奏家によるトホホ演奏。聴き終える前に途中で止めようかと思ったのを何とかこらえて聴き通し、その後がっくりとうなだれてしまった。全編通して、テンポもフレージングもバランスも、とにかく全部が変。第2楽章も、ただスタスタと進めていくだけ。ロシアのオケらしい土俗的な響きが第3楽章の冒頭で聴かれて、「おおっ」と思わせるのも束の間、すぐに指揮者の棒に起因するトンチンカンな音楽になってしまう。楽譜だけによる音楽再現の難しさを、つくづく思い知らされる一例だ。1955年1月26日にこの曲の世界初演を行ったフェビアン・セヴィツキー&インディアナポリス響による演奏の録音テープを聴いた伊福部先生が、「リハーサルに立ち会わず、楽譜だけを送るとこんな事になるのか」と絶句なさってしまったことを後に述懐しておられるが、この演奏などもまさにその類(たぐい)と言えるだろう。


(PS) <シンフォニア・タプカーラ>と映画音楽(その2)

4月に<タプカーラ>の記事を書いた後、新たに伊福部先生の映画音楽集CDを何枚か聴いたのだが、前回ご紹介した『大坂城物語』とはまた別の転用箇所を発見した。あの有名な座頭市(ざとういち)の映画である。少し前に北野武監督・主演で話題になった座頭市だが、伊福部先生が音楽を手がけたのは、故・勝新太郎主演による古い大映映画の方だ。『座頭市物語』(1962年・大映)の中で、若き日の天知茂さんが演じた平手造酒を心ならずも倒した市が悲しみにくれる場面、そこで流れる「苦い勝利」と題されたナンバーの中で、<タプカーラ>第2楽章の旋律がほんの断片ではあるが出てくるのである。

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4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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人形風土記のCD (Junco)
2005-10-15 18:24:55
ありがとうございました。調べたらありましたのでさっそく注文しました。待ち遠しいなぁ。(^o^) もう一曲の方は知らない曲なのでよけい楽しみです。



タプカーラは伊福部さんの思い入れの強い曲のようですが、それ以上に演奏の違うCDの多さが驚きです。私は芥川さん指揮の改訂版を持っています。演奏団体がアマオケだって信じられないくらいレベルの高い演奏ですね。(^_^)v



座頭市に転用されているのはビックリですが、なんとなく映画音楽ぽいですからあっても不思議じゃないです。ぼんやり聴いていると古い映画を見ているような錯覚に陥ることがあります。(^_^;)
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人形風土記の (Junco)
2005-10-18 14:48:14
CDが届きました。(^o^)



これってジャケットにのっているレコードのリメイクCDなんですね。



これを持ってました。なつかしい~♪。ということで「子供のための組曲」も知っていました。(^_^;) でも演奏のテンポがこんなに遅かったかなぁとか思ったりして。



久しぶりに素敵な曲が聴けました。ありがとうございます。m(_ _)m
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もう一人のjuncoさん、現る? (甚六)
2005-10-19 17:38:29
<人形風土記>が入手できてよかったですね。



そう言えば、juncoさんのブログで紹介されていた女性、なぜかパパゲーナではなく、男性名のパパゲーノを名乗っておられる宝塚派(?)の方のブログを先だって拝見しました。



juncoさんと共通する点をたくさんお持ちの方であるようにお見受けしました。「アシュケナージが好きだと?他のピアニストも聴いたうえで言ってるのか。」なんて、もうjuncoさんそのもので、笑ってしまいました。



その方のブログは、私はROMさせていただくだけにしようかと思っていますが、テンションの高い方なので何とも楽しみです。



juncoさんブログの最近の記事も拝見しました。いつもながら、写真がいい!今回は特に、あの顔を伏せたネコちゃんが最高です。文章もjunco節絶好調でしたね。また楽しく読ませていただきます。
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Unknown (ガメラボーイ)
2011-06-07 20:17:56
タプカーラの第一楽章は米寿のやつが1番だとおもいますけどね~ (´・д・`)
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