セールス・ガールの考現学/ジャンチブドルジ・センゲドルジ監督
女子大生の主人公は、そんなに仲良しでもない同じ大学の友人がケガをしたために、代理でポルノ・ショップでアルバイトをさせられることになる。客はまばらだが着実にモノは売れるようで、バイヤグラなどの薬なども扱っていて、商売は堅調のようである。閉店後はその店の女性オーナーのマンションの部屋に売上金を届けることになっていて、この女性オーナーと不思議な縁のようなものができるようになっていくのだったが……。
モンゴル映画で、劇中に大草原が出てくる場面はあるものの、しかしほとんどは都市の空間でのエピソードが中心になっていて、さらにアダルトグッズばかり見せられるし、いちおう裸もある。映像や音楽の使い方も斬新で、なかなかにポップで素晴らしい。物語に深みもあり、友人や犬などのエピソードもなかなかに示唆的で、妙に感心させられる。主人公の女性は、最初はちょっとやぼったい感じに見えていたけれど、だんだんと魅力が増していくような印象を受けた。別段エッチな魅力なのでは無いが、不必要に裸にもなるし、素晴らしいのではないか。科白は多くは無いが、語るべきところではちゃんと語る訳で、そういうところに芯の強さも感じさせられる。おとなしいけれど、怒るところは怒って反抗する。女性への脱皮の物語かもしれないし、自由な生き方への成長物語なのかもしれない。妙な題材を使いながら、実に見事で面白い。モンゴル映画なのに意外だという声は事前に聞いていたのだが、確かにこれは、僕らが持っているモンゴルの印象を、ほぼ書き換えることになるだろう。モンゴルは、強い相撲取りを生み出す大地の国だけなのでは無いのかもしれない。そんなのあたりまえのことなのだが、僕らはそんな印象で、自分の殻に閉じこもっているだけのことなのである。
モンゴルにも大学生はいるし、アダルトグッズを必要とする人々がたくさん住んでいる。ロシヤとの関係もあるし、金持ちもたくさんいるようだ。草原に住んでいる人ももちろんいるけれど、その人たちが必ずしも中心となっている国民ではない。だからこそこのような映画が作られて、そうしてこれを観る人々がいるはずなのである。それをまた観る僕のような外国人もいるわけだが……。こんなに楽しい映画が作られているのなら、もっと輸出して欲しいものである。