あなた、その川を渡らないで/チン・モヨン監督
韓国のドキュメンタリー映画。老夫婦の日常を追ったもので、題名の通り夫が死ぬまでの日々を撮影している。妻は14の時に嫁いできたらしく、9歳上の夫(現在は98歳らしい)と仲良く暮らしてきた様子だ。雪が降れば雪合戦するし、掃除中水を掛け合ったりしてたいへんに仲が良い。むしろちょっと異常さを感じさせられるほどに、仲が良すぎるとも感じてしまう。これが若い人だったら、いわゆるラブラブすぎて辟易させられることだろう。
さらに彼らは、よくおそろいの民族衣装を着ているのだが、これが派手すぎて格好が悪い。その格好で作業をしたりして、大丈夫なんだろうか、と心配になったりする。おばあちゃんが良くしゃべるので、背景は段々と分かっていって問題ないが、外国のドキュメンタリーではよくある無説明の日常映像なので、いったいこの人たちは何なのかというのは、かなり時間を経ないと分かりづらい。それが一種の謎解きの興味になっているのだろうが、韓国の状況が分からないので、ラブラブすぎてちょっと変なお年寄りカップルという印象がぬぐえなかった。まあ、ふつうの人は感動して泣いてしまうらしいから、それは僕の方に問題があるんだろうけど。
しかし脚本も無いのに、韓国らしい風景も良くとらえている。おじいちゃんの誕生日祝いに、子供や孫家族がたくさん集まって、いわゆる宴会をやる。みんなで食事して、大変に幸せな風景だったのだけど、長男がちゃんと面倒を見ていないなどと批判する妹(おばちゃん)が暴れたりして、ものすごく雰囲気が悪くなる。こんな演出、映画としてやろうと思ってもなかなかできない。韓国の人々は興奮しやすくて、非常に映画的に絵になるなあ、と思った。こんな嫌な気分というのは、映像としてそんなに撮ることはできない瞬間ではなかろうか。素直に素晴らしいです。
おじいちゃんが徐々に具合が悪くなって、医者から薬さえもらえなくなる(どうせ効かないんだそうだが、そんなことがあるにしても、自宅放棄は無いだろう。というか、あちらの医療は怪しい)が、そういうところも克明に記録していく。とうとう死んでしまって、このおばあちゃんどうなるんだろう、と思った。後で知ったが、この映画が大ヒットしたせいで、取材などがこのおばあちゃんの生活を壊してしまったということだ。映画の質そのものとは関係のないことだけれど、ドキュメンタリーって怖いものもあるかもしれない。