僕には娘はいないのでそんなに実感を持って考えたことが無かったが、いわゆる風俗嬢というのは、地方出身の女子大生が供給を支えているという現実があるんだそうだ。いろいろ原因はあるわけだが、第一はもちろん経済的理由だ。しかしながら決して貧困ということではない。貧困ではないのだが、じゃあ遊ぶ金欲しさなのか、ということでも違う。まじめな学生だからこそ、風俗関係で仕事をせざるを得ないということらしいのだ。
高校を卒業したての女の子というのは、当然ながら社会経験に乏しい。曲りなりに接客を必要とする酒の席などの対応が上手くやれない、というのが第一にあるという。性を提供する方が簡単だということだ。考えてみるとそういうケースは外国人などにもみられる。日本語が得意でなくともベッドなら入れるということかもしれない。もちろん、そればっかりではないけれど。
要するにスキルが無くてもとりあえずできる仕事(なんだろうか?)として、選択せざるを得ないということらしい。それでも選ばないのが普通じゃないかと考える向きもあろうが、これがやはり真面目な人ほどそうではないという実例がある。
神戸大学法学部三年の鈴木さん(もちろん仮名)は、東北の地方進学校出身。大学近くの家賃4万円のアパート住まい。大学は皆勤。一年生の時は塾や家庭教師や掛け持ちのバイトなどで、週に5,6日働いても(月に)12万程度だったという。ちなみに全国の学生の調査によると、親からの仕送りのみで生活が可能な学生は33.7%である。鈴木さんは何よりも学業を優先したい思いが強く、さらにかなり無理をしてもその程度の稼ぎにしかならず、親に負担をかけたくないというのも理由にあったようだ。
最初はファッションヘルス。専門課程に入った三年生からはソープランドへ転職。出勤は週三回。平日だと授業を終えて遅出で二本(要するに二人相手にするということらしい)、土日で三四本くらいだという。現在はソープランドでも高級店で、客の料金は4万5千円。手取りは一人当たり2万円といったところ。月にだいたい50万くらいにはなるので、貯金もできている。卒業後に公務員試験を受ける予定で、社会人生活をスタートする資金も計画的にためているという。
週6日働いていた1年生の頃に比べると、学生生活を維持するための必要な労働時間は激減。「本当にありがたいし、風俗嬢になってよかったとしか思えない。風俗がなかったら大学生を続けることは不可能だったと思う」といい。経済的な心配もなくなり、しっかり勉強できる環境になったという。
なんだか大変にいい話になっていて、衝撃度も大きい。確かに彼女の場合には悲惨さは微塵も感じられない。多くの風俗嬢にとっては、仕事は完全歩合制でやりがいもあり、店で同年代の友人もできて、実際に楽しいという。もちろん最初はびっくりするらしいが、たいていは何日かで慣れるということだ。
江戸時代の身売りの娼婦の話のようなものばかり映画やドラマになり、僕らはなんだか間違った認識でこの世界を観ているのかもしれないと思ったことだった。
※参考文献:日本の風俗嬢/名村淳彦著(新潮新書)