ジョパンニの島/西久保瑞穂監督
終戦後の9月になって、いきなりソ連に占領されてしまう北方四島の一つ、色丹島での生活を描いた作品。ソ連による蛮行を告発するというより、色丹島で暮らす家族と、子供の目線から戦争を描いたということになるのかもしれない。
ソ連兵はいきなり上陸して島を占拠し、島民の自由を奪うばかりか、漁業を禁止し主たる物資を没収し、捕虜をとらえシベリアに移送したり、住居を奪ったりする。そういう立ち振る舞いに島民はなすすべがないばかりか、脱出を試みて事故にあい、命を失ったりしている。悲惨極まりない世界にありながら、しかし子供たちはあんがいソ連の人たちに興味を示し、子供たち同士では交流があったりする。お互いに意味は知らないまでも、お互いが歌っている歌をけなげにいつの間にか歌えるくらいになってしまったりする。そうして主人公の少年は、家を奪った将校の娘にほのかな恋心を抱くのである。
もともと主人公の父親が銀河鉄道の夜が好きらしく、息子の名前は登場人物のジョバンニをもとに淳平、カンパネラをもとに寛太と名付けている。子供たちは何度もこの物語を朗読させられて、物語にもなじんでいる。おもちゃの列車を走らせて、銀河鉄道の夜的な空想世界に遊んだりしているのである。
確かに悲惨な思いをしながら、しかし子供はそういう状況も楽しむことができる。もちろん親が居なくなって、命を懸けた冒険じみたこともするのだが、大変に運よく、何とか生きながらえることができた。戦争を生き延びるというのはそのような運が無ければ不可能で、しかしやはり多くの命は、簡単に失われてしまう。たくましく生き延びているのは、狡猾で不真面目なおじさんなどのような人もいるが、ある程度の無邪気さが必要なのかもしれない。まじめで一徹な生き方をしていると、さらに窮地に立たされるようなことに巻き込まれてしまう。見ようによってはそのような教訓は得られるわけだが、しかしその時代を振り返ってみても、主人公は戦争を恨んでいるような訳ではないのである。皆単に時代と場所が悪かっただけなのだろうか。
もちろん過去をあげつらったとしても、その失われたものがかえってくるわけではない。思い出されるいい思い出を、抱いて生きていく方が幸福だということだろうか。反戦モノには違いない作品だが、少し抑圧の効いたファンタジー作品ではないだろうか。そうして普通のロシア人がこの映画を目にするといいのだけれど…。